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私の中の怪物  作者: 寿和丸
4部 今日の花を摘め
83/89

83話 娘の心境

勇次は床の家で美沙に向かい合っていた。

高2の彼女は母親に似て、切れ長の目尻、細面の整った顔、透き通った肌、我が娘ながら大人になったら相当な美人になると嬉しく思う。

ただ今日の娘は目を吊り上げていた。

「私がお前を呼んだ理由は分かるね。」

「ええ、分かります。」

「それで、どうしてあのSNSを書き込んだ。」

少し沈黙があって、ようやく娘は口を開く。

「私、パパが町で知らない女性と話をしているのを見たんです。」

「女性と?別に私が知らない女性と話をしていてもおかしくないだろう。」

「子供連れで、女性は赤ちゃんを抱いていた。パパの子供だと分かった。」

どこかで見られたのだろう。

勇次は否定できなかった。幸恵と一緒にいたのを見られたのは間違いなかった。


富山の海で正体不明の男たちに襲われ、冷たい海に飛び込んだ。男たちの目を逃れるため、遠くの浜に泳ぎ着いた時には、体が完全に冷え切っていた。意識朦朧で幸恵の家に逃げ込んだが、彼女は不審にも家に招き、必死に介護してくれたのだ。その後意識を取り戻し、暖かい彼女の肌に触れると男の欲情が抑えきれなくなり、彼女と体を重ねてしまった。

一度きりの関係だったが、彼女は身ごもった。勇次は放っておくことは出来ず、彼女を呼び寄せ子供を育てると決めたが、もうこれ以上子供を作らないと決めてもいた。

幸恵も高齢(40の手前)を気にして、関係を持つのは積極的ではない。会って言葉を交わすが深い関係にはならないようにしていた。

それが、子供の顔を何度も見たくなり、出会いを重ねると、二人とも惹かれ合い、また関係を持ってしまった。男と女の関係は頭の中だけでは理解はできない。

おまけに勇次の頭にはコーツがいる。彼の存在が勇次に肉欲の感情を高めたのは確かだった。

ある晩、仕事の疲れもあってか、彼女と子供の顔が見たくなり、急に家に立ち寄った。

「まあ、よくいらしてくださいました。」夜遅いのに彼女は喜んで迎えてくれる。

その笑顔が堪らなくなりつい抱き寄せ、彼女も素直に受け入れてくれた。

一度決意を破ると、それからは何度も肌を合わせる。その結果、もう一人の子供をもうけたのだ。

彼女の家庭的で温かい人柄に接すると、日頃のストレスを忘れてしまう。そして彼女の笑顔と心地よい雰囲気が、いつまでも一緒にいたいと思うようになる。

この頃は昼間でもよく子供を連れて買い物をして、公園で遊ばしている。

その場面を美沙に見られたのだろう。


「パパは、ママも、それに奥さんもいるのに、他の女性を作った。・・・」

唇を噛みしめ勇次を睨むようにしている。

無言の時には非難の言葉が滲む。

「なんでパパは他所の女と一緒なの?ママがいるのに。」

その挑戦的な態度は間違ったことはしてないと自負があるのだろう。

「そうか。」

娘に男女の事を説明は無理だと思う。

「私はどのひと好きだ。どのひとも私にとって大事なんだ。彼女たちが居なければ私はこの世にいないかもしれない。」

そんな男にとって都合の良いことなど、生娘に分かってもらえるとは思えない。

男女の仲は口で説明できない。

無理に分かってもらえるとは思わなかった。

美沙に嫌われても、率直に向き合うとする。

「一つだけ言うと、彼女たちを幸せにしたかった。」

晶子、由香、幸恵どの女性も魅力的で何としても手放したくなく近くに欲しかった。皆を愛しているのが本音だ。


「そんなの嘘よ、どの女も愛せるなんてできない。誰だって愛する人には自分だけを愛してもらいたいもの。女が幸せかどうかどうしてわかるの。パパのエゴじゃない。どうしてパパにママは付き合わされないといけないの。好きな人が別の女を好きになるなんて許せない。愛し合うて、なんあの!パパの身勝手よ!」強い口調で返って来る。

堰を切ったように筋の通らない言葉が飛び出した。そして最後に言った。

「パパなんて大嫌い。」そこで美沙は口をつぐむ。

言ってしまってハッとしたようだ。

勇次は黙って聞いていた。


浮気、不倫、それは恥ずべき行為だ。ただ、それを自分では止めることが出来なかった。

モラルだけでは律することのできない、感情に突き動かされる行為、それが恋愛というものだった。

(美沙が大人になって、いろいろ経験してようやく少しは感じ取れる。いや、永遠に分からないかもしれない。男女の仲とはそういうものだ)

じっと娘の言ったことを胸に収めた。

美沙も言いたいことは言って、少しは胸が晴れたようだ。

その後、父と娘は分かりあえないまま、話を終える。


その場は納得した顔ではなかったが、いつまにか、美沙のSNSから勇次のゴシップ話は消えていた。


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