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賽の河原

きれいな贖罪

作者: ユーザー

贖罪させてくれ。私の言葉で。



「えー、番組を開始する前に、視聴者の皆様にお伝えしなければならないことがございます。まずは、昨日の〇〇アナウンサーについて、改めてご説明します。番組開始から72分が経過した8時1分頃、突然〇〇アナウンサーの体調が急変し、意識不明の重体となりました。直ちに放送は中断しましたが、一部地域ではショッキングな映像が一時的に放送されてしまいました。視聴者の皆様に不快な思いを与えてしまったことを、お詫び申し上げます。放送中断後、〇〇アナウンサーは直ぐさま救急病院に搬送されました。現在は回復し、意識も戻りつつあるそうです。

当事案は発生直後から警視庁により刑事事件として捜査が開始し、そして昨夜22時頃、当番組のディレクターが出頭いたしました。

本事件に関して、犯行を行ったとされる当番組のディレクターが出頭前に当番組の公式SNS上にて『贖罪』と題された文章を公開いたしました。本来、こういったもの事件の直接的な関係者の言葉を報道として伝えるべきではありません。しかし、その内容が既にSNS上で拡散されていること、当番組に極めて密接に関係する内容であること、犯行を肯定する内容でないこと、被害者の権利保護のために当番組での内容公開を希望していることなどから、警視庁や放送倫理・番組向上機構の指示の下、番組スタッフ、当局の取締役会、そして『贖罪』の著者でありますディレクターから指名を受けた私xxが代読させていただきます。」


「『贖罪』

『この文章は全ての過ちを認め、関係者の皆様への更なる被害、事態の混乱を防止するために、xx氏による番組内での代読を強く希望いたします。


私は番組ディレクターを努めていた…』


…当番組内では実名の公表を控えさせていただきます。


『…と申します。

昨日の番組内での〇〇アナウンサー殺害未遂事件は、全て私が単独で行ったものです。〇〇アナウンサーへは深くお詫びを申し上げるとともに、いち早く回復されることを心より望んでおります。

当時、番組を視聴された皆様に於かれましても、不快な思いをさせてしまったこと、お詫び申し上げます。

僕がこの"贖罪"を通してお伝えしたいことは、この事件が何故起こり、どうして〇〇アナウンサーが被害者となってしまったのか。SNS上にて、この事件や番組について非常に多様な憶測が飛び交っているのを拝見したため、真実をお伝えさせていただたきたいのです。


まず、この事件の概要をお伝えします。

前提として、〇〇アナウンサーを危篤に至らしめたものは、すでにネット上で噂にある通り毒物です。また、これもまたSNS上の皆様の指摘の通り、7時56分頃のCM中に〇〇アナウンサーが口にした飲料、そこには既に毒が仕込まれていました。更に驚いたことに、この毒物を言い当てた方もいらっしゃいました。私が使用したのはトリカブトです。先日、スタジオ近くの野山で行ったロケの中で、自生するトリカブトの危険性についての特集を行い、採取出来る場所、その危険性を知っていたこと、8時を過ぎた頃には呂律が十分に回っていないことを元に毒物を特定されたようです。警察からの発表があれば、トリカブトを実際に使用したことは証明されるでしょう。


ここまでが事件の概要です。ここから、私がなぜ今回の犯行を行ったか、その全貌を明らかにいたします。

最初にお伝えしないといけないこととして、僕が本当に殺害しようとした相手はxx氏です。

何故xx氏を殺そうとしたのか。それは私がネット上の"xx氏に関する疑惑"を盲信してしまい、義憤に駆られてしまったためです。

"xx氏に関する疑惑"について、xx氏から直接お話させるのは余りに忍びないため、ここでは言及しませんが…』


極めて重要な内容であるため、私からお伝えさせていただきます。この"xxに関する疑惑"とは、簡潔に申し上げると私(xx)が〇〇アナウンサーに対して性的ハラスメントを行っていた、という疑惑です。後の文中にてこの疑惑については明確に否定されておりますが、私からもこの疑惑が悪質なデマであることを、改めてお伝えさせていただきます。


『贖罪』に戻ります。


『…この疑惑の中で証拠として語られていたものが、余りに私の知る事実と強く結びついていました。私はこれを信じ、xx氏に公衆の面前で裁きを与えることで〇〇アナウンサーを救おうとしたのです。

一昨日番組放送終了後、野山にてトリカブトを採取し、気付かれないように加工してボトルに仕込み、昨日7時56分のCMの間にボトルは私の手からxx氏の手へと渡りました。こうして計画はあと少しで完遂するところまで辿り着きました。最後に私は〇〇アナウンサーにこう告げました。

"xx氏のボトルに毒を仕込みました。これであなたは救われます。"と。

しかし、〇〇アナウンサーは何も応えてくれませんでした。


こうして、xx氏の断罪生放送計画は幕を開けました。しかし、それはあまりに意外な形で、あっけない終幕となりました。

〇〇アナウンサーはxx氏に渡した方のボトルに口をつけたのです。口をつけたのがxx氏に渡したものであったとは、ボトルの持ち主であるxx氏も気付いていなかったことでしょう。〇〇アナウンサーは誰にも気付かれないように、ボトルをすり替えていたのです。私も、それに気が付いたのは8時1分を過ぎたときです。

〇〇アナウンサーは何故xx氏の、毒の入ったボトルに手を付けたのか。

その答えは"xx氏に関する疑惑"を払拭するためでした。実は〇〇アナウンサーはxx氏から"疑惑"にあるような加害行為を受けていません。xx氏が無実の罪で裁きを受ける。それを間違っていると感じた〇〇アナウンサーはxx氏を庇い自ら毒に口づけしたのです。勿論毒を仕込んだというのを真に受けていなかったかもしれません。それでも、xx氏のボトルへの口づけは真実への強い意志がないと出来ません。

唯一の救いだったのは、致死量までトリカブトを入れなかった私の詰めの甘さが、結果的に〇〇アナウンサーの命を繋いだということです。

私は〇〇アナウンサーを守ろうとしたはずが、彼女は全ての罪を受け入れ毒を手にしたのです。義憤に駆られる僕を止めるために。そして、xx氏を命にかえても守るために。

私は泡を吹いて倒れる彼女にどうすることもできませんでした。私は全て間違っていました。悪いのは全てこの私なのです。

これがこの事件の真相です。本当に裁かれるべき人間はただ一人。それは、人殺しを独善的に正当化し実行してしまった私だけなのです。

私はこれから裁きを受けて参ります。

全ての人は自分の犯した罪に向き合い、裁きを受けるべきなのです。私は自分の罪から一生目を背けません。

これが私なりの"贖罪"です。』


ここまで、私、xxによってお届けさせていただきました。今回の事件は『贖罪』こそあるものの、極めて卑劣で到底許されない凶行であることには変わりません。

〇〇アナウンサーがまた元気に番組へ帰ってこられるよう、私も気持ちを改めて誠心誠意務めさせていただきます。」



贖罪させないでくれ、私の言葉として。

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