79話 アメリカの変調 改
話の前後が合わなくなり、書き換えます。
混乱させてしまい、申し訳ありません
「私も年寄りだから、70過ぎの権力者が必ずしも悪いとは言いたくない。だが、偶然なのか今の世界強国の権力者そろいもそろって、年寄りばかりでしかも愚かだ。」
「愚かと言うのは余りに、極端すぎませんか?」スミスの自国大統領の酷い評価に呆れる。
「いや、私だって、アメリカを愛する。今もアメリカにいたら大統領を支持し、資金さえ提供したかもしれない。それほど、彼には期待していた。
だがアメリカを離れ日本に暮らしてみると、アメリカの負の部分も見えてくる。特に今の大統領の振る舞いを見たら、失望するしかない。
彼は支持者から喜ばれること、選挙に勝つことしか頭にない。国民が豊かになろうがなるまいが気にもかけない。
そして、今のアメリカは世界から孤立し、相手にもされていない。見放されるだろう。」
「アメリカは覇権国です。アメリカが世界から孤立するとは思えませんが。」
「アメリカは確かに覇権国だが、覇権国には“覇権国病”というのも存在する。だからいずれ衰退するよ。」
「“覇権国病”ですか?」何を言っているんだろうと不思議になる。
「そう“覇権国病”あるいは“米国病”といってもよい。
アメリカが一番だと政府も国民も思い、外国のことなど気にもしなくなっている。
ところが他国から疎まれ、相手にされなくなっていることに気付いてない。いや、気づこうとしてないと言ってよい。
そんな国が何時までも覇権国で居られるだろうか?」
「しかし、アメリカが世界最強国で、世界一の経済国家でしょう。」
「いや、覇権国病は治らない。アメリカの病巣は深いよ。
アメリカ国民は楽をして金が入るようになって、怠惰になってしまった。このようになってしまってはもう元には戻れない。
なまじ覇権国になってしまったばかりに、アメリカは衰退の道を歩むことになった。」
意外の発言に何を言ってよいか黙ると、スミスが続ける。
「まず覇権国とは軍事と経済力が他国を圧倒し、世界を牛耳る力を持つ国だ。軍事と経済の二つの力がMUSTだ。
そして覇権国には多くの利点がある。戦争を仕掛けても負けることはない。この場合の負けると言うのは覇権国が自国内で損害を受け、敗戦を受け入れるしかないと限定しておく。」
過去にアメリカには外国に出兵し思うような戦果を上げられず、兵士の損失、戦費の拡大が続き、やむなく撤退した歴史が幾度かある。スミスは撤退したが、本国になんの損害もなかったのだから、これを米軍人として負けと認めたくないのだろう。
「覇権国は軍事力、あるいは経済力を背景に他国に干渉できる。過去に日本はアメリカからいくつもの理不尽な要求を突き付けられ、それを呑んできたから分かるだろう。日本独自に戦闘機を開発しようとしたが、アメリカ側の要求で共同開発ということにさせられた。しかもアメリカの機密事項により主要な機器には手が付けられないのに、日本で開発された技術は提供することになったんだから泣くに泣けない。それでも覇権国アメリカには文句も言えなかった。
それでも日本はまだいい。世界有数の経済力、技術があるから根幹部分は拒否できる。しかし、もっと弱小国なら言いなりになるしかない。いくつもの弱小国は、アメリカから内政干渉され、時には攻め込まれもしてしまった。」
それには同意する。
「またアメリカは経済的に、他国を封じ込めることもしてきた。世界有数の産油国で将来相当な富裕国になるだろうと思われた国は、アメリカに睨まれ石油輸出が難しくなったばかりか、石油技術そのものがアメリカから入らなくなり、産出量が激減してしまった。世界最大の砂糖生産国だった国も反米に走り、アメリカの逆鱗に触れ、経済封鎖で多くの国から砂糖購入を拒否された。石油砂糖がいくらあっても購入してくれなくては宝の持ち腐れだ。今では両国とも最貧国に陥っている。
覇権国に逆らうことは非情な困窮を覚悟することでもある。だから多くの国が逆らえない。」
「世界政治は覇権国の思うような方向に進む。そして覇権国には多くの利権が入る。黙っていても、何もしなくても金が入るようになる。」
「そんなに巧く金が集まります?」
「ああ、アメリカには世界の有力企業が集まり、事業を展開し金が動き集まる。
それだけではない。米国債は最も安全で、利益になるものと思われている。世界中から米国債を求めて金が集まる。
その上、アメリカの国内消費はいつも供給量を上回り、不足分を外国から輸入するしかない。その為、経常収支はいつも赤字だ。ドルを刷り続けることで赤字を補っている。
だからアメリカは何をしなくても金が入って来る。」
「それはアメリカが赤字を垂れ流しているということでしょう。」
「そうだよ。それは国民も同様で、アメリカ国民のクレジットで買い物をしている。つまりほとんどの国民は赤字を抱えているし、貯金を持つ者は少数だ。
米ドルに信頼がある間は、ドル札を刷り続けるだけで、国民は借金生活をしていられる。」
「それで大丈夫ですか?」
「いずれは行き詰まるだろう。
国債といっても借金と同じだ。必ず返さないといけないから、アメリカ政府は国債の満期が来るとお金を返している。ただ、手元には現金がないから、また新たな国債を売って、やりくりしている。でもその国債には利息がつくから、アメリカは多額の利払いをしている。が、その金額は雪だるま式に膨らんで、今は国家予算より大きくなった。勿論、そんなに払えないから、どんどんドル札を刷って払っている状態だ。
国民もクレジットで借金生活をしている。国民はドル札を擦ることはできないが、国も国民も大して変わらない。」
「それが“覇権国病”ですか?」
「いやそれは症状だ。本当の病巣はもっと深い所にある。」