表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/160

第1章「塔からの脱走」【5】

 しかしテネリミは違う。


「フェリノアの呪術師よ。なぜバドニアの私を選んだ? 私を特別だと言ったが、本当にそうか? 私のように陰に埋もれて消えていく者など、どこの国にでもいるはずだ。言え、狙いは何だ?」


 ガーディエフの言葉にもテネリミは顔色を変えることは無い。


「そうですねえ。確かに、決定的な理由は別にありました」


「別の理由とは?」


「もう1人、必要不可欠な者がバドニアにいます。どうしても外せない欠片。そして、そこにガーディエフ様がいらっしゃいました。ガーディエフ様も必要だと感じたのです、これからの計画に」


「なるほど、私はついでという訳か」


「お気に召しませんか?」


 ビルトモスはガーディエフの動向を伺っている。ついでという扱いが気に食わないと言うなら、テネリミに今回の件については断りを申し出る。もちろんガーディエフはこのまま逃がす。他国へ亡命という形でも良い。


 テネリミを斬れと命じられれば、実行するのみ。術をかけられる前に剣を抜けばいいのだ。


「いや、面白い」


 言葉通り、ガーディエフの口元には笑みが浮かんでいた。


「主役かついでかなど、どうでも良い。こうして生き延びている事こそが重要よ。なあ、ビルトモス?」


「実に、仰せの通りに御座います」


 内心ホッとしていた。ビルトモス自身はテネリミを信頼できる人物だと思っていたから。その気なら、最初から自分にもガーディエフにも術をかけて操れば良いだけのこと。それをわざわざ説得したのは、ガーディエフに敬意を払ってくれたものだと考えていた。


「これからどうする、テネリミよ? その必要不可欠な者の元へ行くのか?」


「ええ、計画は動き出しております。一緒に迎えに参りましょう、あの娘を」







 マセノア国首都ムーバット。


 本城ヨール・マール。その城門。


 通商大臣ヤーべは今まさに旅立とうとしていた。10数名の見送りの中にいる経済大臣と握手を交わしている。


「頼んだぞ、ヤーべ。我が国の明暗はお前の手腕にかかっておるのだ」


「お任せ下さい。国王に最上の報告が出来るよう、全力を尽くして参ります」


 10数名の者たちに手を振って見送られ、ヤーべの乗る馬車と3騎の護衛は西へ向けて出発した。




 馬車の中のヤーべはしかし、不安で一杯であった。両肩にのしかかる重圧で、真っ直ぐに座ってなどいられない。


「いやもう、冗談じゃないよ。俺1人に全責任押し付けるなっての!」


 彼が大臣に任命されたのは、僅か5日前の事である。この突然の人事はヤーべにとって青天の霹靂と言う他ない。


 通商院に勤めて12年が経つが、別段目立った仕事をしてきた訳ではない。本人も、可もなく不可もなく務めを果たせば良いと考えていた。そんな彼が大臣などと、本来なら誰もが首を傾げる所である。


 任命後すぐ、彼は出張を命ぜられた。目的地はトミア国。そこで彼は他国の大臣と会い、国同士の交易の契約を締結しなくてはならない。


 この世界で最も小さな国マセノアが豊かに発展していく為には、他国との交易を増やしていくしかない。それが叶わなければ、経済はジリ貧となるのは目に見えている。


 だからこそ、各国の大臣が集まる今回の好機を逃す訳にはいかないのだ。


 それが新人大臣のヤーべに託された。




 ちなみに前任者は副大臣に格下げになったのだが、大臣のヤーべが留守の間は副大臣が通商院を仕切る事になる。つまり何も変わっていない状態である。


 前任者が逃げた、とはヤーべでなくとも考える。ヤーべに同情する者は少なくなかったが、こればかりはどうしようもない。


「国王も期待している」


 この言葉が彼をがんじがらめにした。


 家族の顔が目に浮かぶ。妻と娘2人と息子が1人。


 もしも上手くいかなかったら、どんな顔をして帰ればいいのか。国王の期待を裏切ったと、逆賊扱いでもされてしまうのではないか。


 職を失い、家族共々路頭に迷う。最悪な未来ばかりが脳裏をよぎる。


 今から転職について考えた方がいいかもしれない。


 幌馬車の中にヤーべのため息が充満していく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