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私の中の怪物  作者: 寿和丸
4部 今日の花を摘め
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68話 スミスの回想

スミスと言う、大物がセンターに入ると言うのは迎える側も神経を使うことになった。

特別待遇は他の入所者に差別することになるからできないが、安全面や英会話能力スタッフの充実は図らねばならない。

「今、センターには外国人家族は52ですが、これからはもっと増えると思います。ましてスミスのような人が入るとなれば、海外からの入所希望は多くなるでしょう。それだけに安全面を強化し、語学に堪能なスタッフを多く求めることが重要ですね。」

伸二や中村らともこの考えで一致している。

このセンターは引退した老人に個別に住まいを持ち、日常生活を送りながら、プライバシーに配慮しつつ、個人個人の自由な活動を手助けするものだった。

家はさほど広いとはいえなかったが、庭など敷地面積は広く取り、ジョージが動画で述べたように隣のことを気にしないで生活できた。ジョージの動画のおかげで海外からの引き合いも日を追って多くなっている。

そして、スミスを迎えることで、ここは国際的な保養リゾートとして性格を帯びるようになっていた。


彼が来日したのは、ショーンの夏休み期間中だった。

スミスは入所すると、勇次とすぐに面会した。

「これから、スミスさんの専門医になります。」と勇次は自己紹介する。

「レオナルド・スミスだ。厄介なる。」

勇次を始めて見た印象は、「こんな若い医者が有能なのか?」という懸念だ。若いとは聞いていたが、医者と言うのは経験知識が必要な職業だ。こんな若くて大丈夫かと思った。

だが、「人間は死ぬように出来ています。死は誰でもが避けられないものですが、老後を決定づけるものではありません。人間の寿命が延びて、現役の時よりも長い余生を送らなければならない時代になった。余生を如何に充実して、過ごせるかは本人の努力も必要ですが、環境や周囲の取り組みも大事です。私はここを、充実した余生を送ってもらえるように環境面を整えるとともに、如何に生き甲斐を持った生活をしてもらう精神面に重点を置いています。一日中、テレビを見て過ごすより、自ら活動して、できれば創造的なことを見出すような生き方をしてもらいたいのです。肉体は現役の時よりも動かなくなっても、精神は活発になって欲しいものです。」勇次のこの言葉に感銘を受けた。

「私もただ生きていくだけではつまらないと思っていた。私もここで生き甲斐を見つけ出そうと思うよ。」と満足げに答えた。


スミスは歴戦の勇士と名乗れるのは、状況を的確に察知する能力があればこそ。人を見る目も備わっている。クラークのような人の心を読み取れる程ではないが、この人物が嘘を付いているかどうか、ある程度は間違いなく判断できたし、信頼できる能力を持っているかも分かっていた。

彼の勇次の人物評は「歳は若いが、意外と老成している。考えが落ち着いている。」と見た。スミスは勇次が勇策の生まれ変わりとは思ってもなかったが、老けた印象を勇次に認めていた。

初対面と打って変わり、経験豊富な医師として認めたのだ。

そして、勇次の言葉を受けて、精神活動を高めようと考えた。その結果、回想録を書くことにした。

実はアメリカにいる時から、回想録を書かないかといくつかの出版社から誘いがあった。アメリカでは引退した大物政治家などは必ずと言って良いほど、回想録を出すのが一般的だ。

「あなたは昔のことを話してくれるだけでいいのです。あとはこちらのライターがまとめてくれます。」と出版社の人間は進めてくれた。

スミスも回想録を出そうとは思っていたが、しかしゴーストライターを雇ってまで、回想録を書く気はしなかった。

「ゴーストライター任せにしたら、誇大妄想のことまで書かれてしまう」嘘の大嫌いな彼には我慢できないものだった。

でも、いざ一人で回想録を書くのはしんどいと感じて、著述作業を先延ばしにしていいたのだ。

アメリカで著述作業をしたら、すぐ出版社が嗅ぎつけてくるのは目に見えていた。それも先延ばしにしていた要因だった。

「そうか、ここでなら、出版社にせっつかれずに自分のペースで書ける。」

そう思って、自分の日記帳を取り出しみた。しかし、そこに書かれているのは「難解極まりない」彼の文字群である。

「いやいや、これを読み解くのは骨が折れるな。やっぱりあいつを呼ぶか。」

あいつとは軍人時代、近くに仕えてくれたジェラルドだった。アフガンで戦っていた頃、彼の身の回りをしてくれながら、助言もしてくれ、よく気の廻る男だった。何よりもスミスの難解文字を読み解く能力に長けていた。

「私の日記帳を読めるのはジェラルドしかいない。すぐに呼び寄せよう。」好都合なことに、ジェラルドも退役していて、就職活動中だったから、なんの問題もなく来日してくれた。

今彼はスミスの秘書になってくれている。

そして、スミスの回想録の手助けをしつつ、クラークや勇次との連絡役にもなった。

クラークからは「米軍基地にあなたとの直通電話が繋がります。いつでも使ってください。またミスターカジタニとの連絡や彼の身辺にも注意をお願いします」と依頼されていた。


一方で保養リゾートの居住者の人選を決めているのは伸二だった。入所者を誰でも入れていたら、環境が悪化しかねない。これまで入所希望者の資産や犯罪歴などをもとに判断したがここにC国系を排除することになった。表向きはC国語に堪能な従事者を集めてないことにした。スミスが入所した以上、政治的に配慮をするほかなかったのだ。


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