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『旅立ちは絶叫と共に(初フライトは命がけ)』

「ここが私の家だよ」


 終焉ノ島の奥地。

 巨大な滝の裏側にできた空洞にミレイアは住んでいた。

 身体の大きいヒカリは中に入れないので、背中の部分を滝に打たれながら頭だけ突っ込んでいる状態である。

 冷たいのはもちろん滝の威力が凄まじいので、頑丈な鱗のおかげで痛みは感じなくとも衝撃と音がうるさい。


「す、すごい……」

「ふっふっふ、家具は全て現地調達だよ。終焉ノ島で採れる素材は全て一級品だからね。人間の市場で売れば大儲けだよ」

「生活には困らない、ね……」


 日本の家具職人も腰を抜かすレベルの腕前。

 高級家具店で販売されていてもおかしくないクオリティーの家具が並んでいた。

 ミレイアは終焉ノ島で5年もサバイバル生活をしているので、生き残るための力として自然と身に着いてしまったのだろう。

 ミレイアの話を聞くかぎりでは、ヒカリのいる場所は終焉ノ島というらしい。

 終焉竜エンドラシア封印の地で、ここに生息するモンスターは超が付くほど危険。

 RPGゲームで例えるならば、ゲームクリア後にいける超絶最高難易度の裏ダンジョンというわけだ。

 もし、この島に生息するモンスターが何らかの手違いで脱走したとしよう。

 そして、偶然に偶然が重なって人間族の都市に出現したとしよう。

 甚大な被害どころか、対処が遅れてしまえば滅亡。

 たった1体で国を滅ぼすことのできるモンスターも生息しているようで、世界会議にて禁足地に指定されている。


 ――そこで、ヒカリは疑問を抱く。


 ミレイアはどうしてここにいるのか。

 禁足地であれば、ミレイアだって足を踏み入れることは許されないはずである。

 そもそも生き残っていることすらおかしい。

 ヒカリは気になってしまうが、ここで訊けたら引き籠もりなんてやっていない。


「私がどうしてここにいるのかって顔してるね」

「えっ!?」


 心の中を読まれ、びくっとするヒカリ。


「ヒカリじゃなくても気になるよ。こんな超危険地帯に1人で住んでる女の子なんて謎でしかないもん」

「ミ、ミミレイアは、どうし、て?」


 質問の機会を得たヒカリが恐る恐る訊ねると、ミレイアはにっこりと笑う。


「生贄なんだよね私」

「えっ?」


 きょとんとするヒカリ。


「私の村の掟でね。10年に1度の周期で生まれるっていう赤と青の目を持った女の子は終焉竜エンドラシアの封印を維持するための生贄として終焉ノ島に送り込まれるんだよ」

「えっ……」


 軽いノリで超絶重い話を始めるミレイアに、ヒカリは言葉を失ってしまう。

 笑うところではないだろうと。


「詳しいことは知らないけど、私が島内で死ぬことによって封印が維持されるんだって。逃げようとしたけどここは絶海の孤島。空間転移ゲートで送り込まれたから逃げようにも逃げられない」

「う、うん」

「最初は生贄なんて馬鹿じゃんって思ったけど、まさかの本当だったっていうね。私がしぶとく5年も生き残ってたら封印が解けちゃった。あはは、ざまー」


 あまりにも軽く語るミレイアの言葉に、ヒカリは胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。

 軽い。

 とにかく軽い。

 普通は自分のことを生贄にした村に復讐心を抱いたりするものだろう。


「ご、ごめん、ね」

「どうしてヒカリが謝るの?」

「わたっ、私がいたからミレイアがこ、こここんな目に遭ってしまって」

「悪いのは村だしヒカリは悪くないって。てか、ほんと不便だねその身体。滝に打たれて痛くないの?」

「痛くはないけど、冷たい……かな」

「リュックに入れるくらい小さくなれたらいいんだけどね。人間と出会ったら大騒ぎだよ。魔王がなんかそういう便利アイテム持ってたりしないかな」

「……」


 終焉ノ島に5年間住んでいたミレイアだが、理由は不明だが外のことにも詳しい。

 ヒカリは少し違和感を抱くが、悪い人ではなさそうなので敢えて触れないでおくことにした。

 関係悪化は避けたい。


「……よし、これでいいかな」


 荷物を詰め込んだミレイアが、大きいリュックを背負う。

 出発の準備ができたらしい。


「私が持とう、か」

「ううん、私が持つ持つ。さて、ここも名残惜しいけど出発しようか。ヒカリの封印も解けちゃったし、私がここにいる理由もないもんね」


 ミレイアはひとしきりけらけらと笑った後、ヒカリの背中に跨る。


「ミ、ミレイア……?」

「魔界は北大陸にあるっていうから、とにかく北に進めばいいよね。外の世界久しぶりだなぁ。ヒカリ、私を連れ出してくれてありがとう」

「え、えっと……」

「天気が良いうちに島から出たほうがいいよ。この島は天気が変わりやすいからね。ドラゴンなら長距離飛行も楽勝でしょ?」

「あ、あっ、え、えっと……ミ、ミレイア、あ、あのあのあの、ね」

「ん?」


 首を傾げるミレイアに、ヒカリは申し訳なさそうに言うのだった。


「空を飛ぶのは初めて、なんだよね……」

「えっ」

「で、でも私、頑張る……から」

「まっ――」

「飛ぶ、ね……」


 ほんの一瞬の沈黙。

 ヒカリは自分の翼を見下ろし、ゆっくりと息を吸い込んだ。

 翼を広げ、ヒカリは大空へ舞い上がる。

 終焉竜エンドラシアの身体が覚えていたのか、ヒカリは無事に飛ぶことができた。


「ひっぎゃあああああああああああああああああああああっ!!!!」


 ミレイアの絶叫。

 数秒も経たないうちに、終焉ノ島が小さくなっていた。

 絶海の孤島と呼ばれるだけはある。

 周囲に島は1つも無く、無限に広がる大海原。


 ――と、感心している場合じゃない。


 背中に視線を送ると、目を見開き過呼吸気味になっているミレイアの姿。


「ごごごごごごごめんぅ!!」

「あひっ、あひっ、だ、だいじょーぶ。死ぬか、死ぬかと思ったっ!!」

「あううっ」


 初めての友達をうっかり殺してしまうところでした。

ミレイアさん重いです。

体重ではなく話が、ですよ。

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