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魔王様の側近に転生しました!?

「ふぇ。ふぇえええ!」


 ここはどこだ、と言ったはずの自分の声は、赤子の泣き声だった。


 一旦泣き止んで辺りを見渡すと、ぼーっとした風景が見えない。


「あらあら、起きてしまったのね? ルルファリアちゃん」


 自分の名前は、ルルファリアというのか。


「お母様が、今抱っこしてあげますからね」



 そう言って、自分の顔を覗き込んだ母親の姿に驚愕した。


「ふぇぇぇぇぇん!」


 魔人!??


「あらあら、元気な子ね」


 そう言って母親に抱き上げられた。魔人の顔が近づいてきて、より一層恐怖に駆られる。抱かれた母親の手から逃れようと必死に暴れたが、産まれたばかりのようで上手く動けない。


「お父様にも抱かせてくれ」


 そう言って手を伸ばしてきたのは、魔王の四天王の一人、魔人ミカデリオだった。


「ふ、ふ、ふ、ふぇぇぇぇぇぇん!」


 あまりの恐怖に尿意が抑えられなかった。


「む? 温かいぞ?」


「あらあら、おしめが濡れて不快だったのね。お母様が変えてあげるから」


 手慣れた様子の母親におしめを変えられ、震えが止まらなかった……実際には赤子の身体は震えることなく、己の手によって顔に傷を作っただけだったが。






「ルル、メルお兄様と遊ぶぞ!」


「いや、アイシュお兄様と遊ぶぞ!」



 自分の魔人の姿にも、両親の姿にも慣れてきた頃、私ルルファリアには二人の兄がいた。体格はもう大人と変わらないくらい立派な兄たちは、きっと人間世界でもその名を馳せているのだろう。前世の記憶はもうはっきりとは残っていないが、人間側の気持ちを想像してしまって、昨日の戦勝会に少し思いを馳せてしまった。


「メルリアル、アイシュ。よくやった。初めての戦いとは思えない活躍だったぞ」


「ありがとうございます、お父様! 僕は人間を五百人も倒しました!」


「兄上に負けないように頑張ります!」


 彼らと父が合わせて何人の人間を殺したのか想像もしたくはないが、魔人年齢5歳になった私もそろそろ就職先について考え始めないといけないらしい。


「ルルは将来何になりたい?」


「アイシュお兄様的には、ルルには一番安全なところにいてほしいな」


「そうだな。お父様たちの近くで戦うのは、ルルには危険すぎる……魔法様の側近なんてどうだ? 魔王様の近くなら一番安全だ」


「さすが父上! ルルにぴったりの職場です」


「はっはっはっ、では、魔王様に打診してみないとな」


 そう言って空を飛んでいったお父様はきっと魔王様に直訴したのだろう。あれから一晩経っただけの今、なぜか魔王城の招待状を手にしている。なんと恐ろしい。






「ルルファリアと言ったか。ミカデリオの娘か……。あれの娘ならもう少し……肉体派を予想していたが、思ったよりも線が細いな」


 マッチョ魔人のお父様と、その血を色濃く写したお兄様たち。その娘で妹の私が魔王の側近になりたがっていると聞いて、魔王様も困惑したのだろう。うるさいから面談し不合格にしようと思っていたのがひしひしと伝わってくるし、私的にも魔王城なんて恐ろしいところで働いたら、私のか弱い胃に穴が開く。


「不合格、ということで帰りますね」


 そう言って帰ろうとしたところ、魔王様に呼び止められた。


「一応、形式的に試験だけ受けてもらおう」


「ふぇ!?」


 仕方ない、最低点をとって帰るか。と、思ったらきらりと魔王様の目が光って釘を刺された。


「ルルファリア。君の父は魔王の腹心、四天王の一人だ。その娘が無様な結果を残したら……どうなるかわかっているな?」


「ひ、は、はい!!」


 ちょうどいいくらいに手を抜いた。人間の頃の学校で一年生で学ぶ程度の内容だった。この難易度なら、六割を目指せば合格にはならないだろう。合格点は七割くらいの難易度だ。というか、側近の見習い向けの試験なのか? 簡単すぎて魔族の存続に不安を覚える。




「ルルファリア。君は天才だ」


「は!?」


 試験の採点が終わったと呼び出され、結果を聞きにきたら魔王様の面前に呼ばれた。四天王の娘は高待遇なんだなと考えていたら、違ったらしい。


「……」


「五歳にして、正規の採用試験の問題でこんな高得点をとるとは」


 高得点、正規の試験、という言葉は耳を流れていった。そうだ私は五歳だ。人間の学校で七歳で学ぶ内容を六割もとってしまった。悔しい気持ちで魔王様の横にいた執事然した魔人に視線を向けると、ぴったり六割の六〇点の回答用紙を差し出された。


「大人でも平均点十五点。合格点が十七点の問題で……六〇点も。この私でも二十五点でした」


「は?」


 あまりの点数に頭が痛くなった。それと同時に思い出した。前世で恐ろしい戦闘力で恐れられた魔人は、私の晩年にはその知能の低さのせいで人間の罠にかかりまくり、絶滅の危機に陥っていたのだ。別の世界線なのか、時代を戻ったのかわからないが、このままだと絶滅する。そう理解した私は、魔族に教育の機会を与えることを決意した。恐れられている今のうちに人間と平和協定を結び、それぞれの居住区域を超えないように生活することを約束した。


「魔王様。もう少し知性を感じさせる発言を。この内容では、人間に舐められます」


「我が側近は厳しいな」


「……ちなみに魔王様の特点は?」


「二十点だ」


 胸を張る魔王様に呆れたため息をついたところ、慌てた様子の魔王様がとんでもないことを暴露した。


「そ、そなたの父ミカデリオが五点、兄のメルリアルは六点、アイシュは七点だぞ?」


「……参考までに、お母様は?」


「……夫人は二十一点だ」


 母の点に安堵の息を吐きそうになって、気がついた。安堵する点数ではない。


「お父様、よく四天王になれたな」


 私の小声に誰もが目線を逸らして、誰からの返答もなく消えていった。

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