第19話 スタンピード最前線では……
スタンピードが発生した最前線では、依然として激戦が繰り広げられていた。
現在、最前線と目される場所で戦っているのは、クラン『九頭竜』、『金剛の刃』、そして『闇鍋騎士団』、もっとも『闇鍋騎士団』はクランオーナーである村雲ミズキは不在の状態のため、本調子とは程遠い状況ではあるが。
そして、その中でも最も活躍しているのは、間違いなく『九頭竜』だろう。
現に、今も敵の進撃の勢いを『九頭竜』が全力で食い止めている。
「どらァアア!!!!」
『鉄騎竜』、黒鉄が鬼たちの攻撃を凌いでいる。
地面に突き立てられた漆黒の大盾は、さながら巨大な壁の如くそびえ立っている。
鬼の突進、炎のブレス、武器での攻撃、それら全てが黒鉄の大盾に阻まれ、止まり、霧散していく。
ここで、周囲の者たちからすれば、その光景が少し奇妙であることに気付く。
鬼たちはまるで親の仇とでも出会ってしまったかのように、黒鉄一人を狙ってこぞって突っ込んできているのだ。
他にも戦える者はたくさんいる、しかし、どの鬼も馬鹿の一つ覚えのように黒鉄のみを標的とし、我武者羅に突き進んでいる。
そして、黒鉄の背後には一人の少女が立っていた。
その少女は両手で印を作り、何かを念じているように見える。
『九頭竜』の一人、『幻影竜』水鏡だった。
彼女の幻術で鬼たちは、幻惑状態になってしまい、ただひたすらに黒鉄のみを狙うようになってしまったのだった。
鬼たちの総攻撃を一身に引き受け続ける黒鉄。
その頑強さに、鬼たちの勢いは完全に削り取られてしまった。
黒鉄の方もさすがに無傷とはいかず、大盾を持つ腕からは血が滲み、疲労で息が乱れている。
しかし、その黒鉄を癒しの光が包み込んだ。
すぐに全身の傷は治り、乱れていた息も整い始める。
『九頭竜』の一人、『浄化竜』、癒音だ。
彼女は背負っていた巨大な十字架を担ぎ上げると、そこから癒しの力を含んだ風を送り、他のメンバーを回復させている。
『九頭竜』のメンバーの中で唯一の回復役として君臨している彼女は、このような広域戦では絶大な効果を発揮している。
その効果もあり、再び全快の状態に戻った黒鉄の目には俄然強い光が宿る。
自らが倒れない限り、敵は決して越えられない。
背後にいる全ての命を背負う覚悟を以て、漆黒の大盾を持つ腕に力を込める。
「しゃぁあ!!!!どんどん来いよぉ!!!!」
黒鉄の叫びと共に、大盾が輝きを放ち始める。
「おい、黒鉄ぇ!俺も混ぜろよコラァ!!!!」
絶叫と共に飛び込んでくるのは不知火だ。
炎を纏った拳を大地に叩き込んだ瞬間、周囲の空気が震える。
「派手に燃えろよ、だっしゃぁああ!!!!」
轟音と共に、地面から火柱が走る。
まるで火の竜が大地を這うように、『爆炎竜』、不知火の全身全霊を込めた一撃が、無数の鬼たちを焼き尽くしていくのだった。
「やるじゃん、不知火さんー♪」
「本当に、今日は張り切ってるみたいだね」
不知火の攻撃で蹴散らされた鬼たちの、後始末の役目は『雷迅竜』、武雷と『月穿竜』、飛燕の二人が担う。
雷を纏った武雷の槍捌きと、飛燕の精密な弓での射撃は、的確に要所で鬼を仕留めていく。
『金剛の刃』のクランオーナーであるアキラは『九頭竜』の戦闘力の高さを驚愕の表情で眺めていた。
「『九頭竜』の奴ら……あそこまで強いのかよ……」
『九頭竜』のメンバーは全員が自分と同じAランク冒険者だ。
恐らく個と個の戦闘力であれば、自分でも互角に戦えるとは思う。
しかし、クラン『金剛の刃』と『九頭竜』で比較すればどうだろうか?
恐らく勝てはしないだろうとアキラは考えている。
『金剛の刃』は基本的にはバランス型のクランと言われている。
Aランク冒険者であるアキラを筆頭に、バランスを取ることに秀でているメンバーを集めているため、どんな状況でも順当に能力を発揮し、ある程度の成果を収めることが出来ると評判を得ているのだ。
そして、その結果が現在の国内屈指のクランの一つであるという評価へ繋がっているのは間違いない。
しかし、『九頭竜』はその真逆を行くクランだ。
それぞれの分野で秀でているピーキーな面子を集めており、全員がその道のエキスパートでありAランク冒険者だ。
『九頭竜』には連携などというものは存在せず、それぞれが好き勝手に暴れ回るだけのクラン。
世間ではそのようなイメージを持たれているのは否めない。
現に、アキラ自身も『九頭竜』に関してはそういうクランだと思い込んでいた。
だが、いざ同じ戦場で戦う時になるとクランとしての完成度と連携の見事さに只々圧倒されるばかりだったのである。
「はは……これじゃあもう同じ『国内屈指』とはもう名乗れないよなぁ……」
『九頭竜』と肩を並べて戦うのは、今回が初めて、そしてその初回の戦いで自分達との戦力の差をこれでもかというほどに感じてしまったのだ。
それでも、アキラはAランク冒険者、こんなに強力なクランのメンバーが自分たちと共に戦ってくれているのだとすぐに気持ちを切り替える。
そういう目で見た場合、それぞれが目覚ましい戦果を上げ続けている『九頭竜』の頼もしさは異常とも言えるほどだった。
それぞれがそれぞれの役割を全うし、その結果として自分たちよりも遥かに多くの鬼たちを撃退しているのだ。
しかも、今目の前にいるのは六人のみ、『九頭竜』の名の通り、本来はメンバーは九名いるはずなのだ。
ここにもう三名のメンバーが加わるとすれば、さらにとんでもないことになるのは容易に想像できる。
「はん……心強いじゃないか……」
アキラは半ばあきらめ気味に呟いた。
スタンピード最前線は国内有数のクラン軍団の活躍で、冒険者側の圧倒的優位の戦局で進行していた。
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