『魔王軍四天王』
ヒカリ、ミレイア、シルヴェリア、アルラの4人は魔王城の屋上にいた。
シルヴェリアの手には、紫色の宝石が埋め込まれた指輪。
封魔ノ指輪――装着者の強すぎる力を封じ込めることのできる貴重なアイテム。
中庭から屋上へと場所を変えたのには2つ理由があり、まず1つ目は隅っこでぶるぶると震えている1体のドラゴンが関係している。
膜翼から絶え間なく生成される死の瘴気。触れれば即死なので距離を取らなければいけないのと密室空間だと死の瘴気が充満してミレイア以外即死してしまうので換気は必須。
そして、2つ目は戦闘終了から5分も経たないうちに魔王城へと集結した3人の魔族が関係している。
「先日の侵攻で蓄積した疲労を回復させるためにスイーツ食べ放題ツアーに参加していたらミュエルが突然現れて緊急事態って言うものだから慌てて来てみれば緊急事態どころの話じゃなかったわ」
1人目は、右手にスプーン左手にパフェを持ちながらポカンと口を開けている美しい女性――レヴィア。
氷のように薄い水色の髪と瞳。青薔薇の髪飾り。
ふんわりと揺れるロングウェーブ。高級感のある青いワンピース。黒色のハイヒール。
大人っぽい雰囲気だが、口元にクリームを付けている。
「ボクもだよ……5連勤後の2連休、積読していた小説を読もうとしていたらミュエルが現れるものだから何事かと思えば……まさかの終焉竜ときたか」
2人目は、地面に垂れるほど長く伸びた桜色の髪をした少女――ルフィン。
半分だけ開かれた紫色の目。サイズの合わないぶかぶかの白い服を着ているせいでズボンを履いているのかは不明。靴を履くのが好きではないのか裸足。
「まおうさまがせかいせいせいまほうをつかうのはいちまんねんぶりだったからただごとじゃないとおもった。てっきりゆうしゃかてんおうがせめてきたのかとおもったらまさかのえんどらしあだった」
3人目は、抑揚のない声で語り出す白黒ツートーン髪の少女――ミュエル。
鮮やかな赤色の瞳。肩に付かないほどの長さで軽く内側に巻かれたショートヘアーと黒いリボンカチューシャ。純白のブラウスの上から黒いジャンパースカートを着ており、黒い厚底ブーツを履いている。
「……魔王、1ついい?」
「いいぞ、謎の銀髪娘」
「謎の銀髪娘じゃなくてミレイアだよ」
「エンドラシアの死の瘴気に触れても死なないのはどこからどうみても謎だろう。それで、どうした?」
シルヴェリアが促すと、ミレイアは隅っこでぶるぶると震えているヒカリを指差す。
「ヒカリは人見知りって知ってるのにどうして大勢集めるのかな。怯えちゃってんじゃん」
「大勢って、たったの5人じゃないか。ワタシを含めて」
「5人でもヒカリにとってはたくさんだから!! てか、この人たち誰なの!?」
正体不明な3人の魔族。
襲い掛かってこない時点で敵意の無いことは分かるが、気になって仕方のないミレイアはシルヴェリアに説明を求める。
「そういえば、言っていなかったか。彼女等は魔界の最強戦力、魔王軍四天王だ」
「魔王軍四天王……この人たちが」
魔王軍四天王とは魔王に次ぐ実力を持った4人の魔族で、1万年前からメンバーは変わっていない。
魔族の寿命は半永久的なので、殺されないかぎりは死なない。
「今回の1件、四天王たちには把握してもらわないと大変なことになってしまうからな。誰かが戦いを挑んでみろ。魔界の戦力低下待ったなしだ」
「そ、それはそうだけど……ヒカリ、頑張れそう?」
「あうう……」
怯えるヒカリの頭を、優しく撫でてあげるミレイア。
そんな2人のやり取りを見て、1人の魔族がキラキラと瞳を輝かせる。
ルフィンだ。
「レ、レヴィア……!! ボ、ボクも撫でてきてもいいだろうか……!!」
「待ちなさいルフィン、あれは罠よ、死ぬわよ」
「罠でもいい!! 罠でもいいんだ!! ボクは罠だと知っていてもエンドラシアを撫でたいんだ!!」
「待ちなさいぃぃ……うお、力つよっ……ミュ、ミュエル、手伝って、ちょうだい」
「れう゛ぃあでむりならみゅえるもむり。ちからのなさにはじしんがある。みて、このちからこぶ」
折れてしまいそうなほど細く、陶器のように滑らかな腕。
ミュエルが小さな拳を握り締めて力を込めると、細い二の腕がほんの少しだけぷにっと盛り上がった。
「「「「かわいい……」」」」
「全員で和まないでくれるかしら!? 魔王様とアルラもルフィンを止めてちょうだい!!」
「「「「かわいい……」」」」
「ダメだわこれ!! アタシがしっかりしないと!!」
「うおぉぉぉぉっ!!!!」
暴走するルフィンを羽交い絞めにするレヴィア。
ミュエルの可愛さに微笑むことしかできないヒカリ、ミレイア、シルヴェリア、アルラ。
人間界を滅ぼそうとしている魔王軍とは、到底思えない光景である。
「さて、癒されるのはここまでにしておこうか。ルフィン、ヒカリに触れれば即死だ。撫でることはワタシが許さない」
「ヒカリ、とは……まさか?」
「エンドラシアの名だ」
「なっ……」
シルヴェリアの発言に驚愕したのか、下を向いてぷるぷると身体を震わせるルフィン。
そんなルフィンを見て、こくこくと頷くシルヴェリア。
「分かる、分かるぞ、漆黒のドラゴンにヒカリと名付ける壊滅的なネーミングセンス。驚くのも無理は――」
「素晴らしいじゃないか!!」
「どこが!?」
「なんというか、説明し難いが……明るくていい!!」
「そ、そうか……」
鼻息荒くするルフィンに、シルヴェリアは苦笑を浮かべるのだった。




