4話ダンジョンへ行こう
俺は2日分のバイト代をはたいて晴れて冒険者になった。
冒険者にはランクという階級分けがあり、下からG、F、E、D、C、B、A、Sとなっている。
俺は現在Gランク。かなり手加減したが、火炎魔術を使ってみせたので初級魔術師という肩書も得た。異世界での活躍を証明することが出来れば多少飛び級があったかもしれなかったが、面倒事は避けたいので黙っていた。
俺は短剣を1本、携帯食料や水を3日分用意してリュックに詰め、返り血を避けるために使う安物のマントも羽織る。あとスマホと財布は忘れずに。魔導具の類いは魔術に心得のある俺には不要だろう。携帯式魔導灯くらい買って良かったのだろうが、俺の懐にはブリザードが吹き荒れているのでそもそも無理な話だ。
初心者向けのダンジョンは5階層程度で1〜2日で踏破可能らしい。軽装だがこれで十分だろう。
俺はGランクダンジョンオオトカゲの洞窟にやってくる。ここは俺の家から最寄りのダンジョンで、難易度の低さやオオトカゲから獲れる鱗の換金率が良く初心者に人気が高い。またシーズンの変わり目から既に1週間以上経過しており、内部構造は冒険者支援アプリ等で検索すればすぐに分かるところも非常に助かる。
シーズンとはダンジョンの内部構造変化の周期のことだ。連盟標準時刻で3〜4ヶ月に1度起こる。空間の変化にはある程度規則性が存在し、モンスターの強さや種類が変化することはほとんどないといわれている。
ちなみに階層とは地形やモンスターの分布から考えられた区切り目のことで、境界ごとに降りる階段があるとかではないらしい。
オオトカゲの洞窟の入口は広場になっており、冒険者向けの屋台が並んでいる。オオトカゲをモチーフにして作られた像が中心に鎮座しており、人気の待ち合わせスポットとしても知られている。
ちょっとしたテーマパークの様な賑わいを見せるオオトカゲの洞窟前広場。俺は人混みをかい潜り、どうにかこうにかダンジョンの入口にたどり着く。
大地にポッカリ口を開けた穴に石組みの階段が続いている。階段を降りていくにつれて喧騒は遠ざかり、ひんやりとした空気がまとわりついてくる。
初級とはいえ年間数十人程度は死人が出ている。自分がそうならないという保証はどこにもない。俺は少し気を引き締める。
「お待ち下さい」
背後から女性の声。相手を刺激しない様にゆっくりと振り返る。
「大人1枚1800円です」
受付のお姉さんの笑み。コウモリの羽が彼女の背中から生えている。有翼人? いや魔人なのだろうか。
「あっ、はい」
俺は財布からお金を取り出して手渡す。
「はいちょうど頂きます。こちらをどうぞ」
名刺ほどのサイズの紙で中心にアルファベットが何文字か印刷されている。俺は無意識に心眼で分析する。術式が付与されているわけではない。ではダンジョンの入口等で使うパスワードなのか。
「場内で利用可能なWi-Fiスポットのパスワードです」
「あっ、はい」
「お気をつけて」
彼女は音もなく消える。予備動作もない。高度な空間移動魔術を容易く使っているところを見るに、やはり彼女は魔人なのだろう。
俺は呆気に取られていたために大切な儀式を忘れていたことに気づく。俺がダンジョンに潜り続けようとする限り絶対に忘れてはいけない呪文がある。
「すいません! 領収書もらえますか!」
洞窟の中を響き渡る言葉。彼女はもういってしまったのだろうか。
「はい承知しました。ギルド名はどうされますか?」
コウモリ羽の女神は音もなく再臨する。
「チームウマシカでお願いします!」
適当にギルド名を付けたことを後悔する暇はない。領収書があればダンジョンの入場料は経費にできる。これはとてもとても大切なことなのだ。
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