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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
33/89

33話 帰宅

それまで室長は、(何らかの方法で、例えば、勇次の友人などが協力して、ゴーストとしてハッカーを繰り返していたのかもしれない)と疑っていた。

しかし、警察署のパソコンが使われてしまったのでは、どうにもできない。警察署と言う厳重な警備の場所に、友人がどうやって侵入し、パソコンを操作したと言うのか、全く方法が思いつかなかった。

例え、友人の協力があったとしても、その友人が警察署の警備を掻い潜れるとは思えない。それが解明できない以上、勇次に疑いは向けられなくなった。

そして、染谷国会議員が官房室に苦情を言って来た。おそらく勇次の母親からの依頼があったのだろう。

「何の理由で、梶谷勇次君を保護しているのか?国民を保護すると言っても、理由も説明しなければ人権侵害だ」このように詰め寄られてしまい、官房室は対応に苦慮していた。

その上アメリカの要請が伝わって、「もうゴーストに関わるな」官房室の方針も変わる。

全ての外堀が埋まって、官房公安室の室長は遂に降参した。

「梶谷勇次の保護措置は解除する」


病院からの帰り、警察から車を出すと言われた。

「家にパトカーで行ったら、近所で何事かと思われますよ」と断ったが、それでも最後まで、警察は保護と言う名目を通したかったのだろう、病院からは警察の車で、マンションに送られることとなった。

マンションの入り口ホール迄同行しようとする警官に、夕方の帰宅時間でもあり、近所の目も気にして、流石に勇次は断固拒絶し、お引き取りしてもらった。

晶子はまだ帰ってこないと思って、チャイムも鳴らさず鍵を開け、玄関に入ると、意外にも灯が点いていた。

「お帰りなさい」晶子が満面の笑みを浮かべて迎えてくれる。

「ただいま。やっと帰れたよ」

「寂しかったわ」「僕もだよ」

そんなやり取りをして居間のソファーに座る。

「学校は?」「今日は早引けさせてもらった。お母様からの連絡で今日、帰れると言われたの」

「お袋から?」

「ええ、代議士の先生の働きかけもあって、早く帰れることになったそうよ」

「ふーん」裏で妙子も動いていたと知る。


夕食後のひと段落。

晶子と向かい合わせで座ると「心配かけたね」と改めて労う。

「うーん。貴方こそ大変だったわね」

「いや。僕はただ、部屋で座っていただけだから」

「それでも」

「それでも?」

「私、あなたが入院したと知らされ直ぐに病院にお母様と一緒に行ったの。そしたら面会を断られたわ。お母様はきっと何か裏があると言ってすぐ病院を後にしたの。だからすごく心配だった」

「僕も大変なことに巻き込まれたと思ったが、何も聞かされなかったよ」

晶子には本当のことを話さないと決めていた。理由を知っても晶子に余計な心配をかけるだけと思っていた。

嫌な話題を変えようと話を変える。

「でもね。今日、帰って来て、部屋に灯が点いていて本当に嬉しかった。晶子と一緒になって、我が家がこんなに暖かいと感じられたのは初めてだったよ。」

「まあ。」と言ってから、少し言いよどんでから「帰って来たばかりなのにこんなこと言うのは何だけど、少し学校で嫌なことがあるの」

「聞かせてごらん」

「私があなたと同棲していると噂が立ったみたいなの」

「それで何か学校から言われた?」

「まだ、何も言ってはこないわ。でもこういう話は尾ひれがついてしまう」

「そうか、それもあって今日は早引けしたんだね。でも晶子に何があろうと僕は君を守る。君は自分の信念に沿って動けばいいよ」

そう言ってから「ちょっとお出で」と手招きすると、晶子はためらいもなく勇次の膝に乗る。

「もっと今後のことを考えていこう。これから忙しくなるよ。会社の仕事は山積みだし、また君の故郷に行って、お父さんから釣りを教えて貰わないといけない」

恋人を抱きながら、明るい話に持って行った。


そのころ、妙子は染谷代議士と会っていた。

「染谷先生。この度は御骨折り、有難うございました」

「いやいや、私は何もしておりませんよ。それよりも勇次君は大したものですね」

「勇次が何か?」

「警察から小耳に挟んだのですが、勇次君、病院で熟睡していたらしいですよ。大人でも警察関係の施設に入るとビビりますのに、勇次君ときたらなんでもない顔をしていたと言います。流石にオヤジ(梶谷勇策)の忘れ形見ですね」

「まあ、そんなことが」

「肚が出来ているから、そういう平然とした態度がとれるんですよ。おぼっちゃま先生(勇策の息子)とは大違いです。勇次君は立派に政治家の器を持っております。」

染谷はそこで改まった口調になる。

「オーナー。勇次君を私に預けていただけませんか。私が政治のイロハを教えます。彼はいずれ国を動かすような政治家に成れます」

オーナーとは妙子のことだ。妙子は亡くなった勇策の後を継ぎ、実質的に勇策が作った秘書会のまとめオーナーになっている。その秘書会は選挙の時には強力な集票マシーンとなって活躍していた。

「その話は有難いですが、今はまだ勇次は政治家に関心を持ってないようです。いずれ私の後を継いでまとめ役にはさせようとは思いますが、まだ本人の気持ちが固まらないです。この話はそれまで保留していただけますか」と断りを入れた。


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