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未来の窓

作者: TOMMY
掲載日:2025/12/12

未来の窓は、唐突に開いた。

都会の中心。人々の行き交う高層ビルの一室に、それは現れた。

窓の向こうには、見たこともない形の車や、空を自由に行き交う乗り物が浮かんでいた。

それは映像でも幻でもなかった。

——何年も先の、未来の実像だった。


ひとりの少年が、震える声で呼びかけた。

「……そこにいるのは、未来の人ですか?」

しばしの沈黙のあと、窓の向こうから柔らかな声が返ってきた。

「ええ、そちらは過去なのね。驚くでしょうけど、ここではよくあることなの。

でもね、未来とは、あなたたちが思うほど明るい場所ではないのよ。

空気はきれいでも、心が息をする余地がないの」


人々は息を呑んだ。

未来と過去が、硝子一枚を隔ててつながっている。

それから街の誰もが、その窓に群がるようになった。

戦争のこと、科学のこと、環境のこと——

彼らは一晩中、未来と語り合った。


ひとりの青年が言った。

「話すだけじゃ足りない。俺は未来を見に行く」

彼の瞳には、幼い頃から“まだ来ぬ朝の光”が宿っていた。

誰よりも未来を信じ、誰よりも今を信じていなかった。

青年は窓枠に足をかけ、振り返りもせずに微笑んだ。

「行ってくる」

そして、静かに未来へと消えた。


——翌朝。

都会はゆっくりと血の海に沈んでいった。

咳き込み、倒れる人々。

赤く腫れた眼、裂けた喉。

救急車のサイレンが重なり、空は鈍い色に染まった。

そこは未知のウイルスが、世界を覆い尽くしていた。


人々は悟った。

未来のどこかで克服された病が、あの窓からやってきたのだと。

まだこの時代には、それを癒す術がなかったのだ。


誰かが、そっとカーテンを引いた。

未来の窓は静かに閉じられ、二度と光を映さなかった。

誰も、見ようともしなかった。

——未来という言葉を、もう一度信じる者は、もう、どこにもいなかった。


未来は未来でしか見せない表情がある。まだ、その窓を覗くことは、早いのだ。

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