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私の中の怪物  作者: 寿和丸
4部 今日の花を摘め
89/89

タイトル未定2025/09/27 12:49

コーツが言いたいのは、この人物達を放っておいていいのか、始末しないのかと言う問いかけだった。

「あいつらは今、全員、アメリカにいる。お前がアメリカに行ってくれるなら、人知れず始末できる。」と恐ろしいことまで言ってくる。

「いや、少し待て。考える時間をくれ。」

コーツは殺る気満々だ。

「大丈夫だ。相手は心臓麻痺か脳ショックで死ぬ。検視しても病死として扱われるはず、誰からも死因に疑いを持たれるようなことはない。」と自信込めて言う。

コーツの言葉に間違いはないだろう。これまでもやりすぎのことはあっても、ミスは一度もなかった。何度も助けられてもいる。コーツの言うことなら多分抜かりないだろう。

だが、それでいいのかと思う。

「確かに、コーツの言いたいことは分かる。誰にも疑われずに敵を殺せるなら消したいと思うだろう。だが、敵だからといって、殺してよいのか。」

「このまま放っておけば、また命を狙われるぞ。こっちの命を狙われる前にやっちまって何が悪い。」

「そうは言うが、暗殺するというのは気が進まない。」勇次は否定的だった。


勇次がコーツの考えに賛成できないのは、どんな理由があっても暗殺に抵抗があった。何よりも人を救う職業である医師が、人を殺す計画など許されるはずもなかった。

丸一日考えた結果、結論を妥出した。

「人を殺さないでもやれることはある。相手と同じことをしていたら、復讐の繰り返しになるだけだ。また命を狙われるかもしれないが、暗殺と言う手段は絶対ダメだ。」

「そんな甘いことでは生き残れないぞ。殺されてもいいのか!」

「その時はその時だ。死ぬのは嫌だが、だからと言って殺人してよいはずもない。」命を失ったらそれまでの命と肚をくくれた。

「では、このまま何もしないつもりか?」コーツは不満たらたら。

「私たちは不正なことをしなかった。これからもしない。」

それが勇次の強い意志の源でもある。


その後、アメリカ大統領のSNSに「世界の3悪人」としてリストの名前が出る。コーツのせめてものうっ憤のはけ口だった。

世界でも一番見られているとも言われるアメリカ大統領のSNSに、唐突にリストアップされた名前。

「この人たち誰?」と評判になった。誰一人、名前に心当たりはない。

一時ではあったが、不思議がられ話題になった。が、それも間もなく忘れ去られて行く。


そして5年が経過する。田舎町で小さな教会にフォーマル姿の者達が集まっていた。

今日はショーンと美沙の結婚式が身内だけで行われる。

勇次は美香と一緒に娘の晴れ舞台を見ていた。そこに声を掛けられた。

「まさか、君と親戚関係になるとは思わなかった。」それはスミスの言葉だ。

「いや、私もです。」勇次は車椅子の相手に相槌を打つ。

二人の出会いのことは詳しく聞いてないが、どうやらショーンの一目ぼれだったようで、美沙に猛烈なアタックをしたらしい。

結婚に反対することでもないが、意外なことでもあった。

老齢のスミスは最近では足腰が弱くなり、電動車椅子が手放せなくなっている。そんなこともありショーンは敬愛する祖父に早く晴れの姿を見せたかったのかもしれない。

「私はこの通り、情けない格好になったが、今や日本に来て良かったと思っている。来日当初の頃は、日本の何にでも相手との了解を求めるやりかたに非効率でイライラしたものだ。ところがそのやり方が、他人との協調を生み、争いを未然に防いでいるのだと気づかされた。日本が安定しているのは国民全部が調和を求めているからだと思う。権利や主張ばかりのアメリカでは安定を得られない、混乱と分裂を産むばかりだ。今では安心して孫の成長を見られ、そして今日は成長した姿を見ることが出来た。本当に良かった。

ショーンは日本人になっている。私も日本人になることにした。もうこんな年だから日本に貢献できることは少ないが、妻と二人でこの地で最期まで生きていこうと決めた。」


勇次は若い友人たちに囲まれ笑い合っている幸せな二人を見ながら、つくづく思う。

「母国を捨てると決心したスミスの言葉は重い。彼は心からの軍人だった。それだけ母国愛が強い。その彼が日本のほうが良いと思ったのだ。

親から孫へ、そして次の者に、その地で人は代を重ね生きていく。その地の良し悪しを決めるのは、地理や自然環境だけではない、人だ。人とのつながりがスミスの心を変えた。」

初対面の頃は敵意を持っているようにも感じたスミスの変わりようは感慨深かった。そして勇次は自を見つめ直す。

「私も変わってしまった。若い時は野望を持ち、なんでもできると思っていた。今は現状で十分だと考えている。できなかったことは多くあるが、それは若い人に任せればよい。」

若い時は野望に満ち、時代の流れに逆らうことも厭わなかった。それが今は流れに身を任せようになっている。

あれから謎の集団は襲って来ないが、また来るのは間違いないだろう。ただ降りかかる火の粉は払うが、反撃は考えない。

襲われれば、生きるために抗らうのみ。

「襲われたなら、コーツ、任せる。」コーツに呼びかける。

「ああ、任せとけ。返り討ちにしてやる。」不敵な笑いが勇次の体に広まる。

今後もこいつとやっていくことになるのか、あきらめと期待まじりに思った。

これで最終です。ここまで読んでいただき有難うございました。

当初の構想と少しずつずれて、途中で中断したように纏めるのに苦労した作品です。

ラストで意外な展開を考えていたのですが、主人公の性格が変わると思って止めました。

来月から「ヴルムの世界」というSFを投稿します。

そちらも読んでいただければ有難いです。

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