第31話 全力という名の絶望
アイリーンさんが全力で放った獄炎の閃光は、確実に大凶丸を捉えた。
セイラさんが、清十郎さんが、そしてこの場にいる全員が繋いだ一撃。
この一撃が通じないのならば、こいつに勝つ手段は存在しないのかもしれない。
だから……
どうにかダメージを与えていてくれ。
そんな祈りにも似た気持ちで、閃光の着弾点を眺めていた。
先程の、複数人での攻撃時には、爆発で発生した粉塵はすぐに大凶丸の怒号によって吹き飛ばされていた。
今回のアイリーンさんの攻撃は、先ほどの攻撃と比較すれば威力、規模共に段違いに大きく、その分粉塵の量もかなり多い。
今のところ、大凶丸に動きは見えず、粉塵が吹き飛ばされる気配も無かった。
もちろん、俺たちはいつ大凶丸が動き出しても対応できるように警戒は怠らなかったが……
やがて、爆発による粉塵が晴れていくと、そこには変わらず直立したままの大凶丸の姿があった。
あれだけの攻撃を受けたのならば、多少は吹っ飛ばされたりしていてもおかしくないだろうに。
俺のそんな考えを嘲笑うかのような、当初の位置より全く移動していない姿に、戦慄を覚えた。
まさか、ノーダメージなのか!?
最悪のイメージが頭をよぎるが……
「はっはぁ!なかなかやるじゃねぇか!この姿でこれだけの傷を受けたのは初めてかもなぁ!」
粉塵が晴れ、その姿が露わになると、大凶丸の状態が確認できた。
体中のそこかしこが焼け焦げ、血液のような液体が噴出している。
これは……間違いなくダメージを負っている。
しかも、かなりの深手だ。
「効いてますわよ!皆さん、このまま畳みかけなさい!」
いち早く反応したのはセイラさんだ。
その凛とした掛け声に、周囲のボルテージが一気に上昇するのがわかる。
行ける……行けるぞ!
弾けるように周囲の冒険者たちが動き始めると同時に、俺も即座に行動を開始する。
初めて感じた手応えだ、無駄にしてたまるかよ!
そう決意しながら、セプテントリオンを手に大凶丸へ向かう。
「『エクス・イグナイトブレイド』!」
「『氷結地獄、最終階層ァ』!」
「『覚醒せよ!銀嶺』!」
「『武御雷』!」
「『輝刃流奥義、五月雨大蛇』!」
「『アリオトォ』!」
アイリーンさんを筆頭に、この場にいる者の中でも上位の実力を持つ者たちそれぞれの、最強の攻撃による波状攻撃を仕掛ける。
満身創痍の大凶丸へこれだけの攻撃をを叩き込めば、さすがにただでは済まないはずだ。
大凶丸はそれに対し、自らが持つ刀を地面に突き立てると、静かに口を開いた……
「……『獄岩鬼』」
その瞬間、周囲にドンッ!という衝撃が走ったかと思うと、大凶丸の周囲の地面が激しく隆起し始めるた。
まるで地殻変動でも発生してしまったのかと見紛うほどの震動と、一気に天を衝かんばかりに隆起した岩盤により、全員の攻撃が無効化されてしまった。
「……っ!?こんなことまで出来るのか!聞いてないぞ!?」
初めて見せる敵の挙動に全員がその場から散開しながら離脱する。
そうしている間にも、大地震の如き、激しい震動が発生し続け、こちらの動きを阻害し続けていた。
そんな大災害のような技を引き起こした張本人は、隆起した地面の頂点でこちらを見据えている。
「あいつ……まさか……」
この期に及んで初めて見せてきた、大凶丸の新たな技は、恐ろしいほどの威力を誇るものだった。
規格外のステータスに加え、あんな恐ろしい技を持っているなんて……
うんざりした気持ちと共に、一抹の不安が頭をよぎる。
「皆さん!危険です、一度退却しなさいな!」
セイラさんが血相を変えながら全員に退却を呼び掛ける。
ようやく震動が収まりかけ、阻害されていた動きが取れるようになってきたので、全員がその呼び掛けに応えようとしたその時だった……
「はん!逃がすかよ!『灼炎鬼』!」
次に、大凶丸がとった行動は、何とまた新たな技の発動だった。
さっきの『獄岩鬼』という技は、間違いなく地属性だった。
俺がさっき感じた不安はというのは、
ひょっとしたら大凶丸は全属性の大技を使用できるんじゃないか?
というものだった。
そして、その不安は残念ながら的中したようだった。
アイリーンさんが使用している魔法とほぼ同規模だろうか?
強烈な火炎が迸り、蛇のようにうねりながら暴れ回り、周囲を灼熱で包んでいく。
「『アーク・グレイシアバリケード』!!!!皆、わたくしの後ろに集まりなさい!」
セイラさんが即座に動き、氷の障壁を張り巡らし、間に合う者はその背後へ回り込む。
障壁への非難が間に合わなかった者は、上下左右から迫りくる炎のを必死で回避している。
これは、まずい!
「はっはぁ!これでも死なんとは、俺も全力を出した甲斐があるというものよ!」
今までのステータスに任せた暴力は、やはり全力では無かったらしい。
この大規模攻撃を織り交ぜた戦い方が大凶丸の戦い方……
ということは、これから他の属性攻撃も容赦なく放ってくるに違いない。
そして、おもむろに刀の切っ先を天に向け始めた大凶丸の姿を見て、自分の背中に寒気が走るのを感じた。
「じゃあ、これはどうだ!?『烈風鬼』!」
更なる力が解放され、大凶丸の周囲に展開されるのは、荒れ狂う暴風だった。
触れるだけでその身が引き裂かれそうなほどの暴風が吹き荒れると、大凶丸を中心に巨大な竜巻と化してしまった。
「こ、これは……」
大地震に、灼熱地獄、そして大嵐。
天変地異を起こしかねないほどの大凶丸が放つ技の数々に、俺たちは容赦なく蹂躙されていくのだった。
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