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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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15話 小鹿晶子

勇次は近くの高校に進学した。

本当はすぐにでもパソコン教室などを開いて、実社会での経験を積みたかったのだが、妙子に止められた。

「勇次ではまだ社会から大人として扱われないわよ。高校に行って、子供の顔から大人の顔になるのを待った方がいい」

その考えに勇次も納得したのだ。


そして二年の新学期、「梶谷君。放課後、進路相談します。教室に残っていてください。」担任の女性教師の小鹿晶子から呼び止められた。

彼女は2年前から教え始めており、研修身習いを終えたばかりの新米さんだ。

そんな彼女が学級の担任になったのは、前任の教師が病気で倒れてしまい、急遽、受け持たされた。

まあ、勇次たちのクラスは問題となるような生徒もなく、受け持つのは容易と判断されたためだ。

それだけに、彼女は張り切って生徒に接しており、進路相談にも力を入れていた。


「梶谷君は進学しないようですが、君の成績なら良い大学でも普通に入れるはずよ。どうして進学しないの?」

正直言って、この学校の偏差値はあまり高くなく、大学に行く生徒も半数以下だ。

だから、教師として成績の良い生徒には進学を勧めていた。

まして、勇次の成績は共通試験で、都内でもトップクラスの成績だった。

この成績なら帝大や有名私立でも合格ラインに乗る。

学校の評判を上げるためにも勇次には進学してもらいたかった。

「去年も担任の先生に同じようなことを言われたのですが、僕は大学に行きません。」

「家庭の事情で行けないなら、奨学金制度もあるし、心配ないと思うけど」

「いや、僕は大学に行く価値がないと思っているからです。物理や化学などを研究したいのなら、大学に行くのも分かりますが、僕はソフトを深く理解したい。今の大学にはコンピューター科などありますが、そのレベルは民間のソフト会社に遠く及びません。」

「でも、民間会社に行くのなら、大学を卒業した方が良い会社に就職できるでしょう」

「いや、僕はソフト会社を自分で作ります。今、僕は多くのお客さんからパソコンの相談を受けていますが、その収入は月に30万になります。学校をやめて専門に仕事したなら収入はもっと増えます。」

そこまで聞くと、彼女はそれ以上進学を勧められなかった。


「いやあ、いい先生じゃないか。ユージのこと本当に気にかけているぞ」

進路相談が終わると直ぐにコーツが呼びかけてくる。

「コーツは小鹿先生が美人だからそう言っているだけだろう」

コーツは女性の判断を美人かブスで決めている。美醜の基準は勇次に起因するのでどうこう言えないのだが、あまりに極端だ。

「当り前だろう。女は顔だ。あの先生の顔はトップクラスだ。メガネを掛けているが、目鼻立ちがくっきりしているし、顔のバランスがちょうどいい。おまけに胸もお尻もデカいし、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。色気むんむんではないが、男心をくすぐらせる」

「コーツは男女の性別などないのだろう。それで男心と言うのは笑わせる」

「いいじゃないか。俺の感情はユージの影響を受けているんだ。結局ユージの潜在意識を俺が素直に出しているだけなんだぞ」

「コーツの美意識が私に起因しているとでもいうのか」

「そうだ。俺は勇次の体の中で、生きるということを改めて考えるようになった。何万年でも生きられれば、生きるという喜びは生まれないが、地球の生物のように寿命が短いと、生きると言うだけで喜びなどだと痛感したのだ。そのなかで、異性ともめぐり逢いは感情を高ぶらせる。特にあの女は気に入った」

「あきれたな。コーツがそんなにも入れ込むなんて。ただ、悪さはするなよ」そう言って釘を刺したのだが、コーツにはどれだけ効いたか分からなかった。


一方、勇次との面談を終えた後、晶子も考えに沈んでいた。

「決してネグラでもないし、浮いた存在ではないけど、梶谷君はクラスメートから距離があるように感じられる」

晶子は日頃から勇次の態度を観察していた。

勇次は成績優秀だが、それを鼻にかけることもなく、他の生徒と接し、普通に会話もしている。ただ、特に親しいと言える生徒はおらず、生徒会活動も、クラブ活動もしないで学校が終わると即座に帰宅している。

「スポーツでもクラス対抗のリレーレースに走るなど、スポーツも普通の子より優れている。どこにも欠点は無いのだけど、危うさを感じる。確かに大学に行っても、遊びに夢中になって、授業に碌に出ない学生もいて、何のために大学に来ているのか、考えてない子もいる。そんな生徒から比べれば、もうすでに、金を稼ぐことを考えているなんてしっかりしている。でも、16歳で金もうけしようなんて、早すぎる。お金だけに拘っているようで、それでは人生をつまらなくしてしまうのではないのか。彼はもっと友達と遊び、楽しむことも必要ではないのかな」

そんな風にして見ていた。


彼女は教師になって日が浅いことから、教師生活のマンネリ感に囚われず、純粋に生徒を導こうと考えていた。「できるだけ、生徒に希望を持って、良い進路を進ませたい。」それが彼女の方針だ。

そんな中で、勇次の存在はやはり気になってしまう。

「あれだけ頭が良くて、スポーツ万能なら、もっとやれることもあるんじゃないの。今から、パソコンだけに夢中なんてもったいない」

それは彼女がまだ学生気質を残していた考えでもある。

彼女も一通りにはパソコン操作ができ、パソコンの便利さを理解はしているが、パソコンばかりしている者をゲームオタクと同一視するきらいがある。

パソコンにのめり込む人間を奇異に見がちだった。

それでも勇次だけは特別な生徒として見るようにもなっていた。


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