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私の中の怪物  作者: 寿和丸
3部 医者になる
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36話 会社の状況

勇次は21になり、子供も二人になり、更に晶子のお腹にも新しい命が芽生えていた。

会社の業績も順調に伸びて、社員も50名を超えるほどになっていた。3年前に発売したパソコンゲームがヒットし、これがきっかけで、他のゲームも伸び、業績好調に繋がった。

事業所本部も都内の一等地から外れているが、少し目立つビルの一角に会社を構えるまでになった。

順調に大きくなった背景には良い人材が集まってくれたことが大きい。

伸二は上京すると、すぐにアルバイトに来てくれた。当時は少人数で、勇次は一人で何役もこなさなくてはならなかった。

ゲームソフトの開発は、勇次が一人で企画、プログラムから宣伝、販売まで行わなければならない。

伸二はプログラムこそまだまだだったが、非常に良く気の付くタイプで雑務をそつなくこなす他、勇次に代わって宣伝や販売などを手助けしてくれた。

これでどれだけ助かったか計り知れない。今では伸二は勇次の片腕として、専務になってもらっている。


もう一人重要な人物に中村総務部長が上げられる。

彼は30歳以下の社員が多くいる中で、一人60手前の白髪姿の異色の存在だ。

会社を大きくするうえで考えなければならないのが組織づくりだ。勇次はこの組織づくりのノウハウを知らなかった。

会社設立時には妙子からアドバイスを貰い、人を貸してもらうこともあったが、事業存続に目途が立つようになると組織づくりに長けた人に来てもらいたかった。

そんな時に、佐藤弁護士から中村を紹介された。

「私は製造会社の事務専門で、ソフトの開発など素人ですがよろしいのですか?」

「構いません。開発は私たちがやります。中村さんには開発部門が仕事しやすい環境にして欲しいのです」

設立したばかりだがパソコンソフトの販売が好調で、事業が急拡大し給与も多く出せるので、人はすぐ集まってくれる。ただ、入社希望の人は大卒か専門学校卒で全て年上だった。

勇次は年上でも何とも思わないのだが、雇われる側は、高卒でもない若い勇次に指示されることに、30過ぎの人はプライドが邪魔するようだった。

そして、ソフトの開発能力では勇次と雲泥の差があることに、自信を無くす者もいた。

勇次にとって30分で終わるようなソフト変更でも、彼らにとって丸一日かかる作業だった。

「これ夕方までやっておいて」と仕事を与えるのだが、深夜まで残業しないとできない始末だ。

基本的に勇次は残業がいやだし、人に残業をしてもらうのも嫌いだ。

「あんな簡単なことをいつまでやっているの」社員が夜遅くまで仕事をしていることが理解できない。口には出さないが、顔に出るようで、それが社員のやる気がなくす要因にもなった。

それを中村が間に入ることで、指示が滞ることはなくなる。

「社長は仕事が出来過ぎるのですよ。貴方にとって簡単なことでも他の者にとっては大変な作業です。仕事の分担をして、社長には複雑で難解な作業を、他の者には割と単純な作業をしてもらいます」中村が勇次に苦言してくれた。会社の組織づくりができたのも中村のおかげと言っていい。


他にも管理職の応募に来てくれた人はいた。その殆どは大きな会社で管理職などを務めていた人物で、小さな会社に入ると横柄な態度が無意識に出がちだった。

「俺は大きな会社で重要な役についていた」と言う自負が、表にでるのがありがちなことだ。

その点、中村は小柄で人に威圧感を与えず、朗らかな人柄なことも社内の宥和に役立った。

ある時、業界の展示会に出品しようとして、大きな展示物の製作をしていた。

等身大のフィギュアがリニアレールに乗って動く仕掛けだった。そのレールになんと大きな傷が発見された。展示品の一番手前にあって、良く目立った。

「誰だ、こんな傷を作ったのは?」出品間際であり、誰もが気が立って、つい荒い言葉が飛び出る。

「昨日はそんなものありませんでしたよ」

「その後誰も触ってないはずです」

言い訳や弁解などもあって、犯人捜しを始まりかねなかった。

そこに中村がとぼけ顔で言う。「君ぃ。こういう時疑われるのは、一番立場の弱い者なのだよ」

「え、それって俺のことですか?」と最近入社したての社員が素っ頓狂な声を上げた。

「当然だよ、責任を取らないとならないね」

「え、そんな。ひどい」情けない顔だ。

「そうだな。あとで、一曲歌でも披露してくれ」その一言で、笑いが起こった。

「あはは、それがいい」いつしか犯人捜しの声も消えた。

「まだ、出荷には時間がある。さあ、これから手分けして、修理にとりかかろう」その一声で、展示品が修理されていた。


そんな雰囲気もあって、社内は手の空いた者は、すすんで仕事が遅れている人に手助けするようになっていた。社内において、誰がどんな仕事をして、どんなこと躓いているかを知るのは仕事がスムーズに進むことになる。規則や掛け声で社員にそのような行動に持って行くのは容易くはない。

それを中村がうまくコントロールしてくれ、伸二もフォローしてくれたのだ。

勇次がソフト開発に天才ぶりをどんなに発揮しても、二人がいなければここまで順調に会社は育って来なかった。

不況が長く続く中、勇次の会社は社員が残業をしなくても予定通りに仕事が進み、ボーナスなども出せるようになっていた。


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