1話とりあえず生きてる
俺は異世界に転移して、その世界を救った。そして勇者として誉め讃えられ、石像まで作られた。
しかし俺はとある国の王を暗殺したという濡れ衣を着せられ、大罪人として追われる身になった。その後色々あって元々の世界に帰還することに成功した。
まあ俺の過去は大した話ではない。問題なのは俺が放浪していた間に起こっていた出来事だ。
世界再構築災害。
本来決して交わることのない平行世界が何かの拍子に交錯してしまい、デタラメに繋ぎ合わされてしまった。デタラメな世界はすぐに崩壊して、文字通り粉々になってしまったらしい。
その後、なんかすごい魔術師が何人も集まって、バラバラになった世界をパッチワークのように繋ぎ合わせた。平行世界から集まった選りすぐりの魔術師たちであっても、完全に復元することは到底無理だったのだろう。数多存在した平行世界の中から比較的マシな部分を寄せ集めて繋げたのが新世界と呼ばれたりもする今の世界だ。
俺が救った世界もおそらく世界再構築災害の餌食になってしまっただろう。厄介なことにこの現象は時空間すらもグチャグチャにしてしまっているらしく、俺が魔王を倒した時間軸が存在するかも分からない。こちらに戻ってきてから一応転移先の世界の痕跡を探ってみたが、今まで何も見つけられない。
俺の努力はどこにも存在しない。誰も知らない。
ポーン!
多機能魔導術式搭載型携帯電話の通知音が鳴る。
もう19時だと!
毎週金曜19時からはエタぶりチャンネルのダンジョン配信と決まってる!
情報を集める過程で俺は配信というものを知った。そうして新たな生きがいを見つけたのだ。
スマホを操作して、ダンジョンストリーム(略してダンスト)のアプリを開く。
ほんの数秒待ち受け画面が表示され、配信が始まる。
青髪の美少女がこちらに笑みを投げかける。
「こんアイシクル〜。ククーリシアン・エターナルですぅ。えっとねえ、今日わあ、新しいシーズンに入ったウメダダンジョンを攻略していきたいと思いますぅ」
背景は薄暗く荒れたビルの中。ひび割れたコンクリートの上に散らばったガラス片をククーリシアンが踏みしめながら進む。
「きゃあ、ゴブリンの群れだあ。こんな雑魚にクーちゃんは絶対にやられないからあ!」
ほんとにぶりっ子だよなクーちゃんは。
「えーい、氷獄柱!」
地面から巨大な氷柱が突き出し、ゴブリンを串刺しにしてしまう。致命傷を受けたゴブリンは煙のように消え、そのうちの何体かは光る石ころをドロップする。
ククーリシアンは氷妖術を独自解釈で発展させた氷獄術の使い手だ。本人曰く、燃費が悪いが広範囲高火力。
ゴブリンの群れを鮮やかに処理したククーリシアンは腕にはめたスマホの画面に目を走らせる。
「おい誰だ!?
わらわは見逃さないぞ!
良い歳してその喋り方キツイっていったヤツ、正直に出てこい!!
わらわはピッチピチのJKだから!!
全然キツくないから!!」
敵が弱くて見応えがない低階層は視聴者に絡むことで配信を盛り上げつつ、サクサク攻略していく。その手腕は流石というより他なく、昨年の年間スパチャランキング世界6位なだけはある。
俺はエターナルブリザードチャンネルの主、氷獄女帝ククーリシアン・エターナルのダンジョン配信からしか得られない栄養を摂取して、今日も元気に生きている。
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