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『作戦開始(どうかご安全に)』

「ただいまより終焉竜エンドラシア弱体化作戦を開始する!! 作戦内容はシンプル!! この封魔ノ指輪を嵌めるだけ、以上!!」


 それぞれ自己紹介を終え、ヒカリの弱体化作戦が開始された。

 シルヴェリアの宣言通り、作戦内容はシンプル。

 強すぎる力を封じ込めることのできる封魔ノ指輪をヒカリに嵌めさせるだけである。


「これで、ヒカリも人と触れ合えるようになるんだね」

「ミレイア、そうとは限らん。封魔ノ指輪は魔王であるワタシの力を封じることはできる。しかし、エンドラシアに効くかどうか」

「えっ、今それ言う?」

「期待させてから落とすよりも、落としてから上げたほうがいいだろう」

「……」


 シルヴェリアの余計なひとことにより、無言になってしまうミレイア。


「これが封魔ノ指輪だ。ヒカリに嵌めろ」

「うん」

「よし、全員退避だ。ミュエルを真ん中にして警戒態勢」

「「「「はーい」」」」


 ミレイアに封魔ノ指輪を渡すと、シルヴェリアと魔王軍四天王は屋上の隅っこへと走っていく。封魔ノ指輪を嵌めた時に何が起こるか分からないので、いつでも逃げられるようにしているのである。


「ヒカリのこと、完全に危険物扱いじゃん……」

「ミ、ミレイア以外が近づいたら死んじゃう、し……私も、みんなが死んじゃうと寂しい、かな……」

「ヒカリは優しいね。そゆとこ好き」

「えへへ」

「ああああああああああああああああああっ!!!!」

「ルフィィィィン!!」


 ミレイアに頭を撫でられるヒカリを見て尊さのあまり発狂するルフィンを必死に取り押さえるレヴィア。


「ミレイア、ルフィンが大変なことになるから早くしてくれ」

「魔王様、既になっています」

「なっているから早くしてくれ!!」


 アルラの指摘を受け、言い直すシルヴェリア。


「……と、いうわけだから。ヒカリ、いい?」

「う、うん」


 封魔ノ指輪を持ったミレイアに、ヒカリはそっと前脚を差し出す。

 爪が掠れば一大事。


「……どこに嵌めよう」

「爪の先でいいんじゃない、かな……」

「そっとそっと先端に嵌めるね。ヒカリは動いたらダメだよ。爪が当たったら私の身体なんてざっくざくに切り裂かれちゃうんだから」


 終焉竜エンドラシアの膜翼から絶え間なく舞い落ちる死の瘴気を浴びても死なないミレイアだからこそ指輪を嵌めることができる。

 ミレイアこそが、終焉竜エンドラシアを弱体化させることのできる世界で唯一の存在なのである。


「あはは、くすぐったいよぅ」

「ヒカリ動かないで、死ぬから私。ホントに、冗談抜きで。ヒカリのちょこんは私にとってのズバーンだから」


 まるで、超絶切れ味の良い刃物をお手入れするが如く。

 慎重に、慎重に、ゆっくりと、ゆっくりと、ヒカリの爪に封魔ノ指輪を差し込んでいくミレイア。


 ――そして。


 カチッと。

 封魔ノ指輪が嵌まった時である。


「え?」


 ミレイアが間抜けな声を出すと同時、ヒカリを中心にして死の瘴気が渦を巻き始める。

 それはまさしく死の竜巻。


「……離れていて正解だった」

「屋上の広さに感謝しないといけませんね」

「あぁ……」


 渦を巻く死の瘴気から目を離すことなく、感情の込められていない声で語り合うシルヴェリアとアルラ。


「魔王様、触れても死なないと聞いたがアレは大丈夫なのかい。全身包み込まれてしまっているが」

「大丈夫だろう」

「感情を取り戻してくれ、魔王様」

「大丈夫だろう」

「ダメだこれは……」


 感情を失ったままのシルヴェリアと、呆れた表情で肩をすくめるルフィン。

 立場が逆転である。


「あっ、みんなみて」


 指を差すミュエル。

 しばらくして、渦を巻いていた死の瘴気がヒカリの身体に吸い込まれていく。


「終わったかな?」

「まて、油断するなルフィン。近づくのはまだ早い。ミレイア、どうだ!!」


 渦が消えて姿が露わとなったミレイアに、大声で呼びかけるシルヴェリア。

 シルヴェリアの声が聞こえ、ミレイアはにっこりと微笑むと。


「爆発5秒前!! 死にたくなかったら逃げること!! 誰か私を抱えて逃げてくれないかな!!」

「……は?」


 ミレイアの発言に、ポカンと口を開けるシルヴェリア。

 5秒。


「ヒカリが言ってる!! なんか解き放ちそうって!!」

「なんかってなんだ!?」

「なんかすごいやつみたい!!」


 シルヴェリアと魔王軍四天王たちが立っている方向へと全力疾走してくるミレイア。

 4秒。


「ア、アタシが抱えるわ!!」

「まて、レヴィア!! ミレイアは今、死の瘴気でべっとりだ!! 触れたら死ぬ!!」

「じゃあ、見捨てるしかないわね」

「ひどい!!」


 シルヴェリアからストップが掛かったことによりレヴィアから早々に見捨てられたミレイアは泣き喚く。

 3秒。


「ですが、魔王様。ミレイアはこの世界で唯一エンドラシアに触れることのできる存在です。ここで失ってしまうのはマズいかと」

「それもそうか」


 アルラに説得され、ポンと手を叩くシルヴェリア。

 2秒。


「みゅえるにまかせて。どこにしよう」

「現場を視認できる場所がいい!! 東の塔に空間転移だ!!」

「わかった」


 シルヴェリアに指示され、ミュエルは地面に青紫色の魔法陣を超広範囲に展開する。

 ミュエルが操る魔法は空間魔法。

 空間を自由自在に操ることができるので、攻めと守りどちらでも大活躍。

 魔王軍にとって、ミュエルは人体でいうならば心臓の役割。もし失ってしまえば魔王軍の戦力はガタ落ちどころか崩壊しかねない、

 1秒。


「てんいする!!」


 青紫色の魔法陣がヒカリ以外を包み込んでミュエルの空間魔法により東の塔へ転移した瞬間、ヒカリを中心にして大爆発が発生する。


「ワタシの魔王城がぁ!!」


 多額の予算を費やして建てられた魔王城の屋上部分が消し飛んでしまい、悲鳴を上げるシルヴェリア。

 黒煙が舞い、東の塔からはヒカリの姿を視認できない。


「ヒカリ、大丈夫ー!?」


 口元に手を当て、大声で呼びかけるミレイア。

 しかし、ヒカリからの応答はない。


「まさか、自らの爆発で死んだのか……?」

「魔王!! 縁起でもないことを言わないでほしいかな!!」

「ま、ままままてっ、近づくなっ!! 死ぬっ!!」

「あっごめん」


 全身死の瘴気まみれのミレイアに近づかれ、猛烈な勢いで後退りするシルヴェリア。

 しばらくして、屋上を包み込んでいた黒煙が少しずつ晴れていく。


「……あれ?」


 違和感を覚えるミュエル。

 黒煙の晴れ具合からして漆黒の鱗を纏ったドラゴンの姿が見えてきてもおかしくないはずである。

 しかし、影も形も無く。


 ――代わりに、そこにいたのは。


「び、びっくりしたぁ……」


 ぺたんと力なく座り込んでいる黒髪の少女だった。

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