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私の中の怪物  作者: 寿和丸
一部 怪物との出会い 
8/87

8話 怪物からの提案

「何が、インターネットだ。こんな糞見たいな情報が役に立つか」コーツが腹立たし気に言う。

何しろ、ネットとい言葉がようやく世間に伝わりだした時代だ。大学や公共機関でさえ、インターネットを取り入れている所は少なく、コーツの欲しい情報があまりなかった。

「仕方ない。図書館で借りた本をスキャナーで読み取って、パソコンに入れるしかないな」

パソコンを新たに3台購入し、近所の人にも手伝わせて次々とスキャナーで本を読み取る。これをFDフロッピーディスクに記録し、メインのパソコンに移すやり方だった。

記録媒体の容量が小さく、何枚のFDを使わなければならに不便さはあっても、一度パソコンに情報が入れば後はコーツが瞬時に読み取れた。

ようやくコーツの求める情報を体に負担なく得られるようになったわけだ。

「今度は、生物に関するもっと詳しい情報が欲しい」コーツの要求はより専門的になる。

正直、勇策はコーツのやっていることに興味はない。だからコーツの知りえた情報は共有できるのだが、うっすらと頭に入る程度だった。


そして、一月後、コーツから次のように言って来た。

「ユーサ。肩を回して見ろ」

高齢の勇策は常に肩こりや背中の痛みに悩まされている。

コーツに言われて、腕や肩を回すといつもより、軽くなった感じだ。

「なんかうまく回せるな。痛みもあまり出ない」

「では、前屈をしてみろ」

言われる通りに、体を前に倒すと、手の先が脛あたりに届く。床に届いたのは若い頃の時だ。年寄りになったいまでは膝辺りがやっとの状態だった。

「これは、コーツのしたことか?」

「血流やリンパの流れを良くしてみた。ユーサがストレッチや柔軟体操を積極的にすれば、もっと良くなるぞ」

「これが、若返りの効果か?このままやっていけば、もっとよくなるのか?」

「ああそうだ。だが、限界がある。肌のシミや皺などは直すことができる。だが、人体は60兆*1もの細胞で作られていると言われる。俺の能力ではそのすべてに働きかけるのはできない。と言うよりも人間というか、殆どの生物が細胞が死ぬように出来ているんだ。俺にはそれを止める手立ては見つからない」

「ということは、やはり若返りはできないと言うことか?」

「そうだ。俺の能力で、ユーサの体を内部から変えられると考えていたが、全細胞が衰えていく現象は止められないことが分かった」

「そうか。そうだろうな」

コーツから「若返り出来るかもしれない。寿命を延ばせる」と言われ、一縷の望みを賭けたが、「やはり」と言う感だった。

「ただな。ユーサ。子供を作らないか?そうすれば、もっと生きられるぞ」

「何だって?」

思いもしない提案だった。


「ははは。おい。冗談だろ。儂をいくつだと思っている。儂の息子はもう使い物にならなくなっているし、女性を何十年も抱いてないぞ」

「そう、ユーサの性ホルモンは減少しているし、精子を生み出すこともできない。だが、ユーサの精巣には精子の細胞がまだ残っている。それを女性の体に移せば子供を作れる」

「人工授精をしろと言うのか。だがそんなことをして、子供ができたとして、何になる?」

「今の俺は、他の人間に移ることはできない。だが、ユーサの血の繋がりのある者なら、移ることは楽になる。」

「それは、息子の体に乗り移れるということか?」

「ああ、多少の危険はあるが、全くの他人よりはだいぶ楽になる。しかし、ユーサの子供の神経と接触するとおそらく・・・」

「おそらく、気がふれるな。そんなことは絶対だめだ。息子達の体を乗っ取ることなど許さん」

「だから、新たに子供を作れと言っているのだ。生まれたばかりの子供なら、思考能力がなく、精神を侵すこともない。俺とユーサの記憶を赤ん坊に乗り移らせればよい。そうなればユーサは生まれ変わることになる」

「・・・」勇策は少し考えに沈む。

「乗り移るのに危険があると言ったな。どんな危険だ」

「ユーサに壊された器官の修復がまだできてなく、他の生物に乗り移る能力が十分でない。寄生主側には必ず防御能力があり、それが障壁となって乗り移るのを困難にする。だが、ユーサに近い遺伝子を持つ者であれば、体質も近く、乗り移る障壁が低い。まして、生まれたばかりなら、防御能力が低いのでより楽になる」

「だが、儂の息子の体を乗っ取るのか」

如何に、まだ知恵を持たない子供であっても、許されることではない。

「その話は又後にしよう」そう言って話を打ち切った。


生まれ変わると言うのは魅力的だが、我が子を犠牲にしてよいのか。ただ、勇策に生きながらえたいと言う欲望も芽生えていた。


*1 2013年、イタリアの生物学者エヴァ・ビアンコニは論文「人体の細胞数の推定」を発表し、人体それぞれの器官の細胞数を、文献的・数学的なアプローチを使って統計的に計算し、成人の細胞数は37兆2000億個と推定した。ヒトの細胞数を論理的にきっちりと調べ上げたのは初めてだった。

ここでは通説通りの数値を使った。

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