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私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる
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47話 キャサリン

アメリカ国防省の一室、捜査分析官クラークは考えに沈んでいた。

彼はアメリカ国内における不可解な現象を解明、分析する仕事に長年携わっている。科学が発達した現代では自然現象が解き明かされているが、それでもUFOなどまだ解明されてないこともある。特に最近はネットが発達して、それに絡む犯罪も増えてきた。情報戦と呼ばれるほど、高度な技術を使って様々な戦略が行われている。ネット攻撃により国の中枢機関のコンピューターが強制終了させられ、あらゆる公共サービスが麻痺する事態も想定されるのだ。

それだけにペンタゴンのコンピューターは厳重に警備され、どんな攻撃を受けても跳ね返さなければならないとされていた。それが5年前にゴーストの手によってあっさりと侵入された。

あってはならない事態に、クラークたちも懸命に侵入手口、犯人捜査に当たったが、何一つゴーストに結び付く手がかりを掴めなかった。

「ゴーストが全く、姿を現さなくなって、5年も経つ。その間にペンタゴンは様々なサーバー攻撃を受けてきたが、脅威になるほどのことはなかった。ゴースト以外、ペンタゴンに侵入できた者はいないと言って良い。だからと言ってそれでいいのか?」

「確かにゴーストは約束を守って、ペンタゴンに侵入してこなくなったが、しかしゴーストの脅威が消えたということではない。侵入手口を明かしてくれたが、あいつなら別の手口を思いついて実行できる。あの“豚の鼻”の絵をコンピューターに貼り付けられた屈辱を忘れてはならない。ゴーストを特定し、犯人を取り押さえない限り、脅威を除去できたとは言えないのだ」

「ゴーストが日本に在住していたのは間違いない。唯一の容疑者として挙げられた梶谷勇次は完全に監視されていた状態に置かれていた。それなのにゴーストが現れ、彼の容疑は消えたことになっている。その後、彼は画期的と言われるゲームソフトを開発しており、卓越した能力を持っているのは明らかだ。それでいながら今度、彼はソフト会社を手放し、医師になろうとしている。あまりにこれまでの行動と違い過ぎて何を狙っているのか理解できない。」

「このまま彼を放置して良いのか?」


◇-◇-◇-◇-◇-◇

新学期になって、大学同士の交換留学としてアメリカからの女子学生がテニス同好会に入会してきた。

「初めまして、キャサリンです。アメリカからきました。テニスは得意です」と自己紹介する。

得意と言うだけあって、彼女は本当にテニスが上手かった。同好会一番の男子学生とプレイしても、圧倒するほどだ。大学を探しても彼女よりうまい生徒はいないと思われる。

「私、ハイスクールに居た頃はプロを目指していました。でも才能に自信が持てなくなりやめました。」その経歴に嘘はなかった。

本場、アメリカで揉まれただけに、スマッシュ、サーブなどの速さと正確性は誰も太刀打ちできない。

「私は将来テニスコーチをやりたいのです。だから日本でいろいろ経験したいのです。これまで混合ダブルスをやったことがないので、体験してみたい。コンビを組んで試合に勝ちたい。」そう言った。

そのパートナーに組まされたのが勇次だった。

どうして勇次を指名したのかと問われると次のように答えた。「彼は才能がある。もしもっと若い時から、テニスプレーヤーを目指していたなら一流になれたでしょう。」

実際に勇次はこの半年で随分上達し、新入生の中では一番うまくなっていた。

「勇次とコンビを組めば、私たちは最強になる」とキャサリンは断言した。

ただ、勇次にとってはすこし有難迷惑な気もしている。「俺はそんなにテニスが上手くならなくてもいいんだが」

彼女と組むことによって、テニスが単なる楽しみから、試合に勝つことに代わる。

二人でラリーをするのだが、当然のこととしてレベルが違う。

彼女は勇次がぎりぎり追いつけそうな所、速さのボールを打ちこんで来る。

「そのくらいのボールは追いつけるわよ」「もっと強い球が打てないの」

彼女の要求は高く、勇次はコートのあちこちに振舞わされていく。そして筋肉が悲鳴を上げてきた。

「待った。足がつりそうだ。ちょっと休憩しよう」

「勇次は駄目ですね。そんなことで弱音を言うなんて」

「いやいや、物には限度がある」

なんとか、休憩を申し入れて汗を拭い、水分を補給していた。


それでも何事にも手を抜かない勇次は懸命に彼女の要求に応えようとした。

ストロークでも彼女の早い球になんとか食いつき、返していく。

「そう、その調子」キャサリンも段々と教え方が上手になる。時には貶しながらも、褒めることを忘れない。

急造のコンビであったが、ひと月の練習で大分上手くなったのは事実だ。

当然ながらキャサリンとの距離も大分近づいていく。

「キャサリンはこんなに上手いのにどうしてプロを諦めた?」と聞きにくい質問も出来るようになる。

「ちっちゃい時、私は一番だった。それがハイスクールになるとトップテンにも入れなくなる。アメリカは強い者が絶対よ。負けたものは去るのが掟よ」

彼女がプロを諦めたのはやはり、才能の限界を感じたからなのだろう。

「勇次、今日は一緒に買い物に付き合ってよ」キャサリンから帰りに誘われるようにもなった。

ただ、勇次は夜6時以降は私有時間を厳守している。

「いや、子供を風炉に入れないといけないから帰るよ」とあっさり断った。


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