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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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31話 取り調べ

勇次を保護した翌日、室長は部下から報告を聞いていた。

「どうだ。お客さんのご様子は。」

「はあ、外部との接触は一切断ち切って、時間を持て余すかと思えたが、その様子は見えません。」

「怯えたり、不安がる様子もないか?」

「それが全くありません。極めて、平静で落ち着いております。普通の大人でも、馴れない初めての所では、眠れなくなる者もいるのですが、彼に関してはしっかり眠れたようです」

「驚いたな。まだ彼は17の少年と言える。それでいて、落ち着き払っているのか。虚勢を張っていると見えないのか?」

「私もそれを疑ってみたのですが、監視をしていたものによると、良く寝ていたのは間違いなさそうです。朝になると自ら、起きだして、軽く運動もはじめたようです」

「呆れた奴だ。それでは、ハッカーをしていたなどと自供はしないだろうな」

「ええ、パソコンやインターネットの話をして、ハッカーに関すること話題にするのですが、動揺し顔色を変えるような素振りも見られません」

「これまでの所、奴がゴーストである可能性は見えないのか」

「ええ。そうです。それで今後も取り調べを続けますか?」

「当然だ。殺傷未遂にあったことを理由に保護までしたんだ。ここで開放などできん。少々脅しに近いことを言及しても良いから、奴がゴーストか見極めろ。」

しかし、係官は少し怪訝な顔をしている。係官は勇次をゴーストと見ることに疑問を持っているようだ。これを打ち消すように、室長が重ねていった。

「いいか。誰もいないはずの家からパソコンが動いているのを見つけてから、ゴーストは一度も現れてない。ゴーストは明らかに捜査の手が身辺に来たと思って自重している。勇次がゴーストである証拠は見つかってないが、このまま保護を続け、ゴーストが出現しないなら、勇次がゴーストである可能性が強まる。我々の目的はゴーストを捕まえ、犯罪手口を解析することだ。それと同時にゴーストを現れなくすることでもある。このまま、ゴーストが消えればそれでも良いのだ。」


また同じ日の朝、勇次が保護されたことを知って、母親の妙子と晶子が警察に面会を求めていた。晶子は勇次と同棲関係だと言えないので、担任と言うことにした。

「息子に合わせてもくれないのは何故ですか」妙子が強い口調で言うと、受付係も戸惑ってしまう。彼らには官房公安室からの指令ということも伝えられておらず、勇次がどのような理由で入院したのか、聞いてなかった。

「面会もさせてもらえない理由も言えないなら、担当の人に問い合わせてください」仕方なく、受け付けは他の係に問い合わした。

出てきたのは警察官とは、服装も雰囲気の違う背広姿の男だった。

「御子息に怪我もなく体調も良好です。お気持ちは分かりますが、安全のためにこちらで梶谷君を保護したのです。」

「でも、面会もさせてくれないのは人権無視です。私にも考えがあります」妙子が言うと、背広男は思いがけないことを言った。

「梶谷君は外国の諜報機関から命を狙われた可能性危険があります。もう少し、こちらにいてもらった方が安全です」

「え、外国の機関?」

「はい。詳しいことは話せませんが、明らかにプロの手口です。ここにいた方が安全なのです。」

言外にこれ以上お話しできませんと言っていた。もう埒が明かないと妙子は感じた。まだ勇次を心配して残ろうとする晶子の手を引いて病院を出る。

「これ以上私たちだけで交渉しても、話しがすすみそうにはない。別の手を考えましょう」

妙子は万時取っていた。(この件には裏で何か大きなことが起きている。それなら、政治家の出番だわ)

彼女は梶谷勇策の妻であり、秘所会は今も機能している。

これまで、彼女はこの特権をほとんど使ってなかった。それでも彼女の商才と幸運だけで順調に商売を伸ばしてきた。だが、今度の件で初めて、勇策の妻の立場を利用することに決めた。

「勇次は何か大きな勢力に絡まれている。警察にこれ以上かけあっても教えてはくれない。染谷さんに頼むしかないわね」

染谷は梶谷勇策から直接薫陶を受けた最後の秘書だ。彼は順調に出世し、今は国会議員として、日本政界に一定の発言権を持っている。

染谷議員なら、どのような事情で勇次が警察病院に送りこまれ、面会謝絶された理由を聞きだしてくれることは容易いと考えたのだ。


そのころ、勇次は別の所で、そんな動きがあったことも知らずに、病室である心配をしていた。

「これは明らかに、ペンタゴンに忍び込んだ疑いを掛けられたということだ」

「だが、警察も俺達には何の証拠も掴めてないようだ。もし掴んでいたなら、病院に保護すると言う形はとらず、警察に呼ばれていたはずだからな」

「確かにそうだが、警察、いやもっと大きな組織が背後で絡んでいると思う、その組織が、あの事故を利用して、僕をここに連れ込んだとしか思えない」

「そうだとしても、保護を名目に隔離なんてするか。」

「コーツはあの家のパソコンを隠れ蓑にして、ハッカー遊びに興じたが、警察か組織はそのことを調べ上げた。多分だが、僕がお爺さんの家に入ったことは調べられていて、その線から僕に疑いがもたれたのだろう。その組織もどのように僕があの家のパソコンを操作したのかは掴めなくても、僕に疑いを持ったのは確かだ。そしてその組織は警察と違って、証拠よりも疑いだけで実行する」

「では俺達を隔離してどんなメリットがある?」

「まず、僕を一人隔離して、精神的に追い詰め自供するのを待つ」

「それはユージには通用しない」

「次に、隔離を続けていれば、ゴーストが現れなくなると考えた。このまま隔離を続けて、ゴーストが現れなければ、僕らがゴーストであると断定する」

「それはまずいぞ。このままここに閉じ込められれば俺達はどうにもできなくなる」

「それが、背後の組織の狙いだ」


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