感覚システムなど
針金を握るガランドさんに信号を流し終えて言う。
「これは義肢のための技術です。こうすれば騎士さんたちが剣を握った感触や、手応えが分かるようになるかと。これは押される感じを受ける部分、感圧素子と言うのですがその部品の密度や精度に左右されるので、先ほどは針金の細さや値段や手に入れやすさ等の話になりました」
「なるほどなあ、流石は創造神様の使徒だあ」
「ただ、精霊は私が騎士さんと契約して欲しいと頼めたり、精霊魔法使いを介せば何とかなりそうなんですが、部品は物理的技術的限界がもろに出るのでドワーフの方々にお話をと」
「創造神様の使徒の話だけあって面白え!是非ともやらして頂きやす」
「では、鉄の針金は基本としつつ別の金属なども考えて頂けますか」
「そらあどうして?」
「私の世界、地球では金の採掘量と再利用が多く、また加工の自由度や人体への影響などから材料にされて来ました。ですがこの世界の材料に詳しい方々なら、別の材料も考えうるかと」
「確かに触れる肌との相性やらに関しちゃあ考えなきゃなりませんな」
「条件は種族にもよるでしょうし、腕などの欠損箇所の付け根と触れ合う部分に対するメッキですかね。安全を優先しつつ、魔力や電流をなるべく損なわないものがいいです」
「あい分かりやした」
「後は筋肉の部分ですね。これはスライム材を予定しています。イメージとしては手なら掌や指表面に感圧などの素子の先端が僅かに露出、腕などの部分の内側を芯のように針金が通り、付け根の送信分はさっき言ったメッキなどですね。あとは芯になる線から筋肉となるスライム部分の内側にある程度の数、筋肉を動かすのに必要な出っ張り、端子が要りますかね」
「意外とその……ふわっとしてますな」
「地球ではゲルと呼ばれる材料はありましたがスライムは幻想の生き物でしたからね。私の専門は頭と身体がどう繋がっているかなどでからくりでは無かったので厳密な材料指定は出来ないんですよね」
「こらあ失礼を」
「いえ、こういう事は任せられるところはプロに任せた方がいいですしね」
「ありがたいお言葉。誠心誠意打ち込みまさあ」
「あ、あと外殻もだ。力を抜くとダランとしたスライムに戻ってしまうので、外側の殻か皮を加工性と耐久性と値段のバランスを見て何種類か見繕ってください。順番としては耐久、値段、加工で。木材とかはどうでしょう」
「……伝手はありまさあ。でもなあ……」
「何か不都合が?」
「取引先が面倒臭えんで……はあ。まあ、使徒様のご要望だ。腹括りまさあ」
「それなら私も交渉しましょうか?使徒なら……」
「あー、あいつらぁ信仰が変わってまして、使徒様でも満足に尊敬するかっつうと」
「そこは不敬なんですが……私も使徒と言えばそうなんでしょうが世界の運命を観た別の神様の推薦で技術を買われた、いわばお雇い外国人みたいなものなので、使徒扱いされない不利益は困りますが心理的問題は……」
「使徒様もそうなんですな」
「そうって?」
「ありゃ、知らずに話しておられたんで……。普通に帰化してるのもいますが、あっしら工房のもんはドワーフ、『穴掘り』の国から交流派遣された技師でさあ。名誉一代爵位貰っとる客分でして」
「だからこんなに部屋が豪華なんですね」
「待遇をけちるなぁ辺境伯閣下や人間国の面子に関わるし、軽く見てると思われると技師や技術が阿呆に狙われやすくなりやすんでね。内装はドワーフにゃちいっと落ち着きやせんが、ひと目で人間やらに分からねえと意味ねえからえり好みはできねぇもんで」
こう言うのが政治的配慮と言うものなのだろう。人間は人間基準の豪華さで彼らも自らの立場も守り、ドワーフはその意味を汲んで我慢する。
「話を戻しやすと、細のっぽ……エルフ連中は宗教観が……違うなぁ他の種族連中も同じにしてもアイツらは特に他たぁ折り合い難いんでさ。……それでもお気になさらないってんなら行ってみやすか?」
「是非とも!面白そうです」
私は即答する。私は脳神経科学者であり、またゲーマーだ。電気信号式義肢などの医療系ではなくフルダイブVRが専門なのもそれが理由だし。本物のエルフ、楽しみだ。
「へ、へえ。では段取りを付けるとして……この圧を感じさせる技術のこたぁ喋って良かったんですかい?今なら……」
「大丈夫です。この世界への転生の交換条件として創造神様が技術を広めよと仰ってますし、それを話した辺境伯閣下からも『問題なさそうな相手には伝えてよい』とご許可は頂いています」
「使徒様にお認め頂けるたぁ、ありがてえ……」
こうして、エルフの国へ向かう段取りが始まった。