案出し
「それで、工房へ来た用件ですが」
「すみません、話の腰が折れましたな」
「私のスタンスはさっきの通りです。よって兵器開発などの相談ですね。期限はエルフの国へ向かう準備など見つついったん区切る形で」
「まあ兵器は楽に出来はしませんからな」
「後は私がこの世界に疎いのもあります。先入観が無いほうが良いこともありますが、無駄になりかねない技術にコストは掛けにくいですし」
「優先度の話ですな」
「私がこの世界に来た第一義は世界の防衛ですからね。騎士さんや一般患者さんをケアする目的は医療ではありますが『平和』ではありません」
「一般にも回せる技術を考えなさったのは何故です?」
「私の世界には介護休暇と言う考えがありました。ただその実現には社会の余裕と倫理の変化がありました。私が提供可能なのは物理的余裕です。痛みで満足に働けない人の痛みを取り、動かない、喪った手足などがあれば動けるような道具を作る。あ、これに関連してスライムなどで外装型補助強化装備もありかな?」
「外装型?」
「ない腕の先に接続するのではなく、筋のようなものやカバー型にして存在する身体の上に被せるんです。地球ではパワードスーツと言ってましたね」
「そういう魔法具自体はありまさあな。高いですが」
「最低ラインの性能と価格はどの程度ですか?」
「鍛えた騎士くらいの力が加わるバフがついた具足で、金のある男爵家が考え込むくらいですな」
「一般の、肉体労働者ではない成人男性程度の増強性能でも、遥かに安価であれば例えば筋力が低い人の働き口が広まったりします。外で働かなくても、家で子供や御老人の面倒を見たり家事をするのが楽になります。身体の衰えたお年寄り自身が歩きやすくなったり、歩けるなども」
「そらあ役立ちそうですが、戦争たあ関係がありますかね」
「数多くの人に行き渡れば、例えば力の弱い人などが何人も力仕事に着けて、今まで間に合わず駄目になっただろう刈り入れが間に合うかも知れません。今いる人足では出来ないからと諦めていた船荷の積み込みが出来うるかも知れません。これは規模の拡大だけでなく維持にも適用されます。多くの兵士や魔法使いが戦争に出ても、減った分を今までならその仕事が無理だった人に任せられます。結果、前線の砦に必要なものを無理せず作れる可能性が上がります」
「スケールでっけえですなあ……」
ガランドさんが感嘆する。
「地球は国が民も含め全員協力のかたちで戦争をした事があります。さっきの軍馬を誤魔化した話ですね。その後の時代では、子供が社会や価値観の変化で産まれ難い国が増え、手足の衰えたお年寄りが国に占める割合が凄く増えたんですよ。手足さえ十分ならまだ働けるのにと言う人も、頭が多少鈍っても完全な役立たず扱いされたら嫌悪する人も多くいました。手足を動かさないと実際頭も鈍りますから面倒を見るべき人が増えるし、手を貸す、介護がいるお年寄りの面倒を見る人も力仕事で大変でした。そういった事情があった後なので、外装装置はその辺りに強いのです」
「事情があったんですなあ」
「その上で、地球には魔法やスキルは無かったので、何かに干渉する、前に他の人に言った例えなら『点火』の魔法すら無いため火起こしに使う小さな道具が必ず無くてはなりませんでしたからね。だから身体強化の魔法やスキルではなく、誰でも使えて安い事も考えに入れた『道具』を前提にするんです。『魔力なし』という根本的に別の生き物の考え方なので、この世界に見合わないと思う事があったら遠慮以前に大変危険なので必ず教えてください」
私は真顔で告げた。