表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる
39/89

39話 由香のマンション

その配慮で割と早く解放されたのだが、少し中途半端な時間となったのは否めない。

これから、別の店に行って飲み直すのは遅いし、帰宅して寝るのにはまだ早すぎた。

このままで、別れたくない気持ちに由香はなっていた。

「あれだけのビルに会社を構えられているだけですごいことなのに、この人はそれを自慢もしない」

勇次はこれまで彼女が知り合えた人物と違っていた。

今流行りのIT会社を経営している人も数人は知っている。でも彼らは押し並べて我が強く、いかに自分がすごいのか、金を稼いでいるのかを自慢をするのが常だ。

有名女優なのでこれまでも一部上場の大企業の経営者にも多くあっている。中には尊大な態度に出る人もいたが「なんて紳士的な人かしら」思わせる経営者が多くいた。どちらかと言えば新興企業の経営者にギラギラした人が多いように思っている。

その人たちから比べ、勇次の会社は小さいし、歴史もない。だから勇次はほとんど自慢をしないのかと思ったが、警察で身元を聞かれても、「自営業」と言っただけ、そこには会社の経営者だと鼻にかけた様子が微塵もない。勇次は自己顕示とは無縁のようだった。


「まだ私よりも随分若いのに、どうしてあんなに落ち着いていられる?」とも思った。

彼女は女優としての度胸もあり、大抵の場所で平然としていられる。でも、事件に巻き込まれる形で警官から質問されると、いつもの通りにならず、ドギマギしたのは事実だ。

勇次はこんな場面にも慣れているのか、どうすれば後日厄介なことにならないか判断したくれた。

「犯人が二度と由香さんに近づかないと約束してくれたなら、被害届を出しません」そう言って、今後余計な心配事にならないよう考えてくれた。

短時間にそんなことまで考えるなんて、真似できないと思う。


「それにあんなに簡単にストーカーを捕まえてくれるなんて」

由香が見知らぬ人間から後を付けられているのは、注意深い者なら気づくかも知れない。でも勇次のように機転を利かしてあんなに上手く、取り押さえることはできないと思う。

例えば彼女の知っている若い子は由香の前でいい所を見せたくなってしまう。ドラマでもスポーツでもかっこよいことはできるが、でも実際の場面であんなに鮮やかな行動は期待できそうもない。

「若い子なら慌てて、ストーカーを取り逃がし、騒ぎを大きくするだけだっただろう」

それでいて「僕はかっこいいでしょう」若い子は見栄を張りがちだ。勇次には自慢そうな素振りは全くなかった。

もっと勇次のことを知りたくなった。

「どうして、あの若さで、知恵を身に付けられたの?」それが全く不思議だった。

勇次といると、ずっと年上の男性に思える。それは女優の鋭い勘により勇次の秘密を感づいたのかも知れない。

「もっと、この人のことを知りたい」

そして、「私のマンションに来ない?」と彼女が言った。


「思わぬ展開になった。」勇次は思う。

今日の食事にしても、別に期待してのことではなかった。ただ、有名人と近づきになれば会社の宣伝になるし、何より彼女がゲームのファンであることが世間に知られることはよいことだ。彼女と近づきになれるのはメリットしかなかった。

由香は確かに美人だし、話しも面白い。それだけだった。性の対象として見ることはなかった。

会話をして話が弾んだが、女性として見るより、芸能人、有名人として見た。

これまで芸能人と会ったこともないから、由香の言動に興味が行った。


それが、まさか彼女のストーカーが現れ、警察に行く羽目になるとは。そして今、彼女から誘われている。

今夜は遅くなると言って出かけたし、身重の晶子は既に休んでいるだろうし、幼い子供たちはもう寝ているだろう。

家に帰っても、何をすることはなかった。

そう考えると、有名女優の私生活を覗いてみたくなる。

明らかに誘われていると分かっていたが、断る理由もない。

「ええ、いいです」


「ここはプライベートにしてまだ誰にも教えてないの」由香は都内に後二つほど部屋も持っており、事務所などにはそっちの方を教え、この部屋は秘密だと言う。

彼女の所属する事務所は、前は小さなところだった。それが、彼女が売れるようになりテレビで引っ張りだこになると、その人気によって会社も大きくなった。

その為か、事務所の社長は口うるさく言えない。

そして彼女も、ゴシップネタになるような真似をしないと思われた。

事務所の社長もそのことはよく分かっていて、彼女の私生活に口出ししない。

実力があるからこそ、そんな我儘を要求できる立場になっている。


ここのマンションはセキュリティが万全であり、住民のプライバシーにも考慮されている。

エントランスは明るく広く、それでいてマンションの住民と顔を合わせないでも、出入りできるように工夫されていた。

それによって、マンションの住民も由香がここの住人の一人になっていることに気付かれてないほどだ。

二人は全く誰にも会わないで、彼女の部屋にはいることが出来た。


由香の部屋は女性らしい雰囲気を醸し出していた。

勿論、セレブらしくブランド品にあふれた部屋はゴージャスでもある。

「本当に誰にも知られてない部屋なのよ」そう言って、勇次を迎え入れた。

と言って、もう話すことはなかった。この秘密の部屋で、二人は大人の関係になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