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疾きこと雷のごとし

 「して、雷使いは判るが何故弱いものを」


 辺境伯に聞かれ、答える。


 「人間に流す為、と言ってご理解頂けますか?」

 「電気あん摩師か」

 「あるんですねそういう仕事は」

 「市井にも貴族向けにもある。なり手は市民が多いが、多くは貴族か富貴な家にかかわる仕事だ」

 「なり手と受け手が違うのはなぜです?」

 「魔力は強さに関しては血統がものをいう。僅かな力しかない者が努力で繊細さを手にしたとて、万軍は破れぬからな」


 文字通り万の軍勢でも倒せる人は居るんだろうな。私が転生で送り込まれた以上はそれでは覆せない人数しか居ないとかなのだろうが。


、、、


 辺境伯領の城住みになって三日。電気あん摩師に会う。微弱な電気を流し人を癒やす資格制マッサージ師で、彼らがやる公衆浴場の電気風呂なんかもあるらしい。浴場は多人数相手だから採算は取れるらしい。なお医師とは違うが、かなり狭き門だとか。招かれた領都住みだという人気の老婆あん摩師の腕は大したものだった。あー気持ちいい。


 「凄いですね、これはどうやって技術を習得なさったんですか?」

 「ひよっこは誰でも魔法学院で試験されるけど、その前の卵はまちまちだね。アタシはアタシの婆様の婆様からの家業さ」

 「それ以外は弟子入りで徒弟ですかね」

 「後はさっき言ったけど、魔法学院の生徒さんとこで動物実験だのさあ」

 「な、なるほど」


 何であれ学ぶ環境はかなり重要らしかった。そらそうだよね、ちょっと加減間違えたらねえ……。


 さっそく私は辺境伯の為と言い頼み込んで見たが、老婆はメシの種だと言って渋る。まあそれもそうなんだけど。


 老婆を送る帰り際、一人の老騎士が現れる。松葉杖だが欠損はない。苦みばしったイケオジとイケジジイのなかばくらいだ。


 「なあマツミ殿、わしは何とかならんか」

 「鏡箱は無くした部分に効くものですから。お教えしたマッサージは?」

 「だいぶ効いた。だが戦線復帰には足らん」

 「こちらで使える技術がもっとあれば……」

 「あらあ何だいマツミちゃん、言えば教えるよお」


 老婆の声が急に高くなる。


 「騎士さまがお困りなんだ、なんでも教えるさね、まかしときな!」


 掌返しの速さが雷速だ。長生きするよおばあちゃん。


、、、


 老婆あん摩師ことフローラさんのスキル構成を教わってから数日、私はだいたい使い方をマスターした。脳内でイメージした形に魔力、ファンタジーによくある不可視のエネルギーを操ると制御出来ると言う物だった。固有言語での詠唱必須とかでなくて良かった。現象の共有としての呪文文化などはあるそうだが。「種火をくれ」と言われた際などにライターの火力を間違える、と言うようなヒューマンエラーはこの世界にもある。そこで「人間の大人の男の親指の爪ほどの大きさの赤い火」が「点火」で出すべき火を意味するなど、ある程度大きさなどは文化で違いもあるが度量衡のようになっているらしい。無詠唱を自在に扱うのは熟練者だそうだ。


 「随分速いね、驚いたよ」

 「地球ではプロでしたから」


 VR関係のプロなら、『思い描いた信号を出力する』のは基本中の基本だ。 『VR空間内で手足を自由に動かす』とかではなく。脳内でイメージした事物を絵にする技術の萌芽は21世紀には既にあった(例えば脳に電極を繋いだ人が◯や✕といった図形を念じると画面に出る)ので、23世紀のプロなら商業マスコットみたいなバランス感覚のいるものを破綻なくアニメ化も出来る。【雷の魔力(微弱)】は神様のスキルの素で貰ったからチート(この世界の人はほぼ誰でも魔力を持つらしいが、それが無かった私が簡単に魔力持ちになるのだから「ずる」だ)だがコントロールは自前である。


