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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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17話 救出劇

「ユージ。小鹿先生が危ないぞ」パソコン作業に夢中になっている勇次は手が止まる。

「小鹿先生が?お前どうして分かる?また、覗きをしていたな」

「いや、覗きはしてない。ただ、先生がどんな生活をしているか分身を使って後を付けていただけだ」

「それが、ストーカーだ。それだって犯罪だぞ」

「そんなことはどうでもいい。先生は男たちによって、古い家に連れ込まれた。今すぐ助けないとあの先生はえらい目に遭うぞ」

そう聞くと、勇次は部屋を飛び出した。


勇次はマンションからコーツの道案内で最短距離を使い、廃屋まで走った。

路地の奥に廃墟があるのはこの近くに4年以上、住んでいるので知っている。

「ここだ。中には男4人と先生がいる。今にも乱暴されそうだ」

玄関のドアは男たちの手により閉められていた。中から、鍵でも掛けられたのかノブは回らない。

ユージは思い切りドアに体当たりをする。

「ドン」という物音と共に、ドアが丁番と一緒に外れた。もう柱から朽ちかけていて、相当腐朽していたらしい。

そのまま、居間まで駆け込んでいく。


その目の前にあったのは、一本のロウソクに照らされた、白い女性とそれを取り囲む野卑な男立だった。

一人の男はズボンを下ろし、汚い下半身をさらけ出していた。

その半裸の男が物音にぎょっとして、振り返る。

立ち上げかけると男のむき出しの膨張しきった男根が宙を向いている。

「こんな奴に先生を」勇次は何のためらいもなく男の急所を蹴り上げた。

「ぎえ」なんかの怪獣映画のような奇声を出して男がうずくまる。

それを見た残りの者は、晶子から手を離して、勇次に向かってきた。


最初に向かってきた男はナイフを持って、勇次を刺そうと突っかかって来た。凶器は怖いが、素人丸出しの動作で、伸ばしてくる腕の速度はカタツムリに近い。

身体をサッと躱すと、男の体は大きく泳いでしまう。

そこに片膝をぐっと上げ、みぞおちに叩きこんだ。

男は「ぐっ」と言う声と共に床に崩れ落ちていく。


次に、向かってきた奴もナイフを突きだしてきたが、やはり素人と言って良い。

同じように簡単に躱すと同時に、拳を顔面に叩き込んだ。

空手をしていたことで、勇次の拳や腕は人並み以上に太くて硬い。

それが顔面にカウンターで決まると、この男も堪らずナイフを落とし、床に突っ伏した。


最期に残った奴はこの中で闘技経験を唯一持っていた。三人が簡単に倒された事から用心深く、間合いを詰めながら、ジャブを繰り出してきた。

ボクシング経験が少しあるらしい。

だが、怒りで頭に昇った勇次はそんなことなどお構いなし、猛然と前蹴りを打ち込んだ。

男は片手で、顔面をガードしようとする素振りは見せたものの、蹴りが早く入った。

アッパーカットのように、男の下顎を捕える。

直撃を食らった男は、顔を大きくのけぞらせ、そのまま男は頭から後ろの壁に突っ込んだ。


勇次は中学時代に一度だけ、悪いグループに絡まれ、ケンカを起したことがある。この時は一瞬でリーダー格を足払いで倒し、それ以上の騒ぎにならなかった。

今回が勇次にとって初めての格闘であった。ただ、その結果はあっけなかった。一連の流れを文章にすると長いが、時間にして10秒もかかってない。

それでも油断なく見渡して見ると、男たちは誰一人立ち上がろうとともしてなかった。

下半身むき出しの奴は、急所を押さえ、うめき声を上げたまま。もう男の機能が失われたかもしれない。

みぞおちにケリを入れられた奴は、口から吐しゃ物を床にぶちまけている。

顔面パンチの奴は、鼻と口から血を吹き出している。多分鼻の骨は折れ、歯も数本欠けただろう。

そして壁にぶち当たった奴は、完全に気を失っていた。


ゆっくりと晶子に近寄り、「先生。大丈夫?」と声をかける。

「梶谷君?どうしてここに?」助かったのが、信じられない様子だ。

「話は後にしましょう。早くここから出るのが先決です」

それには晶子も同意だ。急いで、はぎ取られた服を探す。

下着とストッキングは切り刻まれ、身に着けることはできないが、上着もスカートも破れはあるが、ないよりはましだった。

ハンドバッグは見つけることが出来たが、靴は暗がりで見附けることはできない。おそらく連れ込まれた途中で、脱げたのだろう。

裸足のまま、立ち上がらせようとするが、痛さかショックからか腰に力が入らない。

抱き上げるようにして、肩を貸してやり、廃屋を出ることにした。

素足の晶子を地面で歩かせるのは無理そうで、表の通り迄、ほぼ抱き上げる格好で出ることになった。


「先生の住まいは?」

「○○よ」

「とても遠いですね。僕のマンションがすぐそこです。そこで休みませんか?」素早く考えを巡らせる。

警察か救急車を呼ぶべきなのだろうが、若い女性の無残な姿を見せたくはない。暴行事件にあったとすれば被害者は好奇の目に見られてしまう。

晶子は学校でどんな評判が立つのかもしれない。それなら、黙ってここを離れようと考えた。

「ええ、有難う」晶子も同意する。

通りに出ると直ぐにタクシーを拾うことができた。

「△△マンションに行ってください」急ぎ足なら5分見ればよい距離だ。

乗車拒否されるかも知れないと思ったが、運転手は晶子の服装を見て、すんなり乗せてくれた。

メーターも降りない距離だが、運転手は晶子の格好を判断して、何も聞かず乗せてくれたのは有難かった。

急いで乗り込むと、勇次も晶子も無言のままだ。

3分もかからず、マンションに着くと勇次は1000円札を出し、「すみません。シートを汚したかもしれないので、おつりは受け取ってください」

そう言うと、黙って運転手は走り去った。


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