第11話 暴風と轟雷
『村雲 ミズキ』について
日本国内に存在している冒険者の中でも極めて異質な存在と言われている『村雲ミズキ』。
彼女は、戦闘力だけなればSランク冒険者にも並ぶと言われている。
しかし、彼女自体の人間性、そして彼女が率いる『闇鍋騎士団』の素行や世間の評判が大きくマイナスポイントとして働いているため、極めてSランクに近いAランク冒険者として存在している。
付け加えるならば、冒険者ギルドとダンジョン統括省の中では、世間に知られていない、Sランク冒険者になるための条件が一つだけ存在しており、彼女は未だそれをクリアしていないこともあるが……
前述のマイナスポイントが大きく影響していることも否めない。
そんな彼女が、ダンジョン統括省に『黄牙団』が侵入し始めた時に何をしていたかと言えば、ダンジョン攻略だった。
しかし、その目的は最近入手した剣の試し斬りだった。
その剣こそは、Sランク神器である『惨殺剣・礫死』、特筆すべき特殊能力などは持ちえないが、剣自体の攻撃力が並の剣と比較しても比べ物にならないほどのレベルの必殺剣だ。
彼女はとあるAランクダンジョンへ潜り、目に付いたモンスターたちを斬って、斬って、斬りまくっていた。
もちろん、配信担当のメイを引き連れ、『ダンジョンのモンスター相手に新兵器の試し斬りをしてみた』というタイトルで生配信をしながらだ。
とにかく、何の脈絡もなくモンスターを斬り続けるだけという悪趣味な動画配信のため、彼女のファンである『ミズキ親衛隊』以外からはまた不評を買ってしまうような配信内容だったが……
それでも彼女は満足気に鼻歌まじりに配信を続けていた。
そして、そんな試し斬りも三十分も続けていれば飽きてくる。
そろそろ辞めときかもしれないと考えていたミズキだったが、そんなタイミングで入ってきたのが、ダンジョン統括省からの緊急の依頼だった。
あの『黄牙団』がダンジョン統括省本部を襲撃すると聞いた彼女は、すぐに向かうことにした。
念のため、『闇鍋騎士団』の団員たちに先に向かうように連絡した後に、即座に転移の巻物を使用しダンジョンを脱出する。
「絶対にこっちの方が面白そう!急ぐよメイ!『スチーム・イカロス』発動!」
転移によってダンジョンの入り口まで戻ってきた瞬間、神器を発動し機械の羽根を纏う。
「えーと……私はどうしたら良いんですか?」
「もう全速力で現場に向かって!遅れちゃだめだからね!」
「いや、私は飛べない……」
「とにかく私は先に行ってるから!メイも時間厳守でよろしく!はぁっ!」
「ええええ……」
メイが何か言っているのも聞かずに、『スチーム・イカロス』を発動させると、轟音を響かせながらジェット機の如く飛翔を始める。
相変わらず自分の意見を全く聞いてくれないクランオーナーが、もの凄い勢いで飛び立っていくのを見つけながら絶望の溜息を吐くメイ。
彼女が必死の思いでクランオーナーに追い付くことができるのは、もう少し後の話となるのだった。
◆
そして現在――
風魔法を操るミズキと雷を操る劉愛蕾の戦いも佳境を迎えていた。
本気モードとなり、荒れ狂う風を身に纏い始めたミズキと……
これまた先程までとは比較にならない轟雷を全身に帯び始めた劉愛蕾。
「『スチーム・イカロス』発動!」
ミズキは更に神器を発動させ、機械の羽根を出現させる。
かなりの至近距離ではあるが、『スチーム・イカロス』の推進力を使い、攻撃の威力を最大限まで高める算段なのだろう。
「もう、どうなっても知らないからなぁ!……『応龍』!」
迎え撃つ劉愛蕾も新たなスキルを発動させる。
その名は『応龍』、最高位神器『霊獣輪・四天之瑞』が持つ四つのスキルの内の最後の一つだ。
スキルを発動した瞬間、劉愛蕾の体中から黄金色の光が放たれる。
……否。それは先程までとは比較にならないほどの轟雷だった。
無尽蔵に放出され続ける雷光があたかも黄金色の光のように見えている。
