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6. 家族と最高の幸せ



 救いの手を取り、私は家族になった。

 最初は戸惑いもあったけれど、一年暮らす頃には、もうひとつの家族。血は繋がっていなくても本当の家族だと感じていた。



 この村では森の動物を狩ったり、野菜を育て暮らしている。

 おじいちゃんは主に狩りして生活していたので、少しでも役に立てるように狩りのコツを教えてもらおうとしたら、五年は早いと断られたので、この一年は自宅の横で畑を作る作業に時間を費やした。

 村の人たちも、私を優しく受け入れてくれて、畑についても色々教えてくれたおかげで立派な畑になったと思う。


 毎日が楽しくて幸せな日々。これからもずっと続く、そう思っていた。



     *     *



 月日は流れ、この村で暮らし始めてから明日で二年になる。


「おじいちゃん、おはよう! 今日はもう出かけるの?」

「ああ、今夜は精霊祭だからな。大きい獲物を狙って狩りに行ってくる。昼までには戻るから、昼食は頼んだぞ」

「うん! 頑張ってね」


 精霊祭とは、魔法を司る精霊に感謝をする日である。中立都市と呼ばれる場所では精霊に祈りを捧げているが、小さな村では夕食が豪華になる程度の日であった。


 二年前に両親を失った日でもあるが、あの夜、精霊と名乗る存在が助けてくれたのは間違いない。だから、感謝の気持ちを届けたいと思ったトキカは、毎年この日に祈りを捧げようと決めていた。


(精霊さん、村には神殿が無いのからお部屋からでごめんなさい。

 ――あの日、私を助けてくれてありがとう。おかげさまで新しい家族と幸せに暮らせてます。この恩はずっと忘れません)


 いつか、ちゃんと神殿で祈りを捧げよう。そんなことを考えながら祈り続けた。


     *     *


「ただいま」


 おじいちゃんが帰ってきた。

 ちょうど昼食が出来上がったタイミングだったので、さっそく食事の用意を始めたが、おじいちゃんの表情は暗かった。


「何か、あったの……?」


 確実に良い内容ではない。それどころか、とても嫌な予感がしてくる。


「狩りは問題なかったんだが、帰りに村の近くで大きな足跡を見つけてな。あれは魔物だと思うが、あんなに大きな足跡は見たことが無い」

「魔物……、村は大丈夫なの?」


「壁は破れないはずだ。しかし、相当大きい魔物だろう。狩るのは、村の狩人が力を合わせても無理かもしれんな……」

「やっぱり魔物は危険なんだ……」


「そうか、トキカは見たことなかったな。魔物は、野生動物と外見に大きな違いはないが、サイズが一回り大きい個体だ。今回の足跡は一回りどころではなかったが……」

「大きい動物? 大きいだけでそんなに危険なの?」


「見た目は同じでも動きが違う。魔物は、魔法を使って人を襲う」

「魔法!?」


 人間でも使い手が少ないのに、まさか動物が使ってくるとは思っていなかった。

 魔法で人を殺す存在……、二年前の光景を考えれば魔法を使う相手が、どれだけ危険な存在か理解できた。

 村から出なければ安全とはいえ、これでは狩りをするリスクが高くなるのだから、おじいちゃんが心配になる。


「安心しなさい。狩るのは無理だとしても、狩人たちで協力して魔物は遠くに追い払うから、そう心配するな」


 不安が顔に出ていたのだろうか? そして、それを安心させるかのように、おじいちゃんは頭を撫でてくれた。



 気を取り直して、昼食にしようと席に着く。すると、その瞬間に轟音と共に地面が揺れる。


「えっ……な、なに?」


 驚愕きょうがく よりも恐怖を感じる。まるで死の危険を告げるかのように身体が震えていた。


「まさか!」


 おじいちゃんは慌てて家から飛び出していったので後を追った。

 家から出ると、外では村の人たちが揃って同じ方向を見ている。視線をたどるように振り向くと、村の入口にある門が崩れ落ちていた。


 誰もが信じられない光景に立ち尽くしている。

 そして、破壊された門の先には大きな獣がいた。


「な、なにあれ、熊? でも、大きすぎる……もしかして魔物なの?」


 熊に見えるが異常なほど巨大で、一回り大きいどころか倍以上はある。あんなの勝てるはずがない。

 あれだけ大きいなら普通の熊でも尋常じゃない被害になる。そこに魔法が加わればどうなるのか予想できない。


「門を破壊するだけの力があるのか……。トキカ、早く地下室に逃げなさい。村人が逃げ終わるまで時間を稼ぐから、早く!」


 そう言い残しておじいちゃんは走っていき、他の狩人と協力して魔物に向かっていく。

 自分はまた助けられる側だ。

 何か出来ることはないか、と考えたが、無力なのは自分が一番理解している。

 だから、今は一刻も早く逃げるのが役目だと自分に言い聞かせて、地下を目指して走り始めた。


 村の端に小屋があり、その中に地下まで続く階段がある。

 地下室には、不作に備えて食糧の保管がしてあり、非常時には村から少し離れた場所まで逃げられる通路も用意されていると聞かされていた。


 誰もが、あの魔物には勝てないことを理解して、村を破壊されてでも生き延びることを選択し、地下に逃げていく。

 早く逃げなければ。村人が逃げ終わらなければ狩人が逃げられない。

 あれほど大きな相手では時間稼ぎも長くは続かないだろう。

 生きていれば必ずやり直せる。だから、全員で生き延びる。そう信じて、地下に繋がる階段を降りた。


次→翌日

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