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『1人目の友達』

「ヒカリっていうんだ。可愛い名前だね」


 ヒカリの自己紹介を聞いて、ミレイアはにっこりと微笑んだ。

 陰キャにとって、自己紹介ほど難易度の高いことはない。

 しかし、ヒカリはコミュ障日本代表。

 4回目でようやく名前を伝えることができた。

 ヒキャバブ。ヒャカリ。ヒバビ。そして、ようやくヒカリと。

 上出来である。


「えへへ……」


 中学時代、高校時代、ヒカリは恥ずかしさのあまり自己紹介できなかった。

 黒板の前に立ち「あっあっ」と言っていたら、先生から「もういいですよ」と愛想をつかされてしまい、とぼとぼと席に戻る始末。

 それ以来、ひとりぼっち学生生活スタートだ。

 中学時代と高校時代を経て、異世界。

 3度目の挑戦で、自分の口で言えたことに成長を感じてしまい泣きそうなヒカリ。


「ヒカリっていうのは誰かに付けてもらったのかな。私が終焉ノ島(しゅうえんのしま)に住み続けて5年だけど、君とは初めて会うね。どこから来たの?」

「へっ!?」


 ミレイアに質問され、ヒカリは変な声を出してしまう。


「今日まで森が枯れるようなことはなかったから、他の所から来たんでしょ?」

「あっ、えっと」


 異世界転生したので、他の所から来たというのは間違っていない。

 しかし、出会ったばかりのミレイアに私は人間だと正直に言うのはあまりにもリスクが高い。

 どうにかして誤魔化さないといけない。


「怖がらなくてもいいのに……と、いうか、怖がるべきは私なんだけど?」

「あっはい。道順に進んだ所にある洞窟で先ほど目覚めました……私が歩いたところは黒く焼けちゃってるので分かりやすいと思います、はい……」


 異世界転生したことはさすがに言わないでおく。

 ヒカリが洞窟で目覚めたことを正直に話すと、ミレイアは目を見開く。


「洞窟って……終焉ノ島に洞窟は1つしかないから……えっ、じゃあまさか」

「……な、なななにか」


 ひどく動揺しているミレイアを見て、ヒカリは嫌な予感がしてしまう。

 その予感は、見事に的中。


「うわああああああああああっ!!!! よくよく考えたらそうじゃん!! なんで気づかなかった私!! 全身を覆う漆黒の鱗、蒼紫色の冷たい眼、逆向きに湾曲した黒い二本角、そして、生命を否定する死の瘴気……!! 神話の時代に封印された終焉竜エンドラシアの特徴に完全一致じゃん!!」