それほどまでに桁外れの高出力の雷光を身に纏う様子は……
まさに『黄雷の戦妃』と呼ぶに相応しい姿だった。
「あははー、さすがにヤバいかもー!それでも私は負けません!皆さん応援してくださいねー!」
続いてミズキは、自らの剣に纏っている風を収縮していく。
ミズキのジョブは超級職『風刃王』、風魔法を扱う魔剣士系統の最上位のジョブとなる。
そのスキルは自らの剣に風の力を付与し、何倍にも増幅させることが可能となる。
風魔法で発生させた暴風を剣に纏わせた上で、『風刃王』の能力で増幅。
そして、『スチーム・イカロス』の突進力で相手に叩き込む。
これこそが、ミズキの最大必殺だった。
〈おい……ミズキたんの本気だぞ……〉
〈ああ、あれを見るのは久しぶりだな〉
〈でも、あの攻撃って周囲への被害が甚大だったような……〉
〈俺もそう思ってた、あんな場所でぶっ放したら……〉
〈うん、やばい。間違いなくやばい〉
配信を見ている『ミズキ親衛隊』の面々も状況の危険さに気付き始めているようだ。
暴風と轟雷。
二人の力は、もはや災害と呼んでも差し支えないほどに膨れ上がっていた。
「お嬢様!さすがにあれは危険です!」
「わかってますわ!あんな馬鹿みたいなパワーがこんな場所で衝突したら……最悪全てが吹っ飛びます!」
そこへ『黄牙団』の二人を制圧したセイラと清十郎が再び駆け付けた……が状況は深刻だった。
「もうこうなったら、ダメ元で『最終階層』で全てを凍らすしか……」
「お嬢様!……しかし、それでは!」
「清十郎!もうそれしか手段はありませんわ!腹を括りなさい!」
このまま二人が衝突すれば、周囲への被害は計り知れない。
それだけは防がなければならないと覚悟を決めたセイラは、自らの最高位神器である、『極天衣・アークセラフィエル』を発動させる。
「『氷結地獄・最終階層』!」
セイラの背中に黄金の翼が出現したと同時に、ミズキが動き出す。
一歩踏み出すと同時に『スチーム・イカロス』が始動し、その速度を瞬間的に最高速度へ引き上げる。
「はぁああアアアアア!『テンペスト・ブレイク』!」
それは『村雲ミズキ』の最大必殺。
持てる能力の全てを注ぎ込んだ最強の一撃を全力で繰り出す。
「はっはぁ!面白いじゃないかぁ!……『轟雷牙』ァア!!!!』
劉愛蕾も自らの必殺話にて迎え撃つ。
『応龍』は、自らの属性……即ち雷を最大限に増幅させ放出する攻撃用のスキル。
その効果で得た無尽蔵の雷撃をその身に纏いながら放つ雷系統では比類なき威力を持つ一撃だ。
『風刃王』と『轟雷王』のそれぞれの必殺技が正面からぶつかろうとした瞬間だった。
「間に合いなさいなぁ!」
そこへ飛び込んできたのは『魔拳王』セイラだった。
全身から青白い凍気を放出し、黄金の翼を伴い突っ込んでくる。
セイラの意図はミズキと劉愛蕾の二人もろ共、絶対零度で凍結させることにあった。
『テンペスト・ブレイク』と『轟雷牙』、そして『最終階層』と、それぞれ異なる属性の膨大なエネルギーが一点に重なる。
荒れ狂う暴風と目もくらむほどの雷光、そしてそこへ降り注ぐ全てを凍てつかせる青白い光。
まるでこの世の終わりのような光景を前にして、そこにいる誰もが恐れおののき、自らの死を覚悟した。
――その時だった。
『さすがにやり過ぎですね。そろそろ終幕にしましょう……』
それは、そこにいる誰もが初めて聞く声だった。
静かで荘厳。
しかし、それでいてとても重苦しい、そう表現するしかないような声が周囲に響き渡る。
一体何が起きたのか?
その声を聞いた者全員が全く理解できなかった。
ただ一つ、知覚できなのは、周囲一帯に出現した巨大な魔法陣と、その魔法陣から放たれた紫色の光が周囲一帯を包み込む光景だけだった。
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