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異世界税関の日々  作者: あかべこ


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異世界税関、発足 1

2024年4月1日、国立博物館脇の廃駅跡地はちらほらと観光客がカメラを向けていた。


まだ朝の6時過ぎだというのに元気なものだと思うけれどその大半はこの門から出てくる異世界人が目当てなのだろう。


そんなざわめきを尻目に緩やかな坂道を登っていくと十字路に差し掛かる。


四つ辻を睨む位置にある6階建て雑居ビル、30年ぐらいは経っていそうなちょっと古めのビルだ。


1階は常に扉が開いており、看板には入国審査を表す2種類の文字が吊り下げられている。


ビルに入って右手の大広間は入国審査が行われており、さっそく数人が椅子に座って待っている。


それを横目にスルーしてまっすぐいけば階段と小さめのエレベーターおり、躊躇なくエレベーターのボタンを押せば大人3人も入ればぎゅうぎゅうの狭さと古さだ。


3階のボタンを押してエレベーターを見渡すと【体が不自由な人・5階6階の検疫所ご利用の方優先でお願いします】の文字が目に入る。


(……ニートに階段はきつすぎんだけど)


登るのやだなあと思いながらはーっとため息を漏らせばエレベーターは3階へ到着した。


「あ、最後のひとりが来たね」


「どうも」


そこにいたのは中年から20代後半ぐらいまでの男女5人。


今日から私の職場の仲間になる人々である。


「はじめまして、対平行世界関税税関長の大曲尚嘉(おおまがり・なおよし)です」


そう言って笑いかけてきたのは気の弱そうな中年のちょい頭薄めのおじさんだ。


表情とか物腰とかが茹ですぎたうどんって感じがする。うまく言えないが。


「自己紹介できる?」


丸山莉乃(まるやま・りの)です、これからよろしくお願いします」


軽く頭を下げつつ自分の名前だけ伝えると私と同じくらいの青年から「どこから移籍してきたの?」と問われる。


「どこ、といわれても」


「平野くん、丸山さんは今年初採用の新人さんだよ」


「なるほど。あ、俺は東京税関成田空港出張所から来ました平野慎吾(ひらの・しんご)です。こっちは相棒のカタッポ」


平野さんの隣には右前足だけ白い黒の大型犬が大人しく座っており、思わずしゃがんで視線を合わせてみる。


「可愛いですね。本当に片っぽ脱げてる」


「でしょ?でもこの子は俺の相棒でこの税関では麻薬・爆発物探知犬として頑張ってくれる予定なんですよ~この片っぽ脱げた感じが最高にキュートですよね~誰にでも触らせてくれる愛想のいい子なんですけどお仕事の時は本当にまじめで~「平野くんストップ」


大曲さんからのストップが掛けられるとちょっと残念そうな顔になった。


ついでに私もカタッポの頭を撫でてから立ち上がる。ずっとしゃがんでると膝痛いしね。


「次は扇くんかな」


「門司税関苅田出張所から来ました、扇智(おうぎ・さとし)です」


そう名乗ったのは小さくて神経質そうなお兄さんだった、年はたぶん40前後ぐらいだろうか。


しかし、明らかに扇さんの視線が私の下から来てる。


「ちっさ……」


「きさん今ちっさいっち言うたな?」


あ、これは小さいが禁句なパターンだな。


「でも小さいものは小さいですし」


「あ゛?゛言うたらいけんことも分からんのか!」


怒れるフレンチブルと言う感じだ。ブチギレなのは分かるが小さいので威圧感がゼロだ。


この状況下に大曲さんはちいかわよろしくはわわ……しており、他の女性陣がどうすんのこれと言う顔をしている。


そんな状況をぶち破ったのは近くにいた大柄なお兄さんの「まーまー」と言う一言だった。


「まだ初日なんだから、喧嘩はよくないよー」


「柱谷……」


「俺は柱谷深愛(はしらたに・しんえい)っていいますー、前は那覇空港で事後調査の担当してたからここでもその担当になる予定だよー」


柱谷と言う苗字だけあって柱のようにデカい、たぶん190以上あるなこれ。ちょっと色黒なのもあって川越でよく売ってる長い麩菓子みたいだ。


「ただいまーっす。あれ、なんか一人増えてね?なに新人?」


ひょっこり現れたのは公務員にしては派手なギャル風メイクをした若い女性だ。


「あ、はい」


「ここも新人いんだねー!あーしは三葉結衣(みつば・ゆい)、佐渡生まれ佐渡育ちの27歳!担当は保税!よろしく!」


三葉さんもまた別方向のマイペースさで拭いたばかりの手で私の手をぶんぶんシェイクすると満足したように去っていく。


それを何とも言い難い顔で見送っていった大曲さんは、何かを思い出したように「三角さん!菱刈さん!」と2人の女性の名前を呼んだ。


ずっとこの状況を見守っていたぽっちゃり目中年女性と私と同じぐらいの年代の女性だ。


「丸山さんはしばらく二人と一緒に行動してもらうよ」


「はじめまして、三角紗雪(みすみ・さゆき)です。仕事は教えられるけど、大阪から来たばっかりで東京は不慣れやから東京のこと教えてくれると助かるわ」


三角さんは何というか、ちょっと小奇麗な大阪のおばちゃんと言う印象だ。


服装は小奇麗なスーツと革靴なのに、ポケットからはみ出すパインアメとかよく見ると虎柄のワンポイント入り靴下とか隠しきれない大阪のおばちゃん臭がする。


「長崎税関鹿児島税関支署から参りました、菱刈家23代目当主令嬢の菱刈真春(ひしかり・まはる)ですわ。わたくしがみっちりしっかり仕事を教えて差し上げますので、ちゃんという事聞いてくださいね?」


芝居がかったお嬢様口調でそんな事を言い放つ姿は、まるでどこぞのVtuberのようだ。


菱刈家と言うワードがふと気になって数分ほど脳内検索をかけると一件引っかかるものがあった。


「島津の分家筋の人か」


「あら、よく分かりますわね。その通りわたくしは島津の血を引く名家の跡取り娘ですの」


「でも所詮は分家筋だしあんまりお嬢様でもないよね」


「……どういうことですの?」


「母方の実家、一橋徳川家」


菱刈家が名門だというなら私もお嬢様の部類になるだろう、と思って言い放ってみると三角さんやその場にいた人たちがえ?という空気になる。


「一橋徳川から嫁に出た丸山……あなたのお父上、出入国在留管理庁の丸山長官ですわね?!税関長!この子コネで入れたんですの?!」


「あ、いや、その―……」


今すぐに死にそうな顔をして子猫のごとく怯える大曲さんと全力で責め始めた菱刈さんを、私は生ぬるく見守るのであった。

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