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第1章「塔からの脱走」【3】

 円形の塔の壁伝いに設置された階段をビルトモスの後ろから降りるガーディエフは、ふと疑問に思う。


 これで脱出出来てしまうのか?


 こんなに簡単なら、もっと早く助けに来てくれれば良いのに。


 それは不満も混ざっていた。しかし今はそれを口に出来ない。部屋を出る前、ビルトモスから声を漏らさぬ様にと強く言われていたからである。


 安全な場所まで行ったら、とにかく言ってやらねば気が済まない状態のガーディエフであった。




 長い階段を降り切り、外へ出る扉を開ける。そこには見張りの兵が1人立っていた。ガーディエフは緊張した。止められるかも知れない。


 しかし見張りの兵に動きは無かった。自分たちを止めるどころか、こちらを見る事も声をかけてくる事すら無かったのだ。


 塔の外へ出る事もすんなりと完了した。




 近くに馬車が停められていた。ガーディエフが人生で1度も乗った経験の無い、粗末な馬車であった。幌も付いていないので、雨風には無防備な、荷物を運ぶ為のもののようだ。ガーディエフが荷台に座り、ビルトモスが手綱を握る。


 本城の敷地内を、ビルトモスはゆっくりと馬車を移動させた。ここでも2人は無口を通した。


 途中、巡回中の兵とすれ違った。この時も、兵は顔をガーディエフたちに向けるでもなく通り過ぎた。見て見ぬふりなのだろうかとガーディエフは思った。




 城門が開けられた。外側の左右に衛兵が1人ずつ立っている。やはり、そのまま馬車は通過出来た。


 外堀にかけられた石橋を渡り切ると、ビルトモスは急に馬たちを走らせた。ガーディエフは荷台にしがみ付き、激しい揺れに耐えた。




 しばらく平地を右に左に折れながら走り、いつしか山道を上っていた。レケジャ山だというのはガーディエフにも分かった。子供の頃、兄のスカリエチや召使いたちと散策に来たのを覚えている。


 あの頃、兄弟は仲が良かった。


 山の中腹辺りで道幅が狭くなり、馬車では進めない。2人は徒歩で先へ向かった。


 何年も部屋に閉じ込められていたガーディエフにはキツい。ビルトモスは急かすばかりで、休ませてくれない。


 頂上がぼんやり見えてきた辺りで平地が広がっていた。そこに1軒の山小屋があった。


 2人はその中へ入っていく。




 山小屋の中に入ったガーディエフは、もう動けないとばかりに床に倒れ込んだ。


 ビルトモスは仰向けのガーディエフの鎧を全て脱がしてやった。中に着ていた肌着は汗でぐっしょりと濡れている。




 ビルトモスに支えられ上体を起こしたガーディエフは、そこにもう1人いる事に気が付いた。


 彼らが中に入ってきてから1言も口にせず椅子に腰掛けていたのは、女であった。


 ビルトモスより若干若く見える彼女は、自らをテネリミと名乗った。


「手紙の主か」


「初めまして、ガーディエフ様。これまでは手紙で失礼しました」


 何の余裕か、彼女から緊張感は伝わって来なかった。


 ビルトモスは兜を脱ぎ、テネリミと同じく椅子に座る。




 いざテネリミを前にすると、ガーディエフはどこから聞けばいいのか分からなくなってしまった。それを見透かしたのか、テネリミの方から口を開いた。


「まずは私の事からお話しいたしましょう。私はフェリノア王国でかつて城勤の呪術師をしておりました」


「なんと、フェリノアとな⁈」


 ガーディエフは素直に驚いた。その反応にテネリミは少し嬉しそうである。


「フェリノアの女が、なぜバドニアという異国の地へやって来たのか? もちろんガーディエフ様をお助けする為です」


「私にそんな価値が?」


 テネリミは更に口角を上げ、目を細める。


「ガーディエフ様は特別な存在でいらっしゃいます。そのような御方があんな塔で人生の幕を閉じなければならないなんて、不条理以外の何ものでもありません」


「特別…私が…」


「だからこそ、ビルトモスも危険を顧みず陛下の元へ馳せ参じたので御座いますよ」


 ビルトモスの方へ視線をくれる。彼はガーディエフを真っ直ぐに見つめていた。


「これまで救出が遅くなりました事を心苦しく思っておりました。お許しください」

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