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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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24話 帰省

晶子の実家は東北のT県の海から離れた山地寄りにある。

高校が夏休みになって、電車を利用して二人は帰省することにした。

「これがあなたの一世一代のプレゼンテーションなのよ。なにがなんでも晶子さんのご両親から結婚の承諾を貰ってきなさい」行く前に妙子からはプレッシャーを掛けられてしまった。

「息子にプレッシャーをかけてどうするんだよ」

「あんたはね。少しのんびりしたところがあるから、少し尻を叩いていた方がちょうどいいのよ」晶子の目からは恋人がのんびり屋とは思えないのだが、母親の目はまた違って見えるらしい。

そんなやり取りをして送り出されたのである。


晶子の実家は人口6万の地方都市にあり、住宅街ではあるが、周りには田畑が点在もしている長閑な場所にあった。

父親は公務員で30年間、真面目に務め、定年を4年先に控えている。母親は民間会社でパートの仕事に従事している。また晶子には大学に通う弟と高3の弟が二人いる。

この家族が二人を出迎えてくれた。

「初めまして、梶谷勇次と言います。この度は晶子さんとの結婚を許してもらうために伺いました」畳に正座して、申し込んだ。

それに対し両親は物静かに挨拶する。

(まさか、娘がこんな若い男を連れて来るとは)

父親も母親も娘が若い年下の男性を連れてきたこと、それも通っている高校の『教え子』ということに驚き、戸惑いを見せていた。

勇次は晶子の両親から自分が高校生で若すぎることを懸念されていると直ぐ感じとる。

「私が若すぎると思われるかもしれませんが、これを見てください。私が中学生の時に作った預金通帳で、自分で得られた収入をここに記載しております。全てが私の力で得てきたものです」

そう言って、勇次は通帳を広げてみせた。

目の前の若者が堂々と通帳を開いてきたことに、両親は呆れながらも手にした。

「こんなにも多くの金額を!」両親は、その額の多さに驚いた。

「ここには、私がパソコンを教え、ネットの開設の手伝いなど得てきた収入だけを記載しています。先月に会社を設立したばかりで、そちらの経理はまだこれからですが、四半期ごとに決済して公表していくつもりです。」

「会社を作ったのですか?」

「はい。まだ私とバイト二人の小さな会社ですが、株式会社にしました。今現在は、母やその知人などにも株主になってもらっていますが、いずれは公開することを考えています。」

そう力強く言い切る勇次に両親は頼もしさを感じたようだ。

「先月、会社を興したばかりですが、以前、遊びで作ったパソコンゲームのソフトが順調に売れ始めまして、これが新たな収入源なって来ました。いずれにしても、今は私一人で、ソフト開発をしているのですが、近く正式に社員を雇い、ある程度のソフト開発の手伝いをしてもらおうと考えています」

その語り口は経営者そのものだ。


「あのう、梶谷さんは梶谷勇策さんとご縁があるのでしょうか?」母親が聞いてくる。

「勇策は私の父です。最晩年で母と結婚し、私を残しました。最後の気力を振り絞って、子作りしたと言えます」90を超してできた子供であることを少し茶化すように言う。

本当のことを言えば、勇策の生まれ変わりなのだが、そんなことを口に出せるものではない。

「まあ、そうでしたの。梶谷さんはご立派な政治家でいらしたわ」

「父のことを褒めていただいて有難うございます。」

「あなたは政治に関心ないのか?」父親が疑問を口にする。2世議員が多く見られ、梶谷勇策の子供なら、当然政治家を目指してもおかしくないと考えたのだ。

「父は戦争に負けたのは、自分達軍人が間違いをしてしまったからで、必ず責任を取って、国の復興につくそうと考えました。政治家になって、二度と間違った戦争をさせまいと考えたようです。

政治家に一番必要なものは、使命感だと思います。父は国の為、国民の為に責任を果そうと思っていたようです。

それに対し、私は父ほどの使命感を持っておりません。今の事業を拡大することしか頭にありません。」

「使命感か」父親はその言葉をかみしめる。

近頃の政治家がどれほどの使命感を持ち合わせているのか疑問だった。地方議会の議員達においては、公のことよりも、私事に関心を持っている連中がほとんどだった。

農道を整備しようと企画して、議員に働きかけても、議員の頭には自分の土地にかぶらないかだけに関心を示し、後はどうでもよいと思う連中ばかりだった。県議会でも同様なことが見られたし、国会でもそれに近いことがあった。新幹線や高速道の建設計画には変な政治家からの変な働きかけがあったと父親は見ていた。それだけに『政治家の使命感』と言う勇次の言葉が胸に入ったのだ。


両親は、会ったばかりの時には勇次を未成年者として見ていた。それが会って話をすると、勇次を立派な大人、実業家として見るようになっていた。

(高校生でありながら、すでに家を買えるほどの金を持っている。何よりも会社を興し、事業しているなんて、並の大人でも出来るものでない。この人物なら大丈夫だ)

勇次が自分の考えを持っていることにも感心した。

(若いのに、信念を持っている。ただの金儲け亡者でない、社会を公平な目でとらえてもいる)そう考えると父親の答えは決まった。

「改めてだが、こんな我儘で出来の悪い娘だが、梶谷さん、晶子をどうかよろしくお願いする」

これにより、勇次のプレゼンテーションは成功した。


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