『島を消し飛ばしましたが、正当防衛ですよね?』
「ヒカリなんか知らない。まさか開始1秒で殺されそうになるなんて思わなかった」
「あうう、ご、ごめんぅ……か、感覚が掴めなくてぇ……」
「ぷいっ」
「ぐすっ」
「ああっもうウソだって!! ごめん、許すって許すから泣かないでよ!!」
傍から見れば恋人のようなやり取りをしながら、ヒカリとミレイアは海上を飛行していた。
海にはモンスターが多く生息しており、特に終焉ノ島付近は凄まじい強さの個体が多い。1体討伐するだけでも軍を動さなければならないほどである。
――ほんの一部を上げるならば。
リヴァイアサン・スケルトン。
肉体は朽ち、骨と怨念だけとなった超巨大な海竜の成れの果て。
物理攻撃は一切効果なく、光魔法を使える者がいなければダメージを与えることすらできない。
メモリージェリー。
美しく幻想的な光を放っている半透明の巨大クラゲ。
触手には記憶を抹消する毒があり、刺されてしまえば自分が人間であることすら忘れてしまう。
記憶喪失になり行動できなくなった瞬間、海に引きずり込んでしまうのだ。
この2体も恐ろしいが、出会えば死が確定していると恐れられているモンスターがいる。
それは、ヴォイド・ホエール。
実体を持たず、影として存在する超大型クジラ。
鳴き声は聞こえるが、姿は見えない。
通りかかった船を影の中に引きずり込んで、異空間へと飛ばしてしまうのだ。
全てを見通す神ノ目を持つ者であれば観測可能だが、保有者はごく少数。
「モ、モンスターがいっぱいだね……」
「終焉ノ島付近にはSランクのモンスターがうじゃうじゃいるからね。船で渡るのはまず無理」
Sランク。
ファンタジー小説でよく耳にする設定が聞こえ、ヒカリは少しテンションが上がる。
ファンタジー知識のあるヒカリはなんとなく想像できてしまうが、念のために詳しく聞いてみることにした。
「ミレイア、ランクってなに?」
「ああ、ヒカリにはそこから説明したほうがいいよね……あれ、したほうが、いいのかな? なんか人間っぽいから当たり前に会話してたけど、ヒカリって人間じゃなくてモンスターなんだよね」
「私ってモンスターなんだぁ」
気の抜けるような声で、改めて自分がモンスターであることを把握するヒカリ。
「まぁいいや。モンスターについて分かりやすく説明するね。モンスターの危険度ってSランクからEランクまでに分類されていてSランクは国を滅ぼす力を持ったモンスターだよ」
「私は何ランクなの?」
「終焉竜エンドラシアはモンスターというよりもほぼ概念扱いだからランク外かな。あ、あと創世竜アーテルシアも」
「創世竜アーテルシアって?」
「世界を終わりに導く終焉竜エンドラシアの対となる存在で、世界を始まりに導くドラゴンだよ。まあ、簡単に言うとこの世界で唯一のヒカリの天敵」
「怖いなぁ」
「心配しなくても、終焉竜エンドラシアと相打ちになって死んじゃったって話だから安心していいよ」
「よかったぁ」
良くはない。
ヒカリの転生先が終焉竜エンドラシアでなかったら、封印が解けた時点で世界が終わっていた。
「Eランクはスライムとかゴブリンとか、誰でも倒せちゃうような弱いモンスターだよ」
「ミラージュウルフとかクリスタルゴーレムは何ランクなの?」
「どっちもAランクだよ。ミラージュウルフとクリスタルゴーレムはAランク魔導士5人掛かりでようやく倒せるか倒せないかくらいの強さなんだけどね」
「そうなんだぁ」
苦笑するミレイアと、照れくさそうにするヒカリ。
「あっ、ヒカリに1つだけ聞きたいことがあってね。人間族、魔族、天翼族、精霊族の世界連合が終焉竜エンドラシアを封印できたのも創世竜アーテルシアとの戦いで瀕死状態だったからって神話に書かれているんだけど、それってほんと?」
「覚えてないなぁ」
「えー」
覚えてないというか、知らない。
私の記憶は、終焉ノ島の洞窟で目覚めた以降しかない。
「まあ、1万年も封印されてたら記憶も曖昧になるかぁ。ドラゴンなのに飛ぶのは初めてとか言ってたもんね」
「う、うん……」
「しっかし、今でも信じられないよ。人見知りで可愛いヒカリが世界を滅ぼそうとしていたなんて……まさか人と話すのが恥ずかしいから!?」
「ち、ちがう……と、思う」
「思う!?」
「あーだこーだあってそうなったんだと思う」
「そ、そっかぁ……!! まったく分からないけど……!!」
エンドラシア本人に聞いてみないと分からない。
ヒカリの転生後、エンドラシアの魂はどうなってしまったのか。
消滅したのか眠っているのか。
「……あっ」
あれから何時間経過したか。
日が沈みかけてきた時、小さな島が見えてきた。
「魔界に入ったね。へえ、こんな端にまで拠点を構えてるんだ。攻め入る隙が無いね。人間族が船で攻め込もうとしても沈められるし、空から攻め込もうにも撃ち落とされちゃうね」
「撃ち落とす……!?」
「ほら、魔族の飛行部隊が動き出した」
「や、やめてよぉ!!」
小さな島から魔族の飛行部隊が迫ってくる。
ワイバーンに乗った魔族、黒い翼の生えた魔族、浮遊する物体に乗った魔族など、殺意マシマシである。
「巨大なドラゴンが接近!! 直ちに撃退せよ!!」
「人間族が乗っている!! 漆黒のドラゴンに乗った人間族が攻め込んできたぞ!!」
「ひゃああっ!! ミミミミミレイアどうにかしてぇ!!」
「口からブレス撃っちゃえばイチコロじゃん。先に襲ってきたのは魔族だしおっけーだよ。てか、撃ってくれないと私が殺されちゃう」
「あう、あうう……」
ヒカリが迷っていると、黒い翼の生えた魔族が炎魔法を撃ち出して浮遊する物体に乗った魔族が砲弾を撃ち出してきた。
飛行部隊の数は20人くらい。
「ヒカリ、炎魔法と魔力砲弾だ!! やばい!!」
「え、えーい!!」
ヒカリの口から撃ち出された黒いブレス。
溜めはなく、人間に例えるなら誕生日ケーキのろうそくを消すために軽く息を吐く程度。
しかし、終焉竜エンドラシアともなれば。
襲い掛かってきた魔族の飛行部隊もろとも小さな島を消し飛ばしてしまった。
「「……」」
悲鳴は無く、耳に入ってくるのは海上にぽっかりと開いた巨穴に海水が落ちる音だけである。
正当防衛の成立は厳しい。明らかな過剰防衛。
「ヒカリすごーい!! 魔族の飛行部隊といえば精鋭中の精鋭!! 溜め無しで撃ったブレスなのに一瞬で島ごと消し飛ばしちゃった!!」
「え、えへへ……」
「魔王さえ生きてればおっけーだし、喧嘩を売ってくるやつはどんどん蹴散らしていこう!!」
「れっつごー!!」
それから魔王城へと到着するまでに、ヒカリのブレスと膜翼から舞い落ちる死の瘴気で何体の魔族が犠牲になったのか。
後々の発覚で魔王が絶望することを、ヒカリとミレイアは知らない。
魔王逃げて。




