感覚の話・スイカに塩
技術的対談は一端終わり、食事の時間となる。エルフ料理は害獣スレイの感覚上肉はしっかりある。
新技術に歓待ムードなので、最後にはユグドラシルの若葉の塩漬けも出てきた。
「洗い水と塩気のない焼き魚をくれぬか」
アレンジ要求は問題ないので、事前の話し合いで出ていたメニューを騎士さん方は求める。私は、持ち込み荷物から道中最後の人間の街で買った堅焼き菓子を取り出す。高い砂糖漬けではなく、古典的ビスケットに近いものだ。パンよりは多少甘いが甘さより水分のなさが保存に寄与するタイプのものである。それでも甘めなため日持ちはぎりぎりだが。
「洗い水だけ下さい」
「それは何かの試しで?」
「これも地球の知恵です」
そう言って、私は端をかじりながら桜餅の葉くらいに塩をごっそり落とす。純粋な塩気は煮詰めて材料出来るし、若葉の塩漬けはそういうもの(ご飯用梅干しのしょっぱいやつのような「その状態で食べるもの」ではない)だと言うことで遠慮なくやる。
濡れた塩漬けの葉と共にかじると、まあまあ甘くなった。
「んー。やはり保存食だとまあまあ位かな。エルフの方々のお菓子と合わせてみたいですね」
「それは人間の行軍食に混ぜる娯楽品だったと思うが。なぜ少ししか甘くないものにさらに塩気を?」
堅焼き菓子はチョコレートレーションみたいなものだったのか。しかしこれに食いつくとは、普通には知られてない知識だったか。
「薄い塩味と食べた方がある程度の甘みはより甘く感じるんですよ。これは『味の対比効果』と言います。無論限度はありますが」
スイカに塩、という知恵は江戸時代には定番だったことが絵画などで判っている。それがあまり有効に感じない人は増え21世紀くらいではもう微妙ではあったが、それは品種改良でのスイカの糖度上昇が原因と思われる。
「仰るように、味によっては打ち消し合うものもあります。一番詳しいのは舌など身体を研究している人、医師の一部か経験則で知るだろうさっきの料理を作って下さったような料理人の方々かですね」
「どれ、少し試させては貰えまいか」
菓子の残りをねだられるので一応申し添える。
「地球の知識ではプラシーボ効果と言って、例えば効果がないはずの丸薬を特効薬と言って飲ませると本当に治る例が知られています。今食べると、疑っていたらそう感じにくく、信じこみすぎたら変に甘く感じるかも知れません」
「ははあ、にせ聖者みたいなものはそれで生えてくるのか」
「信じなさい、で信じ込ませて救って丸め込むたぐいはそうかも知れませんね」
神様が実在する世界だから、何らかの法則外の力でカルトやらかす隙間産業型もいそうではある。
「あとは純粋に医学的注意として、このお菓子は食べたことがあるなら一応はいいですが、本格的実験はプロの熟練料理人と医師を入れて、エルフの常食や調味料同士の組み合わせからにして下さい。それも少量からで、体調変化で医師などが止めたら絶対にその食材の組み合わせは禁止などルールはきっちりと」
「あ、ああ。厳しいな」
「アレルギー……この世界で言う拒絶反応などは人が死にますからね。しかも体内で症状が出て手出し出来ない場合もあります。言いましたからね?」
笑顔で念押しする。この場合は『フリじゃないよ?やるなよ?』の威圧だ。こういう席だからこそ大事。