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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
35/89

35話 結婚、出産

二カ月後に晶子の妊娠が判明する。

それに合わせ、勇次と晶子の生活は変わっていく。

まず、新年度になって晶子は教師を辞めた。専業主婦になって、家庭に入る。仕事から帰るといつも妻がいることは新鮮だった。

次に、晶子の弟、伸二が上京し電機専門学校に入学した。

彼はもともと地元の大学を目指していたが、勇次を知りプログラムやソフト開発に興味を覚え、専門の学校を目指すようになった。そして、プログラマーになるのなら、勇次に習った方が早いと考えて、二人の近くに越してきた。勇次もこれを歓迎し、彼のアパート探し、引っ越しなどを手伝っている。

そして勇次が18になるのを待って、晶子との結婚届を行った。

「これで、僕らは正式に夫婦だ」

公的に夫婦になったからと言って、実質何も変わりない。ただ、世間的に堂々と夫婦と名乗れることは大きかった。税金など公的な扱いが大きく変わっていく。

それから4月後に、長男が生まれた。名前は拓とした。

「この子には、新しい世界を切り開いて欲しい」という願いからだ。


その長男が生まれたのち、結婚披露宴を行った。と言っても、ごく内輪だけで行い、晶子の家族に、勇次側からは妙子、佐藤良夫弁護士、染谷国会議員だけである。

もともと勇次には親友と呼べるような者はいないし、晶子も学校の思い出が良くなくて同僚などを呼ばないことにした。

勇次の義理の兄姉達ともほとんど没交渉であり、この席には梶谷家側(勇策の息子達)は誰一人いない。勇策の死後、完全に息子達とは縁が切れた状態だ。

また、長く勇策に仕え、勇次を育ててくれた佐藤夫婦は既に亡くなっている。

「この席に二人がいないのは本当に残念ね」と妙子が言うと「いやあ、父も母もきっと喜んでくれていますよ」と弁護士が答えた。

本当に身内だけの披露宴だった。


「勇次君は若いのに会社を興し、立派に経営をしている前途ある若者です。また晶子さんは教師をされていたように聡明で、必ず家庭を明るく守ってくれることでしょう。

この二人の門出を祝って乾杯!」染谷代議士が音頭を取った。

これが、唯一披露宴らしい儀式で、あとは身内同士の会話が始まる。

「私は梶谷さんの弁護士をしていて、今は妙子さんや勇次君の仕事の顧問のようなことをしています」

「晶子の父親です。今後も晶子をよろしくお願いします」

社会的に認められた者同士の挨拶は穏やかで身をわきまえたものとなる。

妙子と母親は孫を間に世間話を始め、弟たちは互いの近況を報告し合っている。

ただいつしか、話しの中心は赤ん坊が中心になっていく。

「物おじしない所は勇次君にそっくりだな」「いや、オヤジ(勇策)によく似ている」「梶谷勇策さんのような大物になれたら嬉しいです」弁護士、代議士、父親の同年配同士の会話はだ。

彼らの目の先は晶子の母親に抱かれて、すやすや眠る拓だった。

こんな大人ばかりの席にいて環境が違うと言うのに、むずかゆり、泣き出すようなこともなく我関せず周りをじっと観察する赤子に、他の者達もつい目が向いてしまっていた。


そして勇次とコーツは以前、拓についてはこんな話をしていた。

「ユージの身体は生殖能力を高めてある。」

「どういうことだ?」

「俺が地球に来て真っ先に考えたことはどうやってこの地を支配しようかと言うことだ。そのためには地球の生物を詳しく調べなければならない。ユーサやユージの身体の特徴をまず調べ、人間の体の特徴を掴んだ。その上で、他の人間と比較をした。その結果、ユージは人並み以上の知能は持っているが、だから言って天才と言えるものではない。俺の力を貸せば、十分天才に成れる」

「コーツが私に力を貸してくれていることは知っている」

「運動能力も人並み以上の物はある。だが、特別際立つものではない。俺が、周りの状況をアドバイスすればユージが的確に動き、最善の働きができる」

「コーツと二人三脚で人並み以上の力が発揮できると言いたいのか」

「そうだ。だが、これは獲得形質と言うもので、遺伝として子孫に伝わらないものだ」

「だから、コーツは将来私の子供に乗り移る考えだろう」

「前にジンギスカンの話をしたな。彼は多くの子孫を残し、彼の遺伝子はアジアに多く広まった。だが、彼の遺伝子が他者よりも優れていて、生存に適していたからではない。彼の遺伝子は後世に多く伝えられることになったが、適者生存の法則に乗ったからではない」

「ダーウィンの理論だな。」

「そうだ、社会的に成功し子孫を多く残しただけで、遺伝子が変異してなければ、進化に結びつかない」

「それで、コーツは何を企んだというのだ」

「ユージの遺伝子を少し改変し、生殖能力を高めるようにした。その結果ユージは子孫を残し、進化に繋がるはずだ」

「とんでもないことをやってくれたな。それで拓の身体にも伝わっているのか?」

「勿論だ。お前の遺伝子はその子にもちゃんと残っている」

この話はまだ続いたが、また後で取り上げる。


これで2部は終了です。

次からは3部となって新たな展開になりますので、お楽しみください。

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