40話 彼に決めた
由香は長く芸能界に身を置き、男性経験も少なくはない。
でもそれほどスキャンダル女優とはみなされず、ゴシップも少なく、私生活も派手と思われていない。
由香にとって夜の生活をあまり高く望んでいなかったし、特定の男と長続きしてこなかった。
彼女の前から何人もの男が通り過ぎた。
身長も高く、ハンサムで、筋肉質な俳優とも関係を持った。彼は優しかったし、由香の考えも良く聞いてくれ、一緒にいるだけで幸せに思えた。でも、夜の生活は退屈で、物足りないものだった。
スポーツ選手とも付き合ったが、肌が合わない気がした。彼はスポーツマンらしく均整の取れた体で、スタミナもあった。ただ、彼一人でどんどん進み、彼女は最期まで追いつけなかった。
イケメンで若いタレントとの行為はもっと味気なかった。若さゆえか彼はシャカリ立ち、行為の前から彼の「亀さん」は興奮状態で、すでに白い精液を漏らしていた。そして、肝心の時、1分も経たないで終わってしまった。
「何で、早く終わるの」言いたくはないが、男と寝た後はそんな気分にさせられた。
昔、マッチョで、「俺のは馬並みよ」と自分の持ち物を自慢し、精力を誇る男性タレントと寝たことがあった。
当時の彼女は男性経験もまだ浅く、体も大人になり切ってなかった。
「こんな大きなものが体に入るの?」彼の持ち物を見て、その巨大なものが体に入るのか疑問でもあり、恐怖を覚えた。
案の定、彼女のアワビは彼の亀に比べ、小さすぎた。
それを無理やりこじ開けられ「痛い。やめて」と拒んだが、マッチョはこれを喜びの声と勘違いした。更に押し入ってくる。
身体が割かれてしまうようで「だめ、無理」と叫ぶが、更に奥深く突っ込んできた。
男が激しく動くたび、痛みが走り、悲鳴を上げるが、男に聞き入れてもらえない。この時ほど彼女は性行為が早く終わればと思ったことはない。
何とか堪え切れたが、もうマッチョとはごめんだった。
それ以来、由香はセックスに恐怖感を持つようになった。今は、その時の恐怖感は薄れているが、セックスを素晴らしいとは思えなくなっている。
それが彼女の頂上への達成感を遅らせることになった、
「喘ぎ声なんか技とらしい。セックスで本当に夢中になれるの?あんな感極まった声を上げられる?」
エロ動画の濡れ場シーンを見ても、まるで信じられなかった。
女優が大きな声を出し、「駄目よ!行くう!」そんなセリフが実際の行為の中で出るとはとても思えない。
映画などに登場するセックスシーンは演技であり、どれも過剰な演出と見えてくる。
自分の経験と照らし合わせ、動画のセックスシーンを冷めた目でしか見られない。
「セックスは男と女を繋ぎとめる手段でしかない」そう考えるようになった。
女優だからあの最中でも、男を喜ばせるような表情を見せて、喘ぎ声もなども作り出せる。
そうすると、大抵の男は、彼女が高みに昇ったと勘違いして、一気に昇天していく。ただ、彼女はいつも置き去りにされた。
そうかと言って、彼女が余り反応をしないままだと、燃えない女と思われるのは癪だった。
女優と言う職業柄、冷めた女とは思われたくない。やはり、熱法的な女と思われたい。
性交のたび、彼女は濡れ場のシーンを思い出し、演技顔になるのだが、それによって男だけが先に行き、置いて行かれるのが常だ。
でも「いつかは私を満足させてくれる男が現れる」そう思って、男との出会いを重ねていた。
勇次とも夜のことにさほどは期待してはいない。
「彼は細身だし、特別背も高くはない。顔だってもっと、ハンサムはいくらでもいる。スポーツマンでないし、胸も厚くもないし、体力があるとは思えない」
そんな気持ちだった。
勇次と本番となって、いつものように由香はうっとりとした表情を見せ、声を漏らした。
「きっと、この男も張り切ってくれるわ」そんな思いでいるが、男はなかなか、いきり立ってこない。
「ああ、いいわ」彼女は男をもっと喜ばせてあげようと、喘ぎ声を更に上げる。
それでも男は、ゆっくりとしか腰を動かしてくれない。
「どうして?もっと上があるの?」彼女は少し戸惑う。
そしていつもより、体が燃えてくる感じがした。
「もっと、上に行きたい。まだ上がれる」そう思えてくる。
動かない男に、待ちきれない、焦らされるようだ。
「もっと、動いて」と催促。ようやく男の腰が動き、亀がアワビの中で前進と後退を繰り返してくれる。
その律動に合わせ、彼女の身体も反応し、燃え始めてきた。
「う、う、いい」喜びの声が漏れる。
それでも男は上には行かず、じっと待っている。
「始めてクライマックスに行けた」と感じた。でも、まだ次が欲しい。
「もっと上に行ける」身体が次の頂点を目指して高みを望んだ。
何度目かの頂上の後だった。
「ああ、駄目、いやあ!もう行くう!」ついに彼女は大声を出し、体は燃え上がった。
もうこれ以上の高みはないと感じた時、二人一緒に最高地に到達した。
「今まで、何人もの男と寝たけど私を満足させることはなかった。でも彼は違う。」
本当に映画の濡れ場シーンが演技でないと知る。
馬並みを自慢の俳優とのセックスなどばかばかしいほどに思えてくる。
由香がずっと待ち望んでいた男は勇次だと思えた。
「泊っていったら」その言葉は本心からだった。
それを振り切って、男は帰って行った。
一人残されて、家庭を持っている男だと改めて思い知る。
「彼に決めた。私を満足させてくれるのは彼しかいない。彼を絶対、物にする。そのためにはどんなことだってやるわ。」
勇次にとっては、一晩の遊びと思っていたのだが、由香は本気になっていた。