8. 秘められし才能
「もう来たのか」
声が聞こえる。知らない声だ。
(――あれ、でも聞いたことがあるような……?)
目の開けると、そこには淡い光がゆらゆらと浮いている。
「え、えっ?」
「二度目なのに同じ反応だな」
その声は光から聞こえる。覚えている、忘れるはずがない。
美しい夜空と鮮やかな赤い花の大地。そして、精霊と名乗った淡い光。
「どうして? 次は助けられないって……」
「ああ、助けられない。だが、死ぬ前に現れないとは言ってないぞ」
「そう…だよね……」
少し期待したが、それは間違いだろう。死を覚悟して行動したのだから、結果を受け入れるのは当然である。もちろん後悔は無い。
しかし、この空間に来てしまったからには、精霊について何も知らないで死ぬのは悔いになりそうだ。
「精霊さんは、魔法の精霊さんなの?」
「魔法?――ああ、そう呼ぶ人間もいたな。正確には『マナ』を司る精霊だ。魔法の本当の呼び名をマナと言う」
マナと呼ぶのは初めて聞いた。
まさか死ぬ前にそんなことを知れるとは思わなかった。せっかくだし色々と聞きたくなってしまう。
「じゃあ、どうして二年前に私を助けてくれたの? 私、魔法の才能無いのに?」
「それは違うな。お前は誰よりも高い適性を持っている。今までマナを扱えた人間の中でも二番目だな」
「えっ、でも私、魔法使えないよ?」
「強すぎる能力に身体が耐えられないんだ。だから本能的にマナが扱えない。せめて、あと二年は成長しないと無理だな」
衝撃的な真実である。
あと二年あれば自分は魔法使いになれた。しかも、強い魔法が使える魔法使いに。でも、二年は待てない。家族を守れない力に意味なんてない……。
「私の才能がもっと普通だったら、魔法を使ってパパとママを助けられたのかな……」
知ってしまった。だからこそ感じる未練である。
「普通の子どもが扱えるマナでは何一つとして結果は変わらない。気にするな」
「精霊さん……ありがとう」
まさか精霊さんに励ましてもらえるとは思わなかった。
二年前は命も助けてくれたし、優しい精霊さんだと思う。
「あれ? でも私を助けてくれた理由は?」
「それはだな……、かつて人々を救い、聖女と呼ばれた人が目指した世界、それを実現したい。
そしてお前にはそれだけの力があった。だから、死なせるのは惜しいと思い、お前の意思を確認して助けた」
「そうだったんだ。でも断ってたらどうしたの?」
「無理な干渉はしない。嫌々協力させても良い結果にはならないからな」
目的があって助けてくれた。そして、それに応えるだけの力があった。
自分の選択に後悔は無くても、死を選んだことに申し訳なくなる。
「ごめんなさい。せっかく助けてもらったのに。私、力になれなくて……」
「何度も言うが、無理に協力させる気はない。力を貸したのは、こちらの都合だ。恩を感じる必要はないぞ」
それでも、助けてくれたからこの二年があった。感謝するのは当然だと思う。
(少しでも役に立ちたかったな……)
僅かに心残りができる。だが、今の自分に力は無い。
「喋りすぎたな、忘れてくれ。
――さて本題だが、死ぬ前にマナを使ってみたいか?」
「えっ? さっき使えないって……」
「本能的に使えないだけで手はある。それで、どうする?」
「どうせなら最期に使ってみたい!」
「それならマナを使って魔物を殺せ。無理に力を使うから全身が痛むと思うが、魔物の餌になるよりはマシだろ?」
「ありがとう。やっぱり精霊さんは優しいね!」
助けられなくても、せめて楽に死ねるように考えてくれたようだ。
「それで、どうすれば良いの?」
「意識が戻ったら魔物に殺意を向けろ。それだけだ」
「えっ?それだけ?」
「ああ、それで充分だ」
「……分かった。頑張ってみる! 精霊さん、助けてくれてありがとう。今回も二年前も感謝してるから。本当にありがとう!」
「感謝は不要だと言った気がするが、まあ良いか。上手くやれよ」
淡い光が細かな粒子になると、左手に吸い込まれるように消えていく。そして、光が完全消えると意識が薄れていった。
次→3日以内