神聖ユグドラシルにて
日数は過ぎ、講義(重要な知識をざっと)と騎士さんたちの準備も終わり、神聖ユグドラシルへ旅立つ準備は出来た。
道のりとしては辺境伯領の場合、領都から川船で下り、別領地の海経由で別の大河の河口から遡る。(この準備の間に飛行生物で先触れを出し、訪問の可否や日取りをやりとりしている。エルフは新しもの好きと言う話そのままに許可は出た)
神聖ユグドラシルは莫大な水を吸い上げ循環させる大木の森が主体であるため、彼らの領地は地球ならアマゾン中流から上流みたいな土地の亜種だと思われる。後は大木主体の森とは言え、馬や馬車用の道は整備して無いためらしい。進撃路は逆撃にも使えるから、宗教と軍事の思考的にそれはそうとなる。
エルフの高速打撃部隊は空挺だそうだ。狩り用なども兼ねて大フクロウを使うと言う。ファンタジーだあ。
そんなことをおさらいしたりしながら、船は進んでゆく。そして森と大河の世界へと分け入ってさらに数日。スケール感が壊れたかのように巨大な、神聖樹ユグドラシルのふもとに入る。途中からは山や超高層ビルのように頂上が見えない。
ビジュアル面で意外だったのは、ユグドラシル周辺は広場のように何も無かったことだ。芝のように背の低い草だけで広いエリアが覆われている。
「ユグドラシル周辺に何も無いのは何故です?」
「極力ユグドラシルの根に影響しないよう、法で定められているためです。重要法として覚えた持ち込み資源における生きた植物の種の禁止があったでしょう」
「ああ、あれは生態系を乱さない為と言われましたが、この場所もその当然その一部と」
「はい。エルフは他の植物同士は競い合うことも自然の定めとしますが、ユグドラシルだけは例外ですからね。寄生植物なども排して行った結果が今の景観です」
そんな事を話しながら、エルフの迎賓館に案内される。
「ようこそ。私のことはサンシャインかシャインと呼んでくれ」
共通語では基本的に名の意味を伝える。特定言語の固有音は、発音が下手になるどころか口唇の構造上『出来ない』のも珍しくないからだ。エルフは人間とそれでも大差ない部類だが、差はあるらしかった。(あとエルフは『百年聞き取りしないと分からない』ような音があるのが大きい。エルフが児童のうちに習得できるものも、大概の種族は下手をすれば一生でやっとなのだ)
「マツミと申します。意味はパインコーンです」
日本語の意味は翻訳無しだと音素としてしか伝わらないからこれが礼儀となる。
「ようこそ。新たな技術についてはとても興味がある。よい話を期待している」
こうして神聖ユグドラシルでの対話が始まる。