『異世界転生は甘くない』
そこは闇だった。
ただ、闇だけがあった。
光は一切存在せず、目を開けているのか閉じているのかさえも分からないので物の輪郭を捉えることすらできない。
「……ここは?」
周囲を見渡すヒカリだが、闇の中では現在地の把握も不可能。
異世界転生して、第2の人生が始まるスタート地点はまさかの闇の中。
テンプレ通りなら、見渡しの良い草原とか自然豊かな森の中といったもう少し良い場所があるだろう。
新人だとしてもいくらなんでもセンスが無さすぎる。
このまま立ち止まっていては何も解決しないので、ヒカリはここから動いてみることにした。
「あいたっ」
ガツンと。
1歩足を踏み出した瞬間、頭をぶつけてしまった。
訳も分からず、混乱するヒカリ。
「うわ……!!」
ガラガラと音を立てながら、何かが崩れてきた。
崩れてきた物体はヒカリの足元に積み上がってしまい、余計に動きにくくなる。
正体を把握するべく、その物体を拾ってみることにした。
「……ん?」
そこで気づく。
無意識のうちに四足歩行していた。
そして、背中には謎の違和感。
ヒカリは恐る恐る背中の筋肉に力を入れてみると、凄まじい暴風が吹き荒れた。
「ひゃああああっ!!!!」
暴風に驚いたヒカリがドスンと尻もちを附いた瞬間、まるで大地震が起きたかのように凄まじい揺れが襲う。
「地震!? 逃げないと!!」
視界を確保できない場所で大地震に襲われて万が一崩落すれば、助けも呼べない状況で瓦礫に潰されてしまい誰にも知られず孤独死することになる。
転生早々バッドエンドは勘弁願いたい。
危機的状況でヒカリが取った行動は、全力疾走だった。
出口はどこか分からないが、ヒカリはとにかく走るしかない。
二足歩行も可能なようだが、四足歩行したほうが走りやすいことに気づく。
嫌な予感がするが、今は逃げること優先。
「出口どこー!?」
いろいろなものを破壊しながら(?)全力疾走するヒカリ。
「出口が見つからなーい!!」
30分くらい走っても出口は見つからない。
時間が経過するにつれて、方向感覚が掴めなくなってくる。
前に進んでいるのか円を描いているのかそれとも同じ場所を行き来しているだけなのか。
「ル、ルルルルリルレンさんぅぅぅ!!」
泣き喚くヒカリだが、ルリルレンからの反応は無い。
転生させるだけさせておいてアフターフォローはしてくれないのかと不満が募っていく。
前言撤回である。
異世界アンケートが来たら星1決定。
「もーやだあぁぁぁ!!」
怒りと不安で感情の爆発したヒカリが、無意識のうちに取った行動。
喉の奥から込み上げてくる何か。
飲み込もうとするが、その何かは止まることなく口から放たれる。
「んんんんんんっ!?」
ヒカリの口から放たれた謎のブレス。
そのブレスは凄まじい威力で、行く手を塞ぐ壁を消し飛ばしてしまった。
「な、ななななな、なにいまのぉ!?」
バチバチと音を立てながら金色の魔法陣が壊れ、ヒカリの視界が眩しい光に包まれる。
「ま、まぶし……」
暗順応していたせいで眩しさに耐えきれなかったヒカリは、辛うじて視認できた背中に生えている巨大な翼(?)で目を覆う。
そこで、ヒカリは察するのだった。
人間とは思えない巨体。背中には翼。口から放たれたブレス。
おそらくだが、転生先は。
「……」
目が慣れてきたヒカリは、恐る恐る目を開ける。
「やっぱり……」
光が差し込んだことで、現在地が洞窟だということに気づくヒカリ。
洞窟内の水溜まりに映った姿を見て、ぽつりと呟く。
全身を覆う漆黒の鱗。蒼紫色の冷たい眼。
女王のティアラを連想させるような逆向きに湾曲した黒い二本角。
黒い膜翼はドレスのようで、そこから絶え間なく舞い落ちる黒い霧が美しい。
尻尾は長く、先端には棘がある。
――確かに要望通り。
空も飛べる。
すごく強そう。
かっこよさと美しさも兼ね備えている。
要望通りではあるが、ドラゴンだと友達はできないのではないだろうか。
友達を100人作るどころか100カ国から討伐対象にされるのではないだろうか。
「ルリルレンさんぅぅぅぅぅぅ!!!!」
絶望的な状況で、ヒカリは悲鳴を上げることしかできなかった。
要望通り、ではありますよね。
さすが新人女神。




