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私の中の怪物  作者: 寿和丸
4部 今日の花を摘め
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86話 闇に潜む者達

3時間後に小林が部下を連れてやって来てくれた。手回しよく、車修理業者まで同行させており、勇次の車はそのまま業者に引き取られる。

「大丈夫ですか?」小林の車に乗り移る所で心配そうに言う。

「いや、悪いが肩を貸してくれないか。なんとか車までは来れたがもう歩けなくなっている。」

勇次は筋肉痛で立てない状態だった。

二人の猛者を退けるなんてありえない。銃弾を避けるなんて通常なら出来るはずもない。コーツの優れた能力によっての技だった。

しかし代償もあった。

コーツは無理やりな要求を筋肉に課したのだ。それをあの場では何とか服従したが、やはり反動は来た。

神社から車に着いたらもう足も上がらない状態になっていた。

火事場の馬鹿力。

緊急の時、人は思いも寄らぬ力を発揮できるが、その後は腰も立たなくなると言われる。

特に脹脛や太腿の筋肉が悲鳴を上げていて情けないが、負ぶわれるようにして小林の持ってきた車に乗り込むしかなかった。

「相当、酷いですね。」

「参ったよ。もう無理できない歳だと痛感したよ。」と苦笑いを浮かべる。


翌日の話。大男が病院から戻って来た。

「どうだった?」

「ああ、骨にひびが入っていただけだ。」

「素人の蹴りで腕をやられたなんて情けない。」

「ああ、少し舐めすぎたかもしれない。素人と見て侮ったようだ。素人の蹴りなんて、頭にまともに喰らっても鼻血も出ねえ。ただあの時は背後を取られたので、俺は思わず腕で顔をカバーしたんだ。その腕がやられるなんて思いもしなかった。」

「カバーしたなら反撃を考えていたんだろ?」

「無論だ。あいつの軸足を払い、倒れた所に、ピストルの銃座で殴りつけて終わりにするつもりだった。それがあの蹴りで俺は吹っ飛ばされた。俺の体の半分しかない奴に吹っ飛ばされたんだ。」

「素人とは思えない蹴りの威力だ。」

「そういうお前はどうなんだ。息子は大丈夫だったんだな?」

「ああ、あいつの前蹴りで急所を蹴られた時はぞっとした。悶絶して気が遠くなるようだった。何とかして車に乗り込めたが、あの時は逃げるのに必死だった。車に乗り込んでもしばらくは息もするのも辛かったからな。」

「おかげで俺は痛い腕を庇いながら運転する羽目になった。今度はおごって貰うからな。」

「ああ、分かった。それにしてもだ。あの男は何なんだ。医者で、格闘技には縁がないと聞いていたぞ。」

「それに、トレーラにぶつからずにどうやってすり抜けたのかも分からん。あいつはとんでもない奴だった。」

二人の男は前日のことを振り返るのだった。


その頃、某国では近代的な高層ビルの最上階において、数人の男たちが大きな机を囲んでいた。

「R国では良い商売が出来ている。武器と工業製品がよく売れて、石油が安く手に入っている。」

「しかし、R国の経済はそろそろ限界にきていて戦争を続けられなくなる。うまい商売できるのもそう長くない。」

「今のうち、儲けるだけ儲けておきましょう。それよりもC国が怪しい雰囲気だ。国内経済が不調で、国民の不満が高まっている。その不満を国外に向けようと考えてくれるかもしれない。」

「思惑通りいくとは限らないが、火種は撒いておいた方がいい。ところでだ、肝心なのはアメリカだ。大統領が過激な政策をしてくれたおかげで、制度疲労が深まった。いずれか、国内分裂の芽が育てば面白い。」

「あの大統領はなかなかよい。人を惹きつけるスローガンの作り方が実に巧みで、熱狂的な支持者の心を掴んでいる。彼らの愛国心が暴発すれば面白いことになる。」

「アメリカの体制が限界に近付いていると考えるのは私も一緒だ。いずれ大騒動に発展しても不思議ではないが、筋書き通りに簡単にいかないのも常だ。我々は将来を見通して、混乱が起きそうな所に手を打っておくことだ。ともかく騒動への火種は撒くが、直に関わらないことに徹する。」

「確かに火事場に駆け付ける必要はない。我々は動き回る者に物資と資金を供給していけばよい。勝手に火は燃え盛るからな。」

その後も、一通り世界情勢について考えをすり合わせていく。そして一人の男が話題を変えた。

「きなくさい情勢分析はこの辺にしよう。少し気になるのが、日本でまた作戦が失敗したことだ。これで、何度失敗したか?5回だ。我々は失敗しても証拠が残らなければ、そのままにして、次の機会をまた狙うやり方だ。だが、あまりに失敗が多すぎる。我々のやり方の何かが間違っていたのか、見直すべきではないのか?」

その声にしばらく声は出なくなる。やがて一人の男が過去を振るように口を開いた。

「フリーメイソン、DS(Deep State)などと世間には世界を陰で操る存在がいると言いふらす者はいる。だがそれは根も葉もない噂であり我々とは関係もない。我々は世間には全く知られてない。

だが、かつて国防省に何者かが忍び入ったことがある。犯人も、その目的も分からないままだったが、その痕跡を調べた結果、我々の存在を示す資料が見つかった。幸いその資料はわずかの者しか目に触れておらず、我らの存在は隠されたままだ。資料を作成した者、見たと思われる達は全て処分し、資料もこの世にない、その犯人以外は資料を目にしなかったはずだ。

そして犯人らしき男は特定され、何度も亡き者にしようと試みたが成功しなかった。ただ、彼はこれまで資料を公表しなかったし、我々の存在にも気付いてないらしい。それで一つの案だがこのまま彼が騒がないでくれたなら放っておくのもあると思う。」

「いや、何時彼が我々の存在に気付くか分からない。やはり処分するのが一番だろう。失敗はしても我々の仕業だと気づかれちなければ、まだ作戦は立てられる。機会があれば試みるべきだ。」

「私も作戦は立てておくべきだと思う。そして機会があれば実行する。とにかく我々の存在を世に知らせないのが先代からの教えだ。その教えは守るべきだ。」


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