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私の中の怪物  作者: 寿和丸
4部 今日の花を摘め
59/89

59話 ジョージ・カルロス

「やあ、みんなおはよう。しばらくご無沙汰していたね。みんなも知っているように、僕は二月前から日本旅行を楽しんでいたんだよ。ところが急に心臓が痛み出し、僕は緊急入院し、そこで心臓手術を受けることになった。

幸いにも手術は上手くいき、僕はこうしてまた動画を投稿できるようになった。みんなから僕のことを心配してくれるメッセージも多く来ている。本当に皆には感謝している。この通り、僕は元気になった。まず安心してくれ」

ジョージはそう言って、でっぷりとした体躯で少し歩き、両手を大きく広げ、元気であることをアピールする。

「僕の手術をしてくれた、ドクターのカジタニは若いけれど大変、優秀な人だ。難しいと言われる手術にも拘わらず、比較的短時間で終わり、今こうしてほとんど後遺症もなく過ごしていられるのは、ドクターのおかげでもあるし、日本の医療水準の高さでもある。

ただね、ドクターから言われたのは、僕がデブでこのままだと、心臓に負担がかかり過ぎるし、他の病気を併発すると言うことだった。

僕だって、自分の体重を気にしている。でもダイエットに何度も挑戦したけれど、一度も成功したことがなかった。

そのことをドクターに言うと、『あなたは入院している間に5キロも体重が減りました。日本で食事、運動をすることでダイエットが出来ます。』と言われたんだ。

確かに日本では食事はヘルシーだし何よりも美味しかった。それによく歩くので運動するんだ。アメリカでも健康的な生活はできるし、スリムな体を維持している人も大勢いる。でも僕には、アメリカにいて高カロリーの食事の誘惑に勝てなかったし、ついつい車を使って、体もほとんど動かさなくなる。僕にとっては住まい環境を変えないことには、まずダイエットを出来ないと思った。」

そう言って彼は部屋の中を見せた。

「この通り、この家は私たち夫婦の部屋と、客間、それにリビングとキッチン、バスとトイレしかない。アメリカの家と比べれば十分の一もないだだろう。でもドクターが言うには『広い家を掃除できますか?ここではメイドも雇えないし、お掃除ロボットも厳禁です。あなたが日常生活で掃除、整頓をすることで体が自然に動き、運動になるのです。』

確かにアメリカでしてきたようにホームパーティをすることはなく、広い家は必要ない。庭だって、あまりに広くては人を雇わないと芝の管理も出来なくなる。自分の目の届く範囲の物を綺麗にすることで体を動かしていける。僕はここでしばらく生活をして、ダイエットに挑戦しようと思う」

彼の日本での初動画はこのようにして終わった。


ジョージ・カルロスはアメリカの有名タレントで俳優でもある。ユーモラスな語り口でありながら時にジョークと皮肉を交えた話で人気を博している。さらにはドラマに出演しシリアス物からコメディ物まで幅広くこなして、アメリカでは知らぬ人もない存在だ。

その彼は動画でも話したように、妻を伴って来日して観光巡りをしようとした矢先、心臓発作をして倒れ、緊急手術を受けた。執刀してくれたのはこれまで何度も心臓の難手術をして有名を馳せた勇次だった。手術は成功し、今、勇次の保養リゾートに入り、療養生活に入ったのだ。

年齢は72で、身長は185を超すが体重も150キロ近くあった。流石に太り過ぎているのは自覚していたが、これまでダイエットは悉く失敗した。それで、日本での入院経験したのをきっかけに、療養生活も日本で送り、ダイエットに挑戦しようとしたのだ。

話しの中に出てくるドクター=カジタニは言うまでもなく、勇次のことだ。勇次は今年で35になり、大学を卒業して、医者となり、心臓外科医として名を成している。


「栄養士とも相談して、食事をきめているが、さほど禁欲的なメニューではない。日本料理と言えば寿司に代表されるように魚料理ばかりと思われがちだが、そうではなく肉も美味しいし、食べてもいいんだ。僕が今いるレストランは地元でも有名店で、結構繁盛している。そして、ニューヨークの三ツ星レストランなんかより、美味しいし、柔らかいんだ。正直、もう僕も歯が丈夫でないから、アメリカでの固い肉は閉口していた。でもここのレストランの肉はジューシーで噛まなくても口の中でとろけそうなくらいで、僕でも楽に食べられる。サイズは小ぶりだが、この美味しさと柔らかさなら、満足できるね。それにダイエットしていても気にならないカロリーだから最適なんだよ。」

ジョージの推奨していたレストランは、かつて勇策が贔屓にしていた店で、今はシェフも息子に代わっているが相変わらず評判だった。

「ここは高い崖の上にあって見晴らしも味わいながら食事ができるんだ。富士山も湖も見えるし、自然の四季の変化を窓から楽しめる。後、ひと月もすれば湖畔の桜が楽しめるそうだ。その様子もいずれ動画にだすよ。

ああ、そうそう。このレストランの名前は教えないよ。これ以上繁盛して、賑わうと、僕がゆっくり食事を出来なくなるからね」

そう言って、いたずらっ子の笑みを浮かべて動画を終えた。

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