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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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23話 株式会社

言われるともっともなことだった。

二人は同棲をしたばかりで、結婚に頭が回ってない。それにまだ若いという気がしていた。

「勇次は来年には18で、法律上結婚できることになる。その為に今から準備をすればよいの。

まず晶子さんのご両親に結婚を認めてもらうことが先決ね。

今の法律では未成年は親の承諾が必要だから必ずもらうことね。

晶子さんは○○県の生まれだから、年中帰省してないと思うけど、夏休みには帰られるのでしょう?」

「はい。」

「だったら、勇次も一緒に行って、結婚の承諾を貰ってきなさい。私も同行すべきと思うけど、少し遠いので行けそうにないわ。勇次、それが、あなたが家族を持つための、一歩と考えなさい」

そう言うだけ言って、さっさと妙子は帰っていく。

後に残された二人は顔を見合してしまう。

「ちょっと、まだ二人で結婚について話をしてなかったけど、僕は晶子と結婚したい。晶子はいいの?」

「私も結婚したいわ。」

「なら決まりだね。」

妙子に後押しをされる形になったが、二人は結婚を決めることとなった。


そうなると、勇次は具体的に結婚に向け、やらなければならないことが急に多くなった。

その一つが、会社と事務所の開設だ。

今まではアルバイトの感覚であったが、これからはパソコンを扱った本業となる。これで一家を養っていかなければならないのだ。

その為には、会社組織にして、仕事を安定させ、継続しなければならないし、住まいと仕事を一緒にするのは良くない。

勇次はマンションから二つ駅の離れた町に、事務所を借りた。商店街から少し離れて、住宅街とも言える場所だったが、家賃も駐車代も手ごろと言えた。

『梶谷オフィス株式会社』それが会社名だ。

「梶谷オフィス株式会社。素敵だわ」晶子は金属板に浮き上がった社名を見て、嬉しそうに言った。

彼女にとって夫の会社が順調に伸びてくれるのを願う気持ちで一杯だ。

勇次と暮らすようになって、彼女は夫が年下だとは思えなくなる。

会社設立でも勇次は一人で、申請書類を作成し、届け出ている。教師である彼女は、その手続きが煩雑なことぐらい知っていた。

それだけに、一人でこれらのことを処理していく夫が、自分の『教え子』とはとても思えず、まるで、人生経験豊富な4、50代の男性のように思えてしまった。

「勇次さんは、何でもできるのね」その言葉には夫を頼り、甘え、期待する気持ちが滲んでいる。

始めて肌を重ねた時は、肉欲に溺れて離れたくない気持ちが強かったが、今は勇次といると安心感が増し、心の安らぎを感じる。

「ここが、事務室でその奥が社長室、兼応接室になっている。」などと勇次は晶子を新しいオフィスに案内する。

「この人について行こう」まだペンキの匂いがする事務所を見渡しながら改めて思った。


会社組織にしたのは、個人事業よりも、社会からの信用が高く、取引が確実に増える見込みがあるからだ。税制面でも大きなメリットがある。

「学生のバイトの積りで仕事などしないように。お客様からの信用が第一だからね。それには最初から会社組織にして、お客様の信頼を得ることが重要。今後の事業展開を図るにも、最初から株式会社としてやっていった方がよい」

資本金は10万円。法律が変わり、資本金が1円からでも良くなり、設立の敷居が低くなったことも大きかった。

仕事の概要はインターネットの接続サービス、ホームページの作成補助、プログラム開発だった。

特に勇次が最近になって興味を示し、開発に取り組んでいたのが、ラジコン機のマイコン搭載だ。

マイコンは昭和の中ごろから流行り出し、大人から子供まで嵌ったものが多くいた。勇次も子供の時に、ラジコンカーで遊んだ経験がある。

如何に早くラジコンカーを走らせるか、夢中になったものである。

その時、気づいたのだが、モーターの出力を高めただけでは早く走らせられないと言うことだ。

スピードを上げるだけなら、モーター出力を上げるだけでよいが、スピードを上げると制御が格段に難しくなる。

カーブやちょっとした段差でラジコンカーはコントロールを失い、転倒、レーンから外れてしまうのだ。

それを人間が操作しようとしても、早すぎてカーに追いつかなかった。

この経験から、カーにマイコンを乗せ、自動的にカーブや段差を検知して、スピード制御やハンドリングを行えばラジコン操作が容易になると考えた。

人間は大まかな始動、停止、方向指示するだけで、後はマイコンが勝手に制御して、ラジコンカーは最適なコースを取り、最速なスピードを出せるはずと考えた。

これはセンサーなどの部品の性能にも左右され、プログラムしただけで制御できるものでないが、子供の頃からのラジコンカーを早く走らせたい夢を実現させたかった。

勿論、これはまだ趣味に近いもので、会社の収益にはならず、最大の収入源はパソコン教室であった。


その間、コーツは何をしていたかと言うと、勇次とパソコンソフトを開発していた。計算力、記憶力が抜群の彼はソフト開発に向いていたこともあるが、関心のあることに徹底的にこだわる習性がある。そして、他所でどのような開発が行われているか、覗き見することにスリルを感じていた。つまり他所のネットワークシステムに、セキュリティソフトを搔い潜り、侵入することが面白くなってしまった。勿論、これは違法なことだが、コーツの種族の特性上、人間の法律など気にはしなかった。

これが、後に大きな騒ぎを引き起こすことになるのだが、今は触れないでおこう。


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