78話 激動する世界
勇次の身辺も何かと慌ただしいことがあったが、この当時から、世界は政治、経済、軍事などの多分野で一層激しく動き出していた。
アメリカ、C国、R国など世界の覇権国、経済、軍事において大国、強国と見られていた国が変調を起こし始めたのだ。
田村は早くからC国経済が衰退し始めていると指摘した。
「C国がGNP(国民総生産)で世界2位、いずれ世界1も夢ではないなんて言われているが、あんなのは嘘だよ。GNPなんていくらでも誤魔化せる。」
「そんなことやれるんですか。」勇次は俄かに信じられない。
「欧米の先進国や日本などはGNPを水増して統計操作などしようとしてないが他の国は怪しいもんだ。GNPは民間会社から資料を取り寄せて、総合判断しなければ推計できないものだ。アジアではまともにGNPを出せるのはシンガポールぐらいだろう。C国なんて役人が鉛筆をなめなめしてGNPを出しているんだろうよ。」
「では、何を見て判断したらいいんですか。」
「検証できるものだ。貿易量なら必ず相手国があって、C国との貿易量も発表されるから嘘がつけない。」
「貿易量を見れば、正しいことが分かるのですね。」
「うん、明らかにC国の発表するGNPは、貿易量を矛盾している。そしてC国は21世紀のシルクロードを作ると言って、途上国に資金援助をしている。これが最近ほとんどなくなった。もう、途上国に資金援助できる余裕がなくなったと見ていいだろう。」
「C国がこれ以上発展できないと言う理由は何ですか?」
「あの国が市場経済に移行して30年経つが、その間に生み出した物は何もない。我が国では明治維新から少し経つと画期的な物が生み出された。それまでアイデアは他国にあったが、乾電池やアンテナなど実用的にしたのは日本人だ。中国はいまだに何も生み出していない。他国の真似をして、安く大量に作ることは出来ても新しいものは作れなかった。そんな国では発展は続かないよ。」
「太陽電池や電気自動車など造られていますし、高速道路と鉄道は目まぐるしいほど発達していますが。」
「それも日本や欧米の技術を取り入れたものだろう。今のC国で造られたもので、C国のものでないとならないものはいくつあるのか。パンダと少林寺拳法以外独自なものはなんだ。」
そう言われて言葉がない。
その後、今度はR国が突然、隣国を侵略する紛争が起きた。
スミスに会って、今後の見通しを聞く。
「あれは完全にプー氏の判断ミスだったね。側近や軍部の話を鵜呑みにしたのだろうが、独裁者にありがちな失敗だった。」
「R国は勝てないと言われるんですね。」
「うん。R国と隣国の軍事力は10倍以上違うが、征服できなかった。R国はひと月で征服できると考えたようだが、武器が古すぎて使い物にならず撤退するしかなかった。」
「そんなに、R国の武器は劣っているのですか。」
「昔アラブの戦争で、1台のアメリカ戦車が故障してしまい戦場に取り残され、運悪くR国製の戦車3台に取り囲まれたことがあった。その時R国戦車から一斉攻撃されたが、破壊されることなく、逆に応戦したらR国製戦車1台を破壊し、他は逃げ出した。
装甲と砲撃の差が大き過ぎたんだ。その頃からR国の軍事力は何も進歩してなかったということだ。」
「では今後も勝ち目はないと言われるのですか?」
「ああ、今のR国はベアリングも半導体も自国で造れない。それでは自動車、戦車、飛行機、船舶など機械は何一つできない。精々砲弾ぐらいは作れるだろうが、それもいずれ製造機械が壊れたら、半導体もベアリングもなくもう治せなくなり、砲弾も制作できなくなる。」
「半導体は分かりますが、ベアリングを作るのはそんなに難しいのです?」
「ベアリングには真球の金属が必要だ。真球にするには金属は加工しやすい柔らかいものが良い。ただ、柔らかいとすぐに擦り減って使い物にならない。かといって硬いと加工が難しい。真球にする加工する技術と硬くても加工しやすい金属素材が必要だ。それが途上国では簡単に真似できない。だから欧米と日本でほぼベアリングは9割造られている。R国は今、新しい武器が作れなくなったから、博物館や倉庫から旧式の戦車を引っ張り出している。」
「そんな旧式の兵器しか残ってないとR国の軍部幹部も分かっていたと思います。それでどうして勝てると思ったのでしょうか?」
「R国内部の事情なんて分からんよ。ただ、独裁政治というものは大きな間違いを犯すし、修正できないもんだ。独裁者の周りには心地よい意見しか言わない者が集まりやすい。
アメリカもそんな大統領や事態にならないと願うよ。」
スミスの最後の言葉は何気なく付け足すように言ったようだ。
それが数年して現実のものとなってしまう。
スミスは何時になく落胆をにじませて言った。
「アメリカも独裁的な大統領になった。アメリカ、C国、R国は皆70過ぎの老人が権力を握ったことになる。彼らは自分が正しい、決して間違ったことはしないと思い込んでいる。国家が変な方向に行っても彼らは改めようとしないだろう。これから世界は、大きく変動する。」