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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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19話 離れたくない

甘いキスだった。こんなにも嬉しいものだとは二人は思いもしなかった。

ただそれだけで満足できるものでない。

勇次が高ぶる気持ちのまま晶子のパジャマのボタンに手を掛けると、その思いはすぐ伝わる。

「待って」晶子は身を離すと、自ら脱ぎ始めた。

パジャマも下着も次々と床に落ちていく。

深夜灯に映る白い裸体、レンブラントの絵画のように暗闇の中で彼女だけに光が当たっているように見える。

ギリシャ彫刻の女神のような均整の取れたシルエット。陰影とのコントラストで彼女の胸や尻の膨らみがより強調されている。

「綺麗だ!」思わず勇次から賛嘆の声を上がる。

「梶谷君も早く脱いで」晶子は褒められ嬉しくなり、上気して大胆にも言う。

それにこたえ勇次も服をかなぐり捨てると、雄々しくなった男性自身が体の中心に立っていた。


「好き」二人は同時に声をあげ、抱き合いベッドに倒れ込み、体を絡ませ合った。

もう抑えが利かなくなって、オス亀は穴に突入し、メスあわびは大きく開いて迎え入れた。

勇次が腰を動かすたびに、晶子も反応して、胸の膨らみが揺れる。

やがて二人の感情は頂点に達し、勇次は精魂を放出し、晶子は全てを受け取った。そして亀は頭を垂れ小さくなり、アワビは閉じていく。

高揚感が静まって、初めての行為が終わった。

それでも満足感に浸りながら、しばらく見つめ合う。

「体を洗わない?」「ええ、いいわ」そんな言葉が自然に出る。

一緒に風呂場に行き、シャワーで互いを洗い合った。

晶子の体から赤い筋が床に流れていく。それを彼女は恥ずかしくも思わない。

「女の大事に守って来たものを、勇次さんに捧げることができた。」そんな幸福感さえある。

「ありがとう」勇次からもお礼の言葉が漏れた。

お互い嬉しくなって、また濡れた体で抱擁を交わしあう。

そしてベッドに戻ると、勇次は既に力を取り戻しており、ベッドの第二ラウンドが始まった。

それが終わった時、若い二人も流石に精力を使い果たし、眠りに落ちてしまった。


気付いた時は10時を過ぎて、太陽は高く上り、窓際に置いたベッドを明るく照らし出していた。

お日様が二人をからかうように、照らし出すが、二人は見つめ、「おはよう」と嬉しげに声を掛けあう。

「ねえ、勇次。またシャワーをしたい。お風呂まで抱いてって」甘え声で晶子が言うと、「よし」勇次は嬉しそうに軽々と抱きあげてくれた。

「ねえ、私、重くない」抱きかかえられながら女が聞く。

「すごく重いよ」男は女の期待に沿いかねることを口にする。

「嘘、いじわるね」むっとして女が口を尖らす。

「だって、晶子を落としでもしたら大変じゃないか。だから晶子を重く感じるのさ」

「本当に、勇次はお上手ね」それで、女はすっかり気分を直してしまうのだった。

二人はいつのまにか「晶子、勇次」と呼び合う仲になっている。


土日両日。片時も離れたくない、少しでも一緒に居たい気分で一杯だった。

二人で近所のスーパーに食料を買い出しに行き、二人で料理を作り、二人で食事した。

狭い浴槽に体をくっつけ合うように二人で入る。

膝を曲げ合い、巧みに股を交差し肌を寄せ合う。

勇次が晶子の乳房で戯れると、嬉しい声を上げた。

「くすぐったい」「でもいいでしょう」どちらも楽しんでいた。

好きなこと趣味や将来の希望など何時間でも喋り合い、それに疲れると見つめ合う。

そして更に多くをベッドの上で過ごした。


二日間は短く過ぎ去った。日曜の夕方になると、晶子はアパートに戻らなくてはならない。

着替えが必要だし、明日の授業の準備もある。

離れたくないが意を決し、晶子はマンションを出ることにする。ただ今度は勇次が心配になって晶子を見送りについてくる。

「大丈夫よ。いつも通勤してきたから」

「でもこんなに遠いのはやっぱり心配だな。僕の部屋に越して来てよ」

「そうは言っても引っ越しは簡単ではないわ」

郊外行きの電車は空いていて、二人は体を寄せ合い小声で話し合った。


晶子のアパートは1DK。女性一人なら十分だが、二人ではやはり狭いと感じてしまう。

「僕のうちに越して来ない?」

「それはそうだけど」

学生時代と教師生活の丸5年、この部屋で過ごしてきて、晶子にとって、愛着があった。すんなりと勇次の提案を受け入れない気持だ。

「僕のパソコンを片付けて、もうひとつの部屋を片付けるよ。事務所を借りてそこに荷物を置くようにする」

「でも事務所を借りるのにお金がかかるでしょう」教師の安月給では都内に事務所を借りられないくらい分かっていた。

「お金のことなら心配しなくて大丈夫さ。それだけ稼ぐ自信はある。それよりも住まいと仕事部屋を一緒なのは、生活と仕事の区切りがつかない。何より晶子がいれば僕は仕事が手につかなくなりそうだ」

喜ばす言葉だ。そう言われてしまうと、彼女も反論しにくい。

「パソコンの仕事はこれから増えるし、いつかは事務所を持とうと決めていた。晶子と一緒になるのだったら、早く事務所を開いて仕事を本格的にしたい」

晶子も勇次の言うことはもっともだと思う。勇次と一緒になりたい、それはこの二日間の経験で思い知っていた。

どこで暮らすか、それもほぼ決まったようなもの。

後は晶子の5年間の思い出をどうするかだけとなった。


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