「えっ……」


 発狂するミレイアと、ポカンと口を開けてしまう私。

 生命を否定する死の瘴気。神話の時代に封印された終焉竜エンドラシア。

 不穏なワードのフルコース。お腹いっぱい。


「わわ、私ってそそそ、そんなにヤバい、んですか……?」

「ヤバいなんてレベルじゃない。人間族、魔族、天翼族、精霊族の世界連合が超偶然、超奇跡的に封印に成功したっていう世界の終わりを告げる存在なんだよ、君は!?」

「へ、へえ……」


 ヒカリの転生先は、終焉竜エンドラシアであった。

 終焉竜エンドラシアは、世界を終焉に導くと云われる漆黒のドラゴン。

 女王の纏うドレスのような膜翼から絶え間なく生成される死の瘴気は生命を否定し、少しでも触れたり吸い込んだりすれば即死なのである。

 死ぬどころか体調すらも崩さないミレイアは例外中の例外である。


「これでわかったかなぁ!! ヒカリがどれだけヤバい存在なのか!!」

「わ、わわ私は世界を滅ぼそうなんて思わない、です。た、ただ友達作って楽しく過ごしたいだけ、なんです」


 ヒカリの言葉に一切の偽りは無い。

 ミレイアから見て、ヒカリは美しさとかっこよさを兼ね備えた死の瘴気を撒き散らす漆黒のドラゴンにしか見えていない。

 しかし、しかしである。

 5年間、魔物が大量生息している終焉ノ島で過ごしてきたミレイアであったからこそ、終焉竜エンドラシアの中にある人間の感情を微かに感じ取っていた。

 そこで1つの予感。


「……あれ、もしかして死の瘴気さえどうにかすればただの超強い人見知りの可愛いドラゴンだったりする?」

「か、可愛いなんてそんな……」

「うん、無害」


 照れるヒカリを見て、ミレイアは確信した。

 死の瘴気さえどうにかすれば、凄まじく強いだけの世界にとって無害な可愛いドラゴンだと。

 ミレイアはこくりと頷くと、照れるヒカリの頭を撫でる。


「で、ででででも、止められないん、です、この瘴気」

「うーん、どうすればいいんだろう。ヒカリが封印されたのは1万年前くらいだし……当時のことを知っているのはヒカリの対となる存在――創世竜アーテルシアだけど居場所が分からないし……精霊王に教えてもらおうにも精霊界がどこにあるか分からないし……天界は空の上だし……そうなると、魔王しかいないか。便利アイテムとか持ってそう」


 ぶつぶつと言いながら、恐ろしい計画を立てているミレイア。

 不安に思ったヒカリは、恐る恐る話しかける。


「ミ、ミレイアさん……?」

「でも、魔界に乗り込むのは自殺行為だよね。人間と魔族は戦争中だし。あっ、ヒカリがいれば大丈夫か」

「全然大丈夫じゃないよぉ……魔王とか怖いよぉ……」

「じゃあ、そのままでいいの? 近づくだけで私以外即死だよ?」

「嫌だぁ……」

「じゃあ、決まりだね。どうせもうヒカリの瘴気のせいで終焉ノ島には住めなくなったし。それじゃあ、出発の前に言わせてもらうね。遅くなったけどヒカリ、私と友達になってよ」


 泣きそうになっていたヒカリに、真っすぐと手を伸ばしてきたミレイア。

 友達になるべく、握手を求めているのだ。


「あっ……」


 鋭い爪。

 力加減を間違えれば、ミレイアなんか一瞬で殺せてしまう。


「ん」


 ムッとした表情で、再度握手を求めるミレイア。


「あっ、えっと」

「もう怖がらなくていいから。終焉ノ島で5年も過ごしてきた私だよ。そう簡単には死なないから安心してよ」

「い、いや、そ、そうじゃなく、て……わ、私なんかと友達になったら……」


 ミレイアの小さい手と、ヒカリの巨大な爪の1本。

 触れる直前で、ヒカリは下げようとする。


 ――しかし。


「私が友達になりたいと思ったから、ヒカリに友達になろうって言ったんじゃん。それともヒカリは私と友達になりたくない?」

「そ、そそそそそんなこと、ない……です!!」

「じゃあ、今日から友達ね」


 ヒカリが下げようとした爪を、両手でがしりと掴んでくるミレイア。


「あっ……」

「よし、これで私とヒカリは友達ね。と、いうことで今日から私に対して敬語は禁止」

「えっ……」

「友達に敬語を使う人なんてどこにいるのさ」

「た、たしかに……」

「だ、か、ら、ヒカリは私のことをミレイアって呼ぶこと。私もヒカリって呼ぶから。敬語も禁止で遠慮もいらない。言いたいことはなんでも言っていい。わかった?」

「あっはい」

「はい、じゃなくて?」

「あっうん」

「「あっ」もいらないんだけどね……まあ、いいか。それじゃあ、今日からよろしくねヒカリ。ちなみに私もヒカリが最初の友達だから」


 満面の笑顔を浮かべるミレイア。

 異世界転生して死の瘴気を撒き散らすドラゴンになってしまったヒカリだったが、なんとか1人目の友達できました。

ミレイアさん、もしかしてヤバい子?

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