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私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる
43/89

43話 計画案

この近くには、湖があり、湖畔には桜が植えられ、名所にもなっている。それを見込んで、旅館と老人ホームがあった。どちらも創業こそ古いが、みすぼらしい。

旅館はバブルの時にはここにも観光客が押し寄せたが、一時的なブームだった。東京に近いことで、旅行客は湖畔を散策するとすぐ帰る者が多く、常連客にならなかった。

老人ホームに入所したい者はいるが、資金源に乏しく、施設の修繕費に回すのがやっとで、リーフォームなどはやったことがない。その為、施設の老朽化が近年進んでいた。

どちらにも言えるが、桜の名所と言うだけでは、利用客を呼び止められない、存続さえ危うい状況だった。


「ここの地形をうまく利用すれば、隣の家から覗かれる心配もなく、自分だけの自然を取り入れる住まいが作れる。庭を楽しむのも良いし、家庭菜園も出来る。ペットも飼えるし、犬との散歩もできる。近くの湖でボートにも乗れる。ゴルフ場やテニスコートもある。これを活用すれば、老後も元気に暮らせるはずだ。

人間は体を動かさないと、すぐ体がさび付いて、動けなくなる。楽をして体を動かしていないと、早く動けなくなる。都会では、それが顕著だ。すぐ何でも頼め、何でも買えることができ生活に何不自由しない。それに比べ田舎暮らしの方が自分で動かないと生きられない。田舎の方に元気な年寄りが多いのはそれが一つと思っている。

僕は人々が自ら動くことで、長く活動的な老後を送れる保養施設を作ろうと思っている。寝たきりの老後生活を、少なくするのが目標です。

染谷さんに聞いたら、ここの坪単価は低く、全てを購入しても大きな金額にならない。

老人ホームと旅館を買収して、リゾート型の保養施設を作る。将来的には病院やスポーツ施設なども作る考えだ。

中村さんには老人ホームの事務長、伸二には旅館の経営を担ってもらいたい。当面は黒字にならなくてよいから、将来図を見据えて経営して欲しい。」

「ここにある空き家を使わしてもらって、引っ越してもいいのですか?」中村が現実的なことを聞いてくる。

「ええ、ここの家は田舎作りで古くなっているので、改造や建て替えされても構いません」

「それなら、家庭菜園も出来ますね。今住んでいるマンションの居心地はいいのですが、ベランダ菜園に制約があって植物をあまり置けないのです。妻も広い庭に在る所に越したいと言われています。」

「それは良かった、伸二はこっちに住んでもいいし、通っても構わない」

「俺は、町の方にアパートでも借りて住むよ。旅館の経営なんかしたこともないから、一から勉強しなくてはならないし、大変だよ」

「さっきも言ったが、黒字化は考えなくていい。旅館を改造して、ここに住む人がいつでも温泉を楽しめる温泉施設にするのが最初の目的だからな。温泉施設を目当てに老人ホームを希望する人が増えてくればよい」

「ところで、勇次は何をするんだ?」

「僕は医者になる」

その言葉に二人は唖然となる。

「おい、医大なんて超難関な受験コースだ。お前は高校中退して、碌に勉強してこなかった。そんなんで医大に入れると思うのか?」

「医療分野に進出するなら、医師免許を持つ者が従事しなくてはならない。医師を仲間に引き入れるか、誰かが医者になるしかない。僕は余り見知らぬ者に、経営陣に入ってもらいたくない。だから僕が医者になろうと思う。受験勉強はこれからするが、まあ大丈夫だと思うよ」あっさり言われた。

それから、三人はそれぞれの仕事を決め、行動していく。


その2カ月後、妙子と染谷が料亭で向かい合っていた。

「すみませんね。勇次にいろいろ便宜を働いてもらって」と軽く頭を下げる。

「いやあ、たいしたことはしていませんよ。前に一度、勇次君から介護分野に関心があって、どこか介護センターを建設する良い場所がないかと相談され、私の地元を紹介してみただけです。

まさか、勇次君が本気で介護施設を作り出そうとは思いませんでした。あの建設現場は本物ですね。老人ホームや旅館、放棄耕作地、山林など広大な場所まで購入しております。山林などには今、ブルやダンプが入って根切りや区画整備、整地していますよ。地ならしが終われば本格的な建設が始まり、いずれはリゾート型のペンションが立ち並ぶと聞いています。

私にとっても、地元がにぎやかになるのは嬉しいことですし、市長などは人口が増え、税収も上がるとほくほくしていますよ。だから、勇次君の今度の事業には、市の方も随分、好意的に取り計らってくれ、宅地化の認可もスムーズに言いたのです。」

「まあ、そう言うこともあるでしょうが、染谷さんの力添えが大きいと思います」

「勇次君の事業が上手く軌道に乗れば皆、良くなると言うものです。ところが、それがねえ、私もそろそろ引退しようとして、勇次君に後釜になってもらおうと思っていたんですよ。これで勇次君はしばらく開発事業に手一杯でしょうから、政治には見向きしなくなるでしょう。お陰で私は他に後継者を探さなくてはなりましたよ」

「でも、すでに目星はついているのでしょう?秘書会の支援のこともありますので、早めに見つけておいてくださいね。」

二人の話題は次の選挙のことに移っていた。



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