↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『紅蓮の魔女』と『神速の配信者』  作者: 我王 華純
第二章 集う宿星たち
PR
82/123

第38話 エピローグ ~新たな謎と新たな脅威~

今回で第二部最終回となります。


主人公たちは出てきませんが、第三部の導入も兼ねておりますのでどうぞご覧ください!


 ハヤトとアイリーンがSランクダンジョン『海魂の冥穴』を踏破し、地上へ転送されたのと、ほぼ同時刻――


 日本のどこかに存在する、とあるダンジョンの入り口に、一人の女の怒号が響き渡っていた。


 「ちくしょぉ! 結局、最後まで攻略する羽目になっちまったじゃねぇか! しかもこのダンジョン、やたら深かったしよぉ!」


 怒鳴り声を上げているのは、大柄で屈強な体格をした女性。


 『黄牙団』クランオーナー――劉 愛蕾だった。


 その左右には、二人の男女が立っている。


 そのうちの一人、女性の方が静かに膝をついた。


 「劉様、私たちが不甲斐ないばかりに、申し訳ございません」


 『黄牙団』サブオーナーにして序列二位――楊 梓晴。


 頭を深く下げるその姿からは、劉 愛蕾に対する絶対的な忠誠心が滲み出ていた。


 そんな楊 梓晴とは対照的に、もう一人の男は随分と砕けた様子で腕を組んでいる。


 「しかし、あの妙な光のせいで、えらい目に遭いましたね。あれが噂の『紫光』ってやつですかね?」


 『黄牙団』序列三位――呉 凌峰。


 劉 愛蕾に対しても、それほど畏まることなく接する男だった。


 「……ああん? 間違いなくそうだろうよ」


 劉 愛蕾は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 「せっかく楽しいところだったってのに、水を差しやがって……誰だか知らねぇが、犯人を見つけたら八つ裂きにしてやるよ」


 言葉の端々から、隠しきれない怒気が滲み出ている。


 そもそも三人は、ダンジョン統括省本部前での戦闘の最中、リゼルの介入によって、とあるダンジョンの奥深くへ強制的に転移させられていた。


 しかも、転移させられた先のダンジョンは、攻略にかなりの時間を要する構造になっていた。


 そのため、ダンジョンを踏破して地上へ戻ってくるまでに、これだけの時間を費やすことになったのだ。


 劉 愛蕾にとって、『蒼氷の聖女』星羅・バーンシュタインとの戦いも、『闇鍋騎士団』クランオーナーである村雲ミズキとの戦いも、それなりに歯応えのある、数少ない楽しい戦闘だった。


