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『生態把握会(2)』

「次、身体能力テストだ。触れられるとマズいので今回もレヴィアに任せたい」

「わかりました」


 レヴィアの分身体。

 その強さはレヴィアと同等で、感情の有無を除けば見た目以外レヴィアそのものである。


「わ、私はどう、すれば……」

「分身体に攻撃してくれ。手段は問わない」

「こう、げき……? む、むむむむりっ、です」

「反撃はしてこないから安心しろ。ポカンと1発やればいい」

「あううっ……」


 相手を殴るという行為をしたことがないヒカリ。

 しかし、引きこもり時代にバトルアニメで勉強しているのでなんとなくはやれそうである。


「ヒカリ、やっちゃえ!!」

「よ、よぅし……」


 ヒカリは左手をぐっと握り締める。

 ヒカリは交差利きであり、用途によって利き手が変わる。

 ペンを握るのは右手でボールを投げるのは左手など、動作ごとに得意な手が異なるのだ。

 ミレイアに応援され、ヒカリはぐるんぐるんと腕を振り回す。


「アタシ、どうなるのかしら……」

「あのフォームではまともな威力は出ないだろうね」


 不安そうにするレヴィアと、愛らしいヒカリを笑顔で見つめるルフィン。


「えーい!!」


 勢いよく拳を振るうヒカリ。

 しかし、その拳は10センチくらい前で止まっていた。

 距離感が掴めていなかったのである。

 ヒカリ自身は勢いよく振るったつもりだが、他の者からすればひょろひょろパンチ。


「「「「「「可愛い……」」」」」」


 ヒカリの可愛さに心が和んでしまい、ヒカリを除いた全員が笑みを浮かべてしまう。


「も、もう1回……!!」


 再度勢いよく拳を振るうヒカリ。

 今回は当たった。

 ぺちぃぃん。そんな頼りない音が魔王軍訓練場に響き渡る。

 全員が思う。弱くて可愛いと。


 ――しかし。


 次の瞬間、ぱぁんという乾いた音と共にレヴィアの分身体が爆散した。


「「「「「「……」」」」」

「や、やったぁ……!!」


 全員が無言になる中、はしゃぐヒカリ。


「なにアレ」

「知らん」


 真顔になるミレイアとシルヴェリア。

 明らかに威力は出ないであろうひょろひょろパンチ。


「魔王様、耐えられます?」

「死にはせんと思うが、戦闘続行は不可能だろうな」


 アルラの問いに、苦笑を浮かべるシルヴェリア。


「死んだわアタシ」

「おっほ……」

「ひかりにできるのならみゅえるにもできるはず。うでのほそさはいっしょだから」


 ミュエル以外、圧倒的な力の差を前にして笑うことしかできなかった。

 恐怖を感じる余裕すらもなく。

 天地がひっくり返っても勝てる要素が見つからない。

 ミュエルはなぜかほんの少しだけぷにっと盛り上がった細い二の腕を膨らませて張り合おうとしているが。


「結果はなんとなく読めてはいるが……最後は物理耐性と魔法耐性だな」

「えっ、痛いのは……」

「後で美味しいご飯を食べさせてやるから。魔王城にも好きなだけ泊まっていいぞ」

「やる!!」

「えっ……」


 ヒカリが口を開く前に、ミレイアが勝手に返事してしまう。


「ミ、ミレイア……?」

「ヒカリ、食料と住処の確保は必要不可欠だよ。断る理由は無いよね」

「あっ、うん……」


 痛いのは嫌いなヒカリだが、食と住を出されては断れない。


「決まりだな!! ヒカリと戦いたいのは誰だ!!」

「ボクがやろう」


 目を閉じながら、滑らかな動きで挙手するルフィン。


「ルフィン、休んでいなくて大丈夫なのか?」

「ヒカリファンクラブ会員ナンバー1のボクこそが適任だと思ってね」

「いつできた……?」

「今だ」

「そ、そうか……」


 堂々たるルフィンの即答に、何も言い返せないシルヴェリア。


「ヒカリ、いいかい?」

「や、やさしく、おねがいします……」

「おっふ」

「ひゃっ……」


 ヒカリの上目遣いにやられてしまい、ふらついてしまうルフィン。


「で、では、やらせてもらおう」


沈黙ノ平伏(ちんもくのへいふく)

 ルフィンが指をちょいっと動かした瞬間、ヒカリに掛かる重力が数十倍にも跳ね上がった。

 言葉を発することすら許さず、心臓に負荷をかけて停止させることも可能。

 魔王軍四天王――ルフィンは万物を跪かせる者と恐れられるほどの実力を持った重力魔導士である。


「……」

「……ええっと、重くないのかい、ヒカリ?」

「あっ、えっと……はい」

「ふうううううううううううううっ……」


 両手で顔を覆い隠し、肺にある空気を全て押し出すような重苦しい溜め息を吐くルフィン。

 魔王軍四天王のメンツを守るためにも骨の1本2本は折るつもりでルフィンは魔法を使ったが、ヒカリは痛がるどころか普通に立っている。


「え、えっと……」

「慰めは不要だよ、ヒカリ」

「あうう……」

「推しを傷付けることがなくて幸せだよボクは。さて、少し横にならせてくれるかな」


 地面に寝転ぶと、ルフィンは動かなくなってしまうのだった。


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