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『さよならバイバイはまだ早い』

 魔界。

 城塞都市ノクターニアにある魔王城の最下層――魔王の間。

 シルヴェリアは、側近のアルラが淹れてくれたコーヒーを飲みながら書類仕事をしていた。


「承認、承認、これも承認」


 ポン、ポンとリズムよく印鑑を押していくシルヴェリア。

 シルヴェリアは魔王である。

 腰まで届く透き通るような銀髪。燃え盛る炎を連想させる深紅の瞳。

 漆黒のドレスを身に纏い、禍々しくも美しい棘のようなティアラとイヤリングは魔王である証。

 数万年の時を生きるシルヴェリアの強さは神に等しく、魔界最強として恐れられていた。

 現在、人間界と魔界は戦争中。戦況はやや魔界優勢。

 先日の侵攻では、魔王軍四天王の1人であるレヴィアが人間界を代表する七大将軍の1人を討ち取ったことで、重要な貿易拠点の1つである港町を陥落させた。

 貿易拠点である港町を奪われただけでなく七代将軍の1人まで討ち取られてしまえば、国王も黙ってはいられない。

 近々港町奪還のために勇者を派遣してくるだろうと予想したシルヴェリアは、アルラに戦力の配置について相談するべく呼び出し用のベルを手に取る。


「アル――」


 アルラを呼び出そうとした時、魔王城全体に凄まじい揺れが襲い掛かる。

 塔のように積み上げられた書類がバラバラと落下するだけでなく、飲みかけのコーヒーがこぼれてしまい絨毯を黒く染める。


「ああっ……」


 後処理のことを考えてしまい、涙を浮かべるシルヴェリア。

 書類整理だけでなく、絨毯に付いたコーヒーのシミ抜きもしないといけない。

 次から次へとやることが舞い込んでくる。

 余計な仕事を増やしたのは誰だと、魔王直々に裁きを下してやろうと、魔王の間から出ようとした時だった。


「魔王様ぁぁぁぁっ!!」

「ぎゃふん!!」


 勢いよく開かれたドアが、シルヴェリアの顔面にクリーンヒットした。

 激しく回転し、宙を舞うシルヴェリア。

 ドアの威力がどれくらいなのかは吹き飛び方を見れば一目瞭然。


「魔王様、大変です!!」

「ア、アルラァ……大変、なの、は、ワタシだっ……」

「魔王様!! ボロ雑巾のように床に落ちている場合ではありません!!」

「誰のせいだと……」


 痛む顔を押さえながら、よろよろと立ち上がるシルヴェリア。

 魔王の間に飛び込んできたのは、魔王軍四天王の1人にして側近のアルラだった。

 膝の辺りまで伸ばされた紅色のポニーテール。宝石のように輝く金色の目。

 軍服と軍帽を着用。黒い手袋とロングブーツ。


「緊急事態です!!」

「緊急事態はこっちのセリフだこのバカアルラ。顔も痛いしコーヒーもこぼれたし書類もバラバラになったし、くだらないことだったらお尻ぺんぺん1時間だからな」


 シルヴェリアが不機嫌そうに言うと、アルラは大きく深呼吸して苦笑交じりに言ってくる。


「お尻ぺんぺん1時間も魅力的ではありますが、そんなことを言っている場合ではありません。魔王城に終焉竜エンドラシアが現れました」

「……にゅ?」


 アルラの発言に、シルヴェリアは言葉ですらない声を出してしまう。


「なんですかにゅって可愛い声出しますね」

「聞き違いかもしれないからもう一度言ってくれるか。魔王城に何が現れたって?」

「終焉竜エンドラシアです。1万年前、終焉ノ島に封印した」


 アルラの報告に、理解不能といった表情を浮かべるシルヴェリア。

 終焉竜エンドラシアは、世界連合の力を結集させて1万年前の決戦にて終焉ノ島に封印したはずである。

 何重にも施された封印は決して解けることはなく、封印を解くには各界代表の力を結集させなければならない。

 各界代表を超える力を持つ者ならば可能かもしれないが、現代には存在しない。

 各界代表を超える力を持つのは、終焉竜エンドラシアと創世竜アーテルシアの2体だけなのだから。


「……それで、被害状況は」

「各拠点からの連絡は途絶えていますので確かな情報はありませんが、ちょこんと触れられただけで魔王城を守る最強の4重結界が消滅しました。勝てる気がしないので中庭にご案内しています」

「シンプルな説明で分かりやすい。さすがアルラだな」


 シルヴェリアが魔王に就任してから現在に至るまで、魔王城を守る4重結界は一度たりとも破られたことはなかった。

 勇者の聖剣、精霊王の世界樹の弓、天王の聖槍でも1~2枚割れるかどうか。割れたとしても即座に修復してしまうので破壊は不可能。

 唯一突破する方法としては、概念ごと消すか在るべき姿に還すしかない。

 そんなことができるのは終焉竜エンドラシアと創生竜アーテルシアだけである。


「全身を覆う漆黒の鱗。蒼紫色の眼。逆向きに湾曲した黒い二本角。そして、膜翼から舞い落ちる黒い霧。終焉竜エンドラシアで間違いありません。本日を以て世界は終焉を迎えます。さよならバイバイ」

「1万年前、実際にその目で見ているアルラが言うのだから事実なのだろうな。しかし、さよならバイバイはまだ早い」

「魔王様、倒せるんですか」

「終焉竜エンドラシアは終焉という概念そのものだからな。創世竜アーテルシアのサポートも無く、勇者と精霊王と天王抜きでどう勝てと」

「では、さよならバイバイじゃないですか」

「よく考えてみろ、ワタシを殺したいのなら魔王城ごと消し飛ばしているはずだろう。そうしないということは私を生かさなければならない理由がある。上手くいけば話し合いでなんとかなるかもしれないぞ」

「終焉竜エンドラシアの前で、魔王様は正気を保てます?」

「……」

「ダメじゃないですか!!」


 ぷるぷると震えるシルヴェリアを見て、アルラは絶叫するのだった。

アルラさん、勝ち目の無い相手には戦いを挑まない。

正しい判断ですね。

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