 だからこそ、一番面白くなってきたところで、邪魔をされたことが何よりも腹立たしかった。


 今もなお、その怒りは完全には収まっていない。


 一見すれば冷静に見えなくもないが、その身体からは、今にも噴き出しそうなほどの怒気が滲み出ている。


 そんな三人が周囲を見回す。


 そこは、鬱蒼とした森に囲まれた場所だった。


 「しかし……ここは一体どこなんでしょうかね?」


 楊 梓晴が周囲を警戒しながら口を開く。


 「ああ、まあ日本のどこかではあるんだろうよ」


 そう答えた劉 愛蕾だったが――


 ふと、その視線が森の一角へと向けられる。


 「それより……」


 その瞬間、彼女の表情から僅かな笑みが消えた。


 「さっきからコソコソしている、そこのお前――いい加減、出てきたらどうなんだい?」


 「!?」


 楊 梓晴と呉 凌峰が同時に振り返る。


 劉 愛蕾が見据えているのは、鬱蒼と木々が生い茂る森の奥。


 そこには、一見すると何者の姿もない。


 気配すら感じられなかった。


 「参りましたね……」


 突然、そこから男の声が響いた。


 「完璧に気配を消していたつもりだったのですが……さすが『黄雷の戦妃』とでも言いましょうか。御見それしました」


 声と同時に、何も存在しなかったはずの空間が僅かに歪む。


 まるで透明な何かが解除されたかのように、徐々に一人の男の姿が浮かび上がってきた。


 光学迷彩でも使用していたのだろう。


 現れた男は細身で長身。


 黒髪をオールバックに整えた、一見すると紳士を思わせる風貌だった。


 「……」


 その姿を確認した楊 梓晴は、思わず息を呑む。


 まさか、本当に侵入者が潜んでいたとは思わなかった。


 何より、自分が、その存在にまったく気付けなかったことが信じられない。


 楊 梓晴のジョブは『諜報王』。


 隠密行動に特化したジョブであり、当然ながら気配察知能力にも優れている。


 それにもかかわらず、目の前の男の存在を一切察知できなかった。


 そして、その男をあっさりと見抜いてみせたのが――劉 愛蕾だった。


 自らが得意とする領域で、ここまで圧倒的な差を見せつけられたことに、楊 梓晴は二重の衝撃を受けていた。


 「ふん……バレバレだっての」


 劉 愛蕾は鼻を鳴らす。


 そして、男を睨みつけた。


 「で、お前は一体なんなんだ? あたしは今、機嫌が悪いんだ。返答によっちゃ、一瞬でぶち殺してやるからな」


 その言葉と同時に、凄まじい殺気が男へと叩きつけられる。


 「はは……」


 それを真正面から受けながら、男は困ったように笑う。


 「噂に違わぬ、凄まじい殺気ですね。これは敵うはずもない」


 両手をゆっくりと上げ、敵意がないことを示す。


 「突然の無礼、申し訳ございませんでした」


 男は恭しく頭を下げた。


 「私の名は、ロイド・ジョーンズと申します。以後、ロイドとお呼びいただければと存じます。今回は我が主の指示を受け、『黄牙団』の皆様へ伝言を届けに参りました」


 「へえ……」


 劉 愛蕾が目を細める。


 「で? お前の主ってのは、どこのどいつなんだい?」


 「はい」


 ロイドは一切動じることなく答えた。


 「私の主の名は、ヴァレリア……ヴァレリア・ハートランドと申します」


 「……っ!?」


 その名前を聞いた瞬間。


 劉 愛蕾の表情が変わった。


 「ヴァレリアだと?」


 先ほどまでの怒気とは異なる、鋭い警戒心がその目に宿る。


 「あの女が、あたしに一体何の用だ?」


 「それは私にもわかりかねます」


 ロイドはあくまでも穏やかな口調を崩さない。


 「私は、伝言を届けるよう指示を受けただけですので」


 その物腰の柔らかさが、逆に劉 愛蕾の苛立ちを刺激する。


 だが、ヴァレリアという名前には、それ以上に警戒すべき理由がある。


 「……で?」


 劉 愛蕾は腕を組んだ。


 「その伝言とやらを聞かせてもらおうか?」


 「承知いたしました」


 ロイドは一礼する。


 「ちなみに、伝言は二つございます」


 「二つ?」


 「はい。一つ目は――」


 ロイドは淡々と告げた。


 「『もうすぐ、その国でスタンピードが発生するため、注意されたし』……とのことです」


 「ほう……スタンピードか」


 劉 愛蕾は意外そうに眉を上げた。


 だが、それ以上に興味を示したのは別の部分だった。


 「それは面白いね。で? もう一つは?」


 ロイドは一度だけ間を置く。


 「もう一つの伝言は……」


 その言葉を聞いた瞬間。


 劉 愛蕾の表情が変わった。


 「『私は【神の虹】の秘密に近付いた。気になるならば、こちらへ合流せよ』――とのことです」


 「……何だって!?」


 劉 愛蕾が思わず声を荒らげる。


 「それは本当かい?」


 「詳細については、私も知らされておりません」


 ロイドは静かに首を横に振った。


 「しかし、伝言については一言一句、間違いございません」


 「……」


 数秒の沈黙。


 そして――


 「ちくしょう!」


 劉 愛蕾が勢いよく踵を返した。


 「こうしちゃいられない! 楊! 呉! 大至急アメリカへ向かうよ!」


 「「はっ!」」


 二人が即座に返事をする。


 先ほどまでの不機嫌さなど、まるで嘘だったかのようだった。


 『神の虹』


 その謎に近付いたという情報は、それほどまでに劉 愛蕾にとって重要な意味を持つものだった。


