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私の中の怪物  作者: 寿和丸
2部 少年から大人へ
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14話 思春期

中学になると、妙子は勇次を連れて、都内のマンションに越した。

別に佐藤夫婦と問題があったのではなく、妙子の事業が軌道に乗り、拡張するためだった。

OL時代から妙子はいつか独立して、店を経営してみようと研究していた。

そして勇次に手がかからなくなると、思い切って渋谷にブティック店を開いた。

最初から全て順調だった訳ではないが、商品の展示や品ぞろえを吟味したことで固定客をつかむことができた。

このお得意様の口コミと、派手ではないがちょっと気になる広告手法により、次第に評判を呼んでいく。

開店から、10年目で都内に3店舗、大阪、仙台、福岡、札幌に支店をだすまでになった。

これだけ、事業が拡大したことで、田舎からでは都内の店と離れすぎており、住まいを変えたのだ。

「ここの屋敷はずっと守っていきます」佐藤夫婦にはそのまま田舎に暮らしてもらい、勇次とマンション暮らしを始めた。

勇次も中学に上がり、学区を変えるのも都合よかった。


その勇次だが、中学になるとあれだけ熱中していた空手をふっつりとやめた。

「空手を習ったのは、ある程度強くないと身を守れないからだ。これ以上強くなっても、意味ないし金もうけもできない」

「ユージは金儲けしたいのか?政治家を目指すのではないのか?」

「もう政治家は十分やったし、今度は事業を起こしたいと思っている」

妙子はなかなかの実業家で、稼ぎも大きく、勇次への小遣いも多かった。

小遣いに不満はないが、勇次は自分でも早く独立して、事業を起こしたいと考えていた。

「私は勇策時代に様々な経験をしてきた。外見は子供でも、中身は大人だ。子供としていつまでも妙子に小遣いを貰っているようでは情けない。小学生なら、周囲は相手にしないが、中学生ならバイトも認められる。」

そう考えて始めたのが、パソコンの製作や修理、インターネットの接続など教えることだった。

この頃はパソコンが普及しだして、各家庭にも普通にあった。

ただ、使いこなせている人はそう多くはいない。

年配者ではパソコンに興味あるが、面倒臭そうと言う理由で敬遠されがちだった。

そんな人たちに勇次は丁寧にパソコンを教えてやった。

「インターネットを業者に頼んだけど、上手くつながらないんだ」

そんな相談があって、見に行くと、ルーターの接続がきちんとされてなかっただけだった。

そんな簡単なことでも、初めてのことでは戸惑う人が多く、修理や相談の依頼がよく来るようになり、結構な小遣い以上の収入を得られるようになった。


その一方で体が大きくなり、それに伴って第二次性徴が現れた。

髭が濃くなり、性器などにも変化が出る。

勇次は勇策の記憶があるから、別に驚く事でなかったが、コーツが大きな影響を受けた。

もともと怪物には男女の性別などがない。寄生して相手の能力を奪い取ることで進化してきた。

だから、男性として成長することに、驚き、また興味が湧いたのだ。

「オスとメスの性別ができ、互いに遺伝子を分け合うことで地球上の生物は進化をしてきた。男女の別とはこういうものだったのか」

「そのことは、本で知識として分かっていたことだろう」

「本で仕入れたことと、自分が体験することは違う。この高揚感は性に目覚めて始めて分かる」

もう一つコーツは勇次の生命力を得て、分身が出来るようになっていた。核心部が壊れて、寄生主を変えることはできないが、分身を作り出し、外に出られるようになっていた。


中学2年の頃、そのコーツが悪さをするようになった。

マンションの住人で、容姿の整った女性を見ると、分身を放ち、女性の後を付けたのだ。

その後、女性の部屋に分身を忍び込ませ、入浴中の女性の裸身を覗き込んだ。

最初は気づかなかったが、いつになく興奮して感情が高ぶっているコーツを怪しみ、勇次は問いただした。

それで、コーツの悪事がばれた。3人ぐらいの女性の裸をのぞき見していたようだった。

「呆れた奴だな。そんなことして面白いのか?」

「どうもな。若くて綺麗な女を見ると、無性に裸を見たくなったんだ」

どうやら、コーツも少年の思春期にありがちな悪戯をしてしまったようだ。

「俺のクラスの女の子を覗きはしなかったんだよな」

「ああ、彼女たちはまだ、女として魅力がない」

「いやいや、魅力あればクラスメートも覗こうとしたのか。あぶないとこだったじゃないか。」

クラスの女子にも可愛い子はいるが、まだ女性の色気は感じられなかったようだ。

「大人の女性なら、おふくろの裸には興味ないのかよ」

「うん、ない。多分だがユージが妙子を性の対象と見ないことが関係していると思う」

人間には近親相姦を禁忌としている。多くの宗教でも近親相姦は忌み嫌われ、罰則を設けていることもある。これは近い者同士の婚姻によって、似通った遺伝子が重なり、障害を負った子が生まれやすくなることを経験的に分かっていたから、タブーにしたと言われている。

コーツも勇次と考えを共通にしていることから自然とタブーが身についていたのだろう。

「まあとにかく、女性の裸を覗こうなんてもうするなよ」被害者に気付かれなかったようだし、騒ぎたてるのも女性の感情を損ねるだけだ。それ以上のことは言わなかった。

それからはコーツの悪さはなくなった。


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