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『魔王城の朝は、今日も平和でした』

 目を覚まして、最初にヒカリの視界に入ってきたのは黒いレースの付いた天蓋だった。


 カーテンの隙間から射し込む陽光。洗い立てのシーツの匂い。


 見慣れない風景にヒカリは困惑していたが、時間が経過するに連れて段々と思い出していく。


「……そういえば、魔王城に泊めてもらったんだった」


 客室を出てから――

 ヒカリとミレイアは美味しい食事をご馳走になっただけでなくお風呂まで入らせてもらい、至れり尽くせりな対応をしてもらっていた。


 黒曜石で作られた振り子時計は午前7時を指しており、朝であることが分かる。


 朝に起きたのは何年振りか。

 日本に住んでいた時は朝に寝て昼過ぎに起きるという昼夜逆転生活をしていたので、ヒカリにとっては新鮮な感覚である。


 カーテンを開けて朝日でも浴びようと思ったヒカリがゆっくり身体を起こそうとした時、身体が動かないことに気づいてしまう。


「……あっ」


 その原因は、ブランケットの下にあった。

 まるでツタの如く、ヒカリに絡みつくようにして涎を垂らしながら寝ているミレイア。


「……どうして、ミレイアが私のベッドにいるんだろう」


 客室にはベッドが2つ。

 おやすみの挨拶をして、ヒカリとミレイアはそれぞれのベッドで寝ていたはずである。


「むふ、むふふ……」

「ひゃっ」


 絡みつく力が強くなり、しかも無意識に頬擦り。

 ヒカリの背筋がピンと伸びる。


「むふふ……」

「ひゃあああっ……」


 頬擦りの次は、なんと耳をはむはむしてくる。

 ヒカリが変な声を出しても起きる気配はなく、ミレイアは相当疲れているのだろう。


 無理もない。

 終焉ノ島という一瞬の油断が命取りとなる超危険地帯に住んでいたのだから、身体は休めても心は休まらないはずである。


 安全地帯である魔王城のベッドで寝てしまえば、熟睡してしまうのは当たり前だろう。


 無理矢理引き剝がしてしまえば起こしてしまう。

 さて、どうしたものかと。

 ミレイアが起きるまで、天蓋を見つめたままじっと耐えるしかないのだろうかと。


 ヒカリが諦めかけていた時、外から声が聞こえてくる。


「ヒカリ、ミレイア、朝食の準備が――」


 カチャリと。

 客室のドアが、シルヴェリアによってノック無しで開けられる。


「「……」」


 一瞬の沈黙。

 シルヴェリアの視線が、抱き合うヒカリとミレイアに向けられる。


「……邪魔をした」

「ち、ちちちちがいます!! まってください!!」


 変な誤解をされている。

 静かにドアを閉めようとしたシルヴェリアに対して、ヒカリは全力で否定する。


 大きな声を出してしまったことで、目を覚ましてしまうミレイア。


「……ん?」


 しばらくボーっとしていたが、状況を把握していくミレイア。


 まるで恋人の如くヒカリに抱き着いているミレイア。あたふたしているヒカリ。にやにやと笑うシルヴェリア。


「ミ、ミミミレ――」

「えいっ」


 さらに密着してくるミレイア。


「ミ、ミレイア!?」

「……朝から元気だな」


 ぽつりと呟くと、シルヴェリアは静かにドアを閉めた。


「シ、シルヴェリアさん!?」

「ヒカリは私に抱き着かれると……嫌だったりする?」

「嫌じゃないけど……」

「じゃあ、もうちょっと抱き着かせて」

「ええっ……!?」


 魔王城の朝は、今日も平和だった。

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