 「おい、ロイドとか言ったな」


 「はい」


 「ヴァレリアのところまで案内できるかい?」


 「もちろんでございます」


 「よし」


 劉 愛蕾が不敵な笑みを浮かべる。


 「じゃあ、このまま向かうよ。さっさと案内しな」


 「承知いたしました」


 ロイドが恭しく頭を下げる。


 「ヴァレリア・ハートランド……『橙塵の女帝』か……」


 その名を呟きながら、劉 愛蕾は遠くを見据える。


 ――こうして、『黄牙団』の三人とロイド。


 四人は、急遽アメリカへ向かうこととなった。


 そして、その行動が後に世界の情勢を大きく揺るがすことになるとは――


 この時の彼らは、まだ知る由もなかった。


 ◆


 ――舞台は、富士山の樹海へ。


 そのすぐ近く。


 つい先ほど出現したばかりのグランドダンジョン――『鬼皇の死都』


 そのダンジョンへ至る道路では、ダンジョン統括省の指示を受けた軍が、急ピッチで規制線の構築を進めていた。


 「おい! バリケードの設置はまだか!」


 「はっ! あと三十分もあれば作業は完了します!」


 「急げ! 冒険者が到着するまで、絶対に一般人を中へ入れるな!」


 ダンジョン統括省が派遣する予定なのは、Sランク冒険者――


 『蒼氷の聖女』星羅・バーンシュタイン。


 彼女が到着するまでには、まだ多少の時間が掛かる。


 その間に他の冒険者がグランドダンジョンへ挑戦すれば、一大事となる。


 さらに、他国による介入。


 あるいは事情を知らない一般人が迷い込む可能性もある。


 だからこそ、一刻も早く周辺を封鎖する必要があった。


 そして、その作業が佳境を迎えた頃だった。


 「……ん?」


 一人の隊員が、ふと顔を上げる。


 「何だ? あんなところに……人影?」


 ダンジョンへと続く道。


 その向こう側から、何かがこちらへ近付いてきている。


 「変だな……ここから先には、まだ誰もいないはずだが」


 「……あれ、本当に人なのか?」


 「それ以外に何がある? こんな場所にモンスターがいるわけがないだろう」


 ここは、ダンジョンの外。


 本来であればモンスターが存在するはずのない場所だ。


 もちろん、スタンピードでも発生すれば話は別だが――現在、そのような報告は一切入っていない。


 隊員たちは訝しげに、その人影を見つめる。


 そして――


 徐々に、徐々に、その姿が鮮明になっていく。


 「……おい」


 「どうした?」


 「何か……おかしくないか?」


 ついに、人影との距離が十分に縮まった。


 隊員の一人が銃を構える。


 「おい! そこで止まれ!」


 警告の声が森へ響き渡る。


 だが、人影は止まらない。


 ゆっくりと、こちらへ向かって歩き続けている。


 「……おい」


 別の隊員が、震える声で呟く。


 「あいつの頭……角みたいなものが見えないか?」


 「……!?」


 全員が目を凝らす。


 「……ああ。そう言われれば……」


 「ということは――」


 誰かが息を呑んだ。


 「……あいつは、モンスターなのか!?」


 嫌な予感は、的中した。


 目視できる距離まで近付いたその姿は、大柄な体躯を持ち、頭部には異様な角が生えている。


 口元から覗くのは、鋭く長い牙。


 その姿は、まさしく――鬼。


 人間とは明らかに異なる異形の存在だった。


 「……スタンピード」


 誰かが呟く。


 その言葉が、現場にいた全員の背筋を凍らせた。


 「おい! 早く本部へ連絡しろ!」


 「俺たちはここで食い止めるぞ!」


 直後、隊員たちが一斉に銃を構える。


 「撃てぇ!」


 銃声が森に響き渡った。


 無数の銃弾が、迫り来る鬼へと殺到する。


 しかし――


 『グォォォォォオオオオオオオオ!!!!!』


 鬼のようなモンスターは、銃声を合図にしたかのように咆哮を轟かせる。


 そして、隊員たちへ向かって、一気に駆け出した。


 新たに出現したグランドダンジョン――『鬼皇の死都』


 その出現を引き金として発生した、最初の異変。


 それはやがて――日本全土を震撼させる、新たなる脅威へと発展していくことになる。


 そして、この時まだ誰も知らなかった。


 『鬼皇の死都』の出現が――これから始まる巨大な事件の、ほんの序章に過ぎなかったことを。

新キャラも何気に出してしまってます。

ちなみに劉愛蕾が呟いた言葉は前からずっと書きたかった言葉でございます。


次回は掲示板回となり……


そして、その後に第三部へと続きます!


少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。

ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。


良ければ、感想もお待ちしております。


評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。

いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんばんは。 次の舞台は鬼系のモンスターがメインのダンジョンのスタンピードですかね…? 鬼と一口に言ってもゴブリンみたいな小鬼タイプから、オーガみたいな大鬼とバリエーションも豊かでしょうから、かなり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。