 「これじゃアタシが弟子入りだね」

 「本当にやってみませんか?」

 「弟子に?何を教えるね」 

 「あの老騎士の治し方です」

 「ようし先生、今日からで」


 超速で食いついてきた。


 「ものすごく難しいですよ」

 「あの方のお役に立つならなんてこたないさあ!ヒャヒャヒャ」


、、、


 「脳の運動野はこのように広がりーー」

 「本当に難しいねえ……」


 辺境伯の城の一室で紙に脳の略図を描き教える。フローラさんは机に突っ伏した。


 「本来なら医者用の大学の教え2年分くらいは欲しいんで、まだ最初のほうですよ」


 なお23世紀基準である。


 「ぅ゙……」

 「どうします?」

 「やりたいんだが、もうちょっと何とかならんかねえ」

 「じゃあ生き物は殺せますか?」

 「なんだい急に」

 「これから干渉する目当ては生き物の脳です。ミスしたら殺してあげるのが慈悲になるような後遺症を与えかねません。ですから魔法学院の実験のようにして、動物で試す訳です」

 「……そういうことかい。ああ、アタシもやったことはある。お貴族様の肌に感電の跡をつけたら死ぬからね。ネズミなんかでさんざっぱら試したもんだ」


 動物での試験があるならよかった。

早速辺境伯に、魔法の実験に使っている殖えやすい小動物(ラットに似た魔物)を分けて頂いた。辺境伯は国境警備の任にある爵位だそうで、防備のための魔法研究所も充実しているという。


 辺境伯城に私が出現したのも、まさにその武力のためだと言う。邪神が嗅ぎ付けていて何か危険なものを送り込んできた場合の盾であり、私自身に細工された場合の対処エリアだったようだ。だから防備が硬い城の中で、文字通り万軍を倒せる辺境伯本人が対応したそうだ。


 「では勝負です」


 城の中庭に出て地面にトラックを二つ、ただし別々に描く。こちらの方が倍くらいコースは大きい。この上を濡らした紐で結んだラットを操り走らせるのだ。


 「アタシを舐めてんのかい」

 「本当に舐めてたら直線を試しに走らせますよ」

 「言うねえ」

 「負けたらファンさんの治療はすぐお任せします」


 ファンさんとはあの老騎士のことだ。フローラさんの目がぎらりと光る。


 「その言葉取り消せないよ!」

 「はい」


 公平を期す為、城内の騎士に判定を頼む。


 いらない気はするが。


、、、


 「くっ、の、あああ、あ!」


 フローラさんのラットはコースをぐねりながらなんとかはみ出さないで走っている。1回目でこれは大したものだ。


 「勝者、マツミ!」


 まあそんな酔っ払い運転に負けるわけはないが。私のラット(実際の名は違うが)はふらふらコースアウトしそうなフローラ号を尻目にゴールしていた。


 「ぬうう」

 「でも初回で完走して、被検体に目立った被害もないとは。実践力は凄いですね」


 そこで騎士が話し掛けてくる。


 「なあマツミ殿、我らにもこれは出来るか?」

 「ごく弱い雷の魔力を大変繊細に扱えるなら。なので人によりますね」

 「そうか!いやな、我らや兵はどうしても作戦の移動日程など暇が堪らん程あると暇つぶしに賭けをやるんだ。その新しい出し物に出来ないかと」

 「……うーん」

 「そんな事に使うのは嫌とかか?」

 「ああいえ、これを閣下の肝いりに出来ないかなと」

 「どういう意味だ?」

 「使う動物自体はなんでも……ああでも異世界は精霊とかいるかな?まあ、そこらの虫でもいいんですよね。むしろ気分の問題を無視すればゴキブリとかハエでも適当に捕らえて使えば」


 実際、21世紀にはゴキブリドローンなんてものが開発されていた。神経系が単純で調達しやすくある程度大きかったからだろう。(あとは騒ぐ団体や声が相対的に小さい為もあったろうが)


 「それは安あがりだし調達も簡単でいいが、問題はそこじゃないんだろう?」

 「高価な軍馬や、それ以外でも騎獣全般に使える可能性があります、ようは雷の力で操れるならなんでも良いので」


 「……!」


 騎士が、目を見開くのがはっきりわかった。